『来週はワクチン接種なので更新はお休みか、大河関連の企画記事にします』と言った舌の根も乾かないうちに全く別の話題を取りあげるのは忸怩たる思いがない訳ではありませんが、一応、時事ネタに属するので早目にいっちょ噛みしておくに越したことはないと考え、軽く触れておくことにします。
私の書く文章に影響を与えた人物という点は島本和彦に匹敵するエッセイストとしてのオーケン。本業の作家や随筆家ではなく、漫画家やロックミュージシャンに文章を学んでいる時点で色々とアレな気がしないではありませんが、私的にはオーケン並みに面白いエッセイストは司馬さんくらいしか思いつかないので仕方ありません。『四角いジャングルノート』にはプロレスの楽しみ方を学びました。レスラー右脳人間説すこ。破壊王の蹴りを食らって、リング上で『痛ぇ~~!』と悲鳴をあげた中西学も右脳レスラーの典型だと思います。ミュージシャンのエッセイでプロレスの見方を勉強するのもおかしな話ですが、一応、ミュージシャンらしい内容もキチンとあるのでご安心下さい……というか、今回の主題はオーケンのロック論です。詳細は現物をお読み頂くとして、要点を掻い摘んで説明すると、
「若者の感情を爆発させるオピニオンリーダー&カウンターカルチャーの寿命は決して長くはない」
「ロックンロールも『若者覚醒音楽』の役割を果たしてきたが、嘗てのジャズやマンボやジルバのように、その使命を終えつつある」
「今後のロックは自らのスタイルを能や狂言のように伝統文化として後世に伝えるのが使命であり、そのためには体制や巨大資本の庇護が不可欠になる」
「一方でロックは『反体制』をテーマとして出発したジャンルであり、長い物には巻かれるなと主張してきた文化が、今後は長いものに巻かれないと生き延びられないという矛盾を孕んでいる」
「これは本来、断罪されねばならない大いなる欺瞞であるが、自分は理想に固執して滅びるよりは、形骸と化してもロックのスタイルが残ることを選びたい」
という趣旨です。ちなみに本著が発売されたのは1993年ですが、それから30年近くが経過した2021年現在、何処かで何かがあったことを思い出した方もおられるのではないでしょうか。そう、それです、もうおわかりですね。
反体制をテーマに出発したロックというジャンルに経済産業省の補助金が投入され、そこに出演したロッカーの口から体制批判の即興歌が飛び出すとか、オーケンがいうところの長い物に巻かれながら長い物に巻かれるなと主張する典型事案で、まさに断罪されねばならない大いなる欺瞞と評して問題ないでしょう。これもオーケンのエッセイを引用すると、
「あんた言ってることとやってることが違うやんけ!」
の一言に尽きます。
尤も、私はこの点でロックフェスを批判する気は毛頭ありません。成程、オーケンの予言は210%正しかった訳ですが、ロックが体制の庇護を受けながらの予定調和的反抗を提唱するスタイルに転向したのは、これもオーケンが分析したように文化的生存本能に基づく歴史の必然であり、嘗ての若者のオピニオンリーダーのポジションから、音楽ジャンルの一つに落ち着いただけのこと。ティーンエイジャーやアマチュアバンドではあるまいし、四十を越えたプロのミュージシャンが現代のロックが内包する構造的矛盾に気づかない筈がないので、上記の体制批判の即興歌もロックの形式的なスタイルに忠実たらんとしたパフォーマンスの一環でしょう、多分、恐らく。
それこそ、冒頭でも触れたプロレスで例えると、レスラーの『ガチンコ勝負だ!』とか『テメーぶっ〇すぞ!』とかいうマイクパフォーマンスを真に受けるのは野暮の極みであるのと似ていますね。チャンピオンが巡業先で『いつでもベルトを賭けてやるよ!』と叫んだら、地方の観客は無理を承知で『今、ここでやれー!』と囃したてるのが御約束のように、税金を投入されたロックフェスでアーティストが『政治家なんてロクなもんじゃねぇ!』とシャウトしても、訳知り顔でドン引きするよりは全ての事情を承知したうえで『いいぞぉ! ロックはそうでなくちゃ!』と予定調和的反抗を楽しめばいいのですよ。嫌いな人はハナから見なけりゃいいだけの話。今回のフェスに対する『国からカネを貰いながら体制批判とかロックの精神は死んだのか!』という主張はド正論には違いありませんが、同時に、
プロレスラーを八百長野郎と罵るセンスのない発言
に近いのではないかとも思います。
そして、体制の意に沿わない文化事業であっても、その表現の自由と経済への貢献度を尊重して、財政支援を惜しまないのは健全な社会の証左であり、今回のフェスはコロナ対応でボロクソにいわれがちな現体制の数少ない真っ当な一面を示していたと考える次第。勿論、コロナ禍での開催に対する科学的・医学的視点からの賛否とは全く別の問題です、念のため。『オリンピックやったから俺たちもやったろ』の精神ほんまダサい。怒りの矛先を間違えるなよ?(笑) よし、来週こそ休む。