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『どうする家康』第27回『安土城の決闘』&第28回『本能寺の変』感想(ネタバレ有)

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久しぶりの『どうする家康』レビューですが、本編が先週先々週と全く同じ失敗を繰り返しておりまして、一言でまとめると、

 

余計な創作を詰め込み過ぎて物語の整合性を自分でブチ壊している

 

と言えると思います。

まず、先々週は主人公が十兵衛を排除するために企てた前半の鯉の件は『お、有名な逸話を上手くアレンジしとるやんけ!』と好印象を抱きましたが、後半で信長相手に本音ブチ撒けたのが大いに減点。確かに信長本人は毎夜毎夜、暗殺の悪夢に魘されるレベルの『変われる者なら誰かに変わって欲しい』と願う自暴自棄の心境にあるとはいえ、それが本心か否か第三者には判断がつきかねる以上、あの場で『兎が狼を食らってやる』と告げるのは誅殺の口実を与えるようなモノじゃないですか。折角、主人公が瀬名の犠牲で覚醒したのですから、ここは家康が狸芝居でのらりくらりと信長の挑発(乃至は心理的SOS信号)を躱すシーンが見たかった……というか、それくらいしないと瀬名をあそこまで大々的に退場させた意味がないと思うのですが……。

そして、今週も序盤の家康の堺訪問を観光ではなく、信長没後を見据えた政財界への根回しという解釈は巧かったと思います。まぁ、作中では今まで中央との接点が殆どない家康がポッと出であれこれ政治工作を試みたところで、所詮は付け焼き刃ではないかと思いますが、これに関しては実際に謀叛を起こした十兵衛の根回しも大概ガバガバでしたので、ある意味でリアリティ重視の作劇と言えなくもありません。ただ、お市と再会して以降の展開はグダグダの極み。直前まで信長絶対殺すマンになっていた家康が、お市に『貴方様は兄のたった一人の友』と言われたくらいで賢者モードになってしまうのはイカンでしょ。お前の瀬名への想いと信長への怨みは、その程度のモノやったんかい? 今まで一つの方向にフルスロットルで爆走していたストーリーを、ただ一人のキャラクターの裏打ちのない二言三言で全く逆方向に振り向けようとされても、視聴者はついていけないよ。

前回といい、今回といい、キャラクターの余計な心情吐露のシーンは全カットして、シンプルに『明智に信長討伐の先を越されて窮地に陥る家康』という流れでよかったんじゃあないでしょうか。そして、カットした分の尺は家康による本能寺の変未遂事件のリアリティの肉づけに費やすべきであったと思います。堺衆への根回し描写の強化、ほぼほぼヴィジュアルのインパクトのみで終わった古田義昭を再登場させて前将軍に謀叛の正当性を担保して貰う密謀外交シーン、或いは秀吉の元に密使を走らせての信長挟撃計画の立案etc.etc.……。勿論、これらは史実にはないものばかりですが、創作で突拍子もないことを描くことは間違いではありません。寧ろ、推奨されるべきです。問題は、

 

突拍子もない創作を有り得たかも知れない仮説として成立させるための描写が不足していた

 

ことでしょう。そもそも、十兵衛に先を越されたくらいでアッサリ詰む程度の手勢しかいない時点で、ストーリーに無理があるとしか思えないのよね。充分な兵力のアテがあったのに十兵衛の挙兵で合流出来なくなったとか、ハナから天下を取る気はなくて信長と刺し違える覚悟であったとか、そこにキチンとした理由づけがなくては見るほうもストーリーに集中出来ないのよ。姉川の戦いの時も『そこで織田から離反してもどうやって三河に帰るんだよ』と思いましたが、あの時はまだ数千単位の軍勢がいたのに対して、今回は半蔵子飼の部下数百が関の山でしたからねぇ。先述のように十兵衛による本能寺の変自体が行き当たりばったりの典型で、更に嘉吉の変とかいう先例を見ると謀叛の本質とはそういうものかも知れませんが、そこは歴史に甘えちゃいかんのよ。物語には一定の整合性が必要な訳で、出まかせでも辻褄があえばそれに越したことはないですが、辻褄の合わない出まかせはタダのデタラメと言われても仕方がないんじゃあないでしょうか。

更につけ加えると、家康による本能寺の変という着想の面白さはあり、鯉の件とか家康の堺訪問の真意とか、その方向性で順当にストーリーを掘り下げてくれれば、充分な布石や伏線や新たな歴史解釈に繋がる要素はキチンとあるにも拘わらず、それをせずに全く方向性の異なるエピソードをあれこれと付け足して説得力を削ってしまうのが本作の悪癖ですね。方向性の違いが物語の領域を押し広げるのではなく、お互いの説得力を打ち消し合ってしまっているのですよ。最悪でも前回の信長&家康の心情吐露や、今回のお市との邂逅などの余計な要素を排除しておけば、鯉エピ~堺訪問~十兵衛に先を越される~伊賀越えだけで最低限のストーリーは成立したと思います。先週今週は見ていてそのまま素直に真下へ落とせばええねんと何度突っ込んだことか。

 

あと、ここからは完全な個人的意見になりますけど、俺が本作で見たかったのは、

 

本能寺で明智の大軍相手にステゴロ無双するオカジュン信長

 

だったんですよ。序盤の信長主催の虎の穴スパーリングや『明鏡止水~武のKAMIWAZA~』プッシュとかを鑑みたら、絶対にそれを期待するじゃん? 『功名が辻』のあぶ長様とは真逆の方向性(飛び道具とスデゴロの違い)のトンデモ本能寺が見たいじゃん? ぶっちゃけ、尺の半分くらいは素手で明智兵をバッタバッタと薙ぎ倒すオカジュンのシーンでよかったのに……まぁ、敵を数人まとめて串刺しにしたあとで森乱から新たな槍を受け取る姿は『蒼天航路』の呂布を思わせて好きでしたけど。

それと伊賀越えで家康が信長直伝の魔性の胴締めチョークスリーパーで窮地を脱するシーンも好きでした。人質時代には信長による壊れるほど愛しても1/3も伝わらないスパルタ教育で耳を開発され、成人以降もいいようにコキ使われたり、妻子を失う遠因の一つとなったりと散々な目に遭わされましたが、一つくらいは家康のためになることをした訳ですね。あとは本能寺の変を信長と家康のBL設定にして、その間で十兵衛がひどい目に遭うという展開も好き。『白兎、早く来ないかなぁ……』とウッキウキで外に出たら待ち受けていたのがキンカンで『何だ、お前か!(台詞ママ)』とガッカリする信長可愛い。薔薇の間に挟まる男には天罰覿面だね。仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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