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『閃光のハサウェイ』を見て思ったこと(『閃光のハサウェイ』の感想ではないです)

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先週の記事で暫く更新を休むと宣言しておきながら『青天を衝け』の放送が再開された訳でもないのに記事をUPするのは忸怩たる思いがないではありますが、何せ2021年下半期ベストの最有力候補作品に出会ってしまったのですから仕方ありません。EDテーマ以外は100点の傑作。一応、原作は読んだ筈ですが、如何せんン十年も昔の話でラストシーン以外は完全に記憶から抜け落ちているのが逆に幸いしたのか、新作を見る目で楽しめました。人間サイズの視点によるMS戦の恐怖、ギギ・アンダルシアとかいうアンニュイ且つエキセントリックでヒステリックなガンダム女性の極北のようなキャラクター、ハサウェイの『やりたくないけどやらなきゃいけないことをやらざるを得ないポジション』という何処となくクワトロ~CCA時代のシャアを思わせる存在、何れも見応えがありました。人はただ生きているだけで社会の笧(しがらみ)からは逃げられないものなんやね。

総合的な評価では前週見た『竜とそばかすの姫』とほぼ互角ですが、一観客としての物語への没入度は圧倒的に閃ハサのほうが上。理由は至極単純で、

 

メインの出演者がほぼほぼプロ声優

 

ということに尽きるでしょう。『竜とそばかすの姫』もストーリーや映像や音響では決して遜色はありませんが、出演者の多くが吹き替えに不慣れであったのは否めません。主人公のすずとアバターのベルの同一性が物語の大きなカギであった事情を考えると、歌唱方面に秀でたキャスティングが必須であった点はやむを得ないとはいえ、淀みや籠りのない発声と台詞回し、声のトーン一つでキャラクターの僅かな心情変化を表現する演技力、総合的な安定感では比ぶるべくもないのも事実です。いちいち脳内で出演者の演技に補整(アジャスト)をかけて見なければならない作品は常に一歩引いた視点がつきまとって、ストーリーに完全に没頭出来ないのよね。ベストアクターはギギ役の上田麗奈さん。ガンダム史上に燦然と輝く電波系少女クェス・パラヤを更にブッ壊したような芝居と声質がGOOD。流石は新条アカネちんやで。でも、推しは種崎敦美さん演じるメイス・フラゥワー。綺麗なスッチーさんすここのこ……という個人的な性癖はさて置き、出演者の吹き替えスキルの有無は作品自体の評価を大きく左右するファクターであることは改めて指摘しておきましょう。何が何でもアニメ声優しか使うな、ということではありません。キャストにはキャラクターに合致した声質&世界観を阻害しない程度の演技力を求めましょうというだけの話です。誰とは言わんが鈴P、お前のことやぞ。

まぁ、キャスティングに関しては『閃ハサ』も『逆襲のシャア』でハサウェイを演じた佐々木望さんから小野賢章さんに変更されて、ファンの間で結構物議を醸しましたが、私はスパロボやGジェネでマフティーハサウェイを使った経験がないので、小野ハサウェイには特に違和感を覚えませんでした。小野さんも嫁さん並みに芸歴長いし、普通に上手いからね。勿論、佐々木さんのハサウェイじゃなきゃ見ないというファンの心境も理解出来ます。私自身、キャスティングの変更に納得のいかなかった作品は結構ありますから。ただ、キャスティングに異議を唱えるファンの拒絶に遭いながら、既に興行成績二十億越えという数字を叩き出しているのも紛れもない事実。本作は最低でもガンダム劇場版三部作~Z~CCAを見ておかないと何が描かれているのか全く判らないうえ、原作通りとすると三部作のラストで【ネタバレ厳禁です】が実の【ネタバレ厳禁です】の前で【ネタバレ厳禁です】されかけることを多くの観客が承知しているにも拘わらず、これだけの興行成績を叩き出しているのですから、ガンダムワールドのファン層の厚さと広さと歴史の深さに改めて感じ入るばかりですね。

ところで、映画の興行成績&物議を醸した話題といえば、先日目にしたこの記事。

 

 

題名とキーヴィジュアルを見た時点で『漁港の肉子ちゃん』とどちらを鑑賞するかを悩むレベルの作品ですが、それ以上に香ばしいのは以下の発言。

 

「シネコンはご承知のように、アニメに席巻されています。よく、コロナ禍で『鬼滅の刃』が映画業界を救ったと言われますが、私は実写映画に関わる人たちや小さい映画を、あのアニメ映画が排除したと思っています。学生たちに、「じつは『鬼滅の刃』や『エヴァンゲリオン』は、ある一定の映画館と映画会社しか儲からなかった。小さな映画を作っている人たちや実写の人たちは、みんなアニメ映画のおかげで排除されたんだから、逆に映画界を危機に陥れたことになるんだ」という話をすると、皆びっくりするわけです。もちろん映画としては否定しないし、娯楽映画として素晴らしいと思うのですが、製作者としてはやっぱり辛かった」

 

そりゃあ、アマチュアの映画評論家でなく、プロの映画制作者にそんな責任転嫁論を口にされたら、学生じゃなくてもビックリするわな。

 

『我々は興行成績では測れない良質なシャシンを撮っている』と自負するなら兎も角、実写映画に関わる人や小さい映画をアニメ映画に排除された&アニメは日本映画界を危機に陥れたという被害者根性丸出しの物言いは負け犬の遠吠えという言葉のMX4D見本と評して問題ないでしょう。『鬼滅やエヴァは一定の映画館と映画会社しか儲からなかった』とかいわれても、資本主義社会で映画業界全体が隅々まで潤う作品なんて存在し得るのでしょうか……あっ(色々と思想的背景を察し)。本記事でも触れられているように、この方は『新聞記者』の製作総指揮をなさっておられましたが、あの作品は150以上の映画館で上映されたにも拘わらず、興行成績は6億という頭無残な数字で、内容に関する評価は措くとしても、ムダに他の作品を排除して映画界を危機に陥れた責任は『鬼滅』でも『エヴァ』でも『閃ハサ』でもなく、この方の『新聞記者』が負うべきなのは明白でしょう。私は視聴率や興行成績のみで作品を判断する程にシビアな人間ではありませんが、好きなジャンルに冤罪というクソをぶっかけられて笑って見過せる程に成熟した人間でもありません。

この方は『小さな映画』『小さな映画館』に拘りをお持ちのようですが、今日のアニメ映画の第一線を張る細田・新海両名も最初は単館、乃至は少数上映から始まっています。決してポッと出で優遇されている訳ではありません。『鬼滅』は未見なので評価は避けますが、庵野監督は自身の物理的抹殺を仄めかす書き込みにメンタルを削られながらも、作品と最後まで向き合ったことで『シン・エヴァ』という視聴者の大半が納得する決着を提供してくれました……時間かかり過ぎたけどな。そして、冒頭で触れた『閃光のハサウェイ』も先述したように決して広い間口とはいえない作品にも拘わらず、現時点で既に『新聞記者』をトリプルスコアで凌駕する興行成績を叩き出しているのは、世界観をいちいち説明しなくてもついてこられるファンの取り込みに成功したからです。特にガンダムに関しては半世紀近くに及ぶメディアミックス展開によるガヲタという名のファン層のリサーチと発掘と育成が大きいでしょう。勿論、そこには数多の失敗例もありますが、実写邦画が『トランスジェンダーの役はトランスジェンダーの人しか演じてはいけない』とかいう芝居の本質を否定するマイノリティ理論や、劇場版『相棒』にも劣る通り一遍な政権批判に現を抜かしている間に、アニメは売るための努力と作品が受け入れられるための下準備を積み重ねてきたのです。その結果を『アニメの所為で映画界は危機に陥った』と一方的に貶める発言も、個人の信条の自由として受け入れることは吝かではありませんが、その場合は将来的にバカウケする実写邦画が出た時、アニメ製作者から邦画の所為でアニメは映画から追い出されたと文句をつけられてもキチンと対応してくれると受け取ってよろしいですね。まぁ、作品評価で『シン・ゴジラ』に、興行成績で『翔んで埼玉』に負けた時点で邦画は色々と腹を括るべきであったと思います。『翔んで埼玉』は悪くありません。大事なことなので今回も言っておきます。随分とキナ臭い話になりましたが、最終的には、

 

「政治的なキャスティングがクオリティにプラスに働くことは決してない」

「うまくいかないことを他人の所為にしているクリエイターはやめちまえ」

 

と明言した『SHIROBAKO』の偉大さが改めて身に染みた次第です。尚、肝心の『SHIROBAKO』劇場版のクオリティは【御察し下さい】

 

 

 

 


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