パスタというよりは餅に近い食感で、最後の一口が入らないこと請け合いのヴァイオレットちゃん特製カルボナーラ。あからさまなシェフ大泉リスペクトなパスタに全どうでしょう藩士が泣いた(笑い過ぎて)。創作意欲が湧かないからと『港で印刷用紙を買ってこい&夕食はカルボナーラじゃないと食わない』と、少しでも〆切引き延ばすために真夜中に『スイカ食いたい』とワガママを言って編集者を困らせた手塚御大を彷彿とさせるウェブスター氏でしたが、まさかのビーフンパスタという竹箆返しが待っていた模様。ヴァイオレットちゃんが来てから飛躍的に執筆速度が向上したのは、ヴァイオレットちゃんに創作意欲を刺激された以上に『このままだと(栄養的に)死ぬ』という生物学的な本能が働いたからかも知れません。ちなみにシェフ大泉による本家本元のビーフンパスタがこちら。
随分と似ているでしょう? 全13話のアニメを2時間に収めなければならないという無茶振りにも拘わらず、メインストーリーと関係のないヴァイオレットちゃんのメシマズエピソードを拾ってくるなんて……おかしいですよ、編集スタッフさん!(いい意味で)。
さて、Twitterを中心に放送当日は結構話題となった金曜ロードショー『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』特別編集版。先述のように全13話のアニメを2時間枠に収める無茶振りということで、実は相当ヤバいことになるんじゃあないかと事前に少なからず不安視していましたが、実際の放送を見たかぎりでは2時間枠という大前提の中では最も理想的な編集であったと思います。開幕時、金ロー御馴染みのサッシャ&朴姐さんの解説完全カットで本編からスタートしたのも『シンプルに尺がない』という事情と同じくらいに、深夜アニメに馴染みや予備知識のない視聴者でも物語の世界に引き込み得るという確固たる自信の表れであったのかも知れません。
私も視聴時に危うく忘れそうになりましたが、もともと本作は週1&ワンクールで放送されていたTVアニメなのに、作画動画演出構成がエグ過ぎて生半可な劇場作品よりも映画らしく見えるのが怖かったですね。ウェブスター氏の前で烈海王さながらの水面歩行を見せるヴァイオレットちゃんの息を吞む美しさは勿論、社長の綺麗な子安から自動手記人形になりたい動機を聞かれたヴァイオレットちゃんが『愛しているを知りたい』と答える場面に時計の画と音を被せることで、戦争で止まっていた彼女の人生が動き出したことを表す演出、舞台の上手下手を意識したキャラクターの向きと立ち位置、アンに大人の話を聞かせまいと作り笑顔を浮かべる親戚のおばちゃんの一瞬の表情筋の変化で、この先に待ち受ける不吉な展開を暗示する……etc.etc.と映像的な表現力がズバ抜けているのよ。
あと、総集編ということで尺の都合上、削られた場面が多かったのが逆にプラスに働いた要素もあったと思う。初期ヴァイオレットちゃんのKYさって、彼女じゃなかったら殴りつけてやろうかと思わせるシーンが結構あるのよね。序盤でアイリスの故郷を共に訪れる回は(本人に悪気はないとはいえ)見ていてストレス溜まる言動が多かったので、この辺は新規顧客向けの2時間一本勝負という今回のシチュエーションを考えると、視聴者になるべく負担を掛けない構成にしたのは正解であったと思います。
まぁ、一方で『ここは削らないで欲しかったなぁ』という場面が結構あったのも確かで、ヴァイオレットちゃんがギルベルトの幻影に『多くの命を奪った手で、人を結ぶ手紙を書くのか?』と皮肉られるの、あれはこれもカットされたシャルロッテ王女の依頼後にギルベルトのクソ兄貴から言われた台詞なんだよなぁ。あれだとギルベルトがあんなキッツイ台詞をいうイヤミなキャラに思えてしまうのよ。本物のギルベルトはそんな毒舌を吐く度胸も甲斐性もないヘタレだからね。そういや、シャルロッテ王女の件もやって欲しかった。実はあれが一番好きなエピソードなんよ。ラストシーンの、シャルロッテ王女の繊手と侍女アルベルタの節くれ立った手の対比がいいんですよ。これも画で二人の立場と関係性を描ききった名作。今回の放送で興味を抱かれた方は是非、御覧頂きたい。
そして、今回のメインイベントにして、至高回の呼び声も高いアン編を(恐らくは)ほぼほぼノーカットで放送してくれたのも英断オブ英断。以前記事で書いたように内容は、
ほぼ『天国からのビデオレター』
なんですけれども、これをアンの物語ではなく、登場時には人間らしい感情を欠落していたヴァイオレットが、依頼人の母娘の悲しみを察せられるほどになった主人公の成長を示す要素として、物語のフレームを自分のストーリーに綺麗に落とし込んだのが巧かった。『あの』ヴァイオレットちゃんが自分のためではなく、他人を思って涙を流せるようになった。しかも、依頼人の前では必死に涙を堪えていたというのが泣かせるやん。実際、リアタイ視聴時のワイもアンのその後の描写では泣かなかったのに、ヴァイオレットちゃんが今まで堪えて来た涙を溢れ出した場面で目から鼻水ダッラダラになったからなぁ。
それこそ、他作品との類似に関しては、
戦争後遺症を抱えた兵士の社会復帰……『ランボー』
日常生活に馴染めない軍人……『フルメタルパニック』
自身の犯した過ちへの償いと決意……『るろうに剣心』
と幾らでも類似点を探すことが出来ますが、この21世紀に全く過去作の影響を受けない完全オリジナル作品なんてものはあり得ないので、その辺を穿り返すのは野暮でしょう。ヴァイオレットちゃんが手袋を外すと依頼人がザワッとするのも、主人公の存在をゲストキャラクターに印象づける一つのパターンであり、浅見光彦シリーズで今まで主人公をゾンザイに扱ってきた県警の刑事が刑事局長の弟と知った途端に掌グルングルンするのとよく似ていますね。まぁ、個人的にヴァイオレットちゃんに一番似ているのは、
自分の黒歴史を思い出して死にたくなっている『わたモテ』のもこっち
だと思っていますが。