『瀬名、覚醒』から一カ月ほどしょんもない回が続いていた『どうする家康』でしたが、今週は文句なしの出来栄えでした。本作の中でも『守るべきもの』や『三方ヶ原合戦』に比肩する現時点のベスト3エピソードであり、個人的には『真田丸』は勿論、滝田版『徳川家康』をも越えた至高の伊賀越え回と評してよいでしょう。いや、滝田版も主人公が雪斎の亡霊と共に神妙な面持ちで伊賀越えをするシーンが無自覚のギャグで最高に面白かったのですが、本作はキチンと笑わせにきたネタが全てツボるという奇跡のようなステージ。パッと思いつくだけでも、
悪事を顔で判断される十兵衛
大根に齧りつく『武蔵』リスペクトな主人公
本心から歓迎していたタラちゃん
毒見ってレベルじゃない勢いでモリモリ食う半蔵
伊賀で服部の家名が悉く通用しない半蔵
成長著しいモモちん(26)
腕利きの軍師……一体、何多正信なんだ(すっとぼけ)
モモちん「知らん奴の息子は知らん」
松本まりか「俺が家康!」
左衛門尉「正信のいう通りじゃ……正信ゥ?」のノリツッコミ
大鼠に側室プロポーズをして腹パンを食らう半蔵
と全部のネタで爆笑してしまいました。一番好きなのは『くっ、イチジクなどには屈しない!』からの『やっぱりイチジクには勝てなかったよ……』と即落ちする家康。伊賀越え&甲賀衆が主人公ということで対魔忍ネタを意識したエピソードであったと思います。思えない?
勿論、単なるギャグ回ではなく、家康の主君としての器が描かれたのも高評価出来る理由の一つ。結果的に何の役にも立たなかった半蔵一党に対して、キチンと謝意と報酬を提示したことは、功績や戦功が全ての考査基準という信長の姿勢とは一線を画するものでしょう。ここは素直に家康に感情移入出来るシーンでした。また、今回のキーパーソンであるモモちん(26)も家康や正信の信長生存説を頭から信じた訳ではなく、両名の関係性や十中八九ブラフと看破したうえで、敢えて口車に乗る方策を選ぶというのも、関係者全員の株を落とさない描写でよかった。伊賀越えシーンでは松潤がバッサバッサと敵を斬り捨てていくのも好感度高い。本作は不満も多いけど、戦闘シーン(≠合戦シーン)の迫力はガチよな。あと、ラストシーンで秀吉が光秀の首級を見て『今までで一番いい顔』と評したのは、要するに光秀は生きている間は安心出来ない人物という意味ではないかと思いました。こういう解釈の余地がある台詞は好きです。
しかし、何よりもよかったのは本作特有の悪癖がほぼほぼなかったことでしょうか。善かれ悪しかれ強引でアクの強いストーリーに定評がある本作ですが、今回の放送で本作の欠点が今まで以上に鮮明化したと思います。
まず、唐突な過去編やオリジナルエピソード。前回の信長や『氏真』でのファンタジスタのように、その人物のクライマックス回で突然前触れもなくキャラクターを掘り下げるアレは、クライマックスシーンのリズムが悪くなるうえに後出しジャンケン感が拭えません。ストーリーのどんでん返しとは全ての情報を何らかの形で開示することでフェアネスを担保するものであり、それを欠いた作劇はデタラメかコジツケの批判は免れ得ないでしょう。実際、今回の放送で楽しめた半蔵や正信のネタの多くは序盤から地道に撒いてきた布石が結実したものでした。キチンと手順を踏んだ過去ネタやエピソードは面白くなると実証したと言えます。
次に不必要なストーリーのヒネリ。これは前項の唐突な過去編に通じるものがありますが、それだけで充分に話が通じるにも拘わらず、それらと全く方向性の異なるエピソードをあれこれと付け足して説得力とリズム感を失ってしまう傾向があります。真・三方ヶ原合戦の夏目さんの過去編とか、白塗り義昭とか、土壇場で一度は心が折れてしまう強右衛門とかそんなのなくてもいいから素直に真下に落とせよと思うことが一再でない。今回も穴山梅雪に関する唐突な過去編や、彼が打ち取られる際に『瀬名殿……!』と言い残すシーンが挿入される可能性が充分に考えられる状況でしたが、よく思い留まってサラリと退場させたと思います。おかげで全体のテンポがめっちゃスムーズでギャグシーンのキレが増しました。
そして、主張が強過ぎるオリキャラ&オリジナル設定。オリキャラやオリジナル設定自体を否定する気はありませんが、そこは全体のバランスを考えて貰いたい訳で、金ヶ崎の戦いそっちのけで爆走した阿月や、唐突な東国共栄圏をブチあげる瀬名、西郡局の百合設定などはそれを描く前にやることがあるだろとの思いを禁じ得なかったのも事実。しかしながら、今回は家康がモモちんに捕えられるという意外性のあるストーリーを『当時は牢人中の本多正信』と『信長の首級が見つかっていない』という『事実』をテコにゴロリと転がして見せました。キャラや設定やストーリーは荒唐無稽でも、それを動かす要素はあくまでも史実という地面に足をつけていて貰いたいもの。
記事の後半は今回の面白さに甘えたダメ出しになってしまいましたが、この3点を避けていけばまだまだ本作は充分に面白くなる素地はあるのを再確認出来たのが一番の収穫であったと思います。ただ、来週は上記の3点以外の、
瀬名と市が絡むと脚本が雑になる
という本作のもう一つの欠点がモロに出るパートなので、過剰な期待はせずにおきたい。まぁ、瀬名に関しては全体の構成上、推すのは判らんでもないけど、お市はそこまでしてストーリーに絡ませる必要のあるキャラクターでもないよね。『レジェバタ』とのバーターという勘繰りが囁かれるのも判る気がしないでもない。