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『いだてん~東京オリムピック噺~』第三十六話『前畑がんばれ』感想(ネタバレ有)

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本日鑑賞して参りました。いや、昨晩の『いだてん』で負ったダメージ(悪い意味ではありません、詳細は後述)が余りにも大きかったので、気持ちを切り替える意味も込めて、予定を前倒しにして見た次第。公開したて&友人知人に未見の方が多くおられるので、詳細な感想は控えますが、内容的には『ステキな金縛り』と同じくらいに楽しめました。少なくとも『ギャラクシー街道』や『清須会議』よりは上。全体的に小ネタは概ねヒットしていたようで、劇場ではコンスタントに笑い声があがっていました。『ギャラクシー街道』ではキャプテンソックス以外のネタは悉く滑っていたからなぁ。

一方で『有頂天ホテル』の謹賀信念や『マジックアワー』の今週はねに匹敵する導入部の掴みがなく、全体的にもストーリーの山場がないままで終わった感はあります。本作はマスコミや野党の追及に『記憶にございません』というカビの生えた言葉で平然と応じる藤間幸三郎からケツの穴に海馬を突っ込まれそうな総理大臣が、本当に記憶喪失になったことから始まるドタバタコメディですが、総理が記憶喪失になったことを隠そうとする側と、それを知らずに振り回される&必要以上に深読みをして納得してしまう側という、三谷作品特有の事情を知る者と知らない者の温度差描写は不足気味でした。まぁ、最終的にはキチンと説明がつくのですが、これ系のネタに関しては、

 

黒田啓介「三万円!」

古郡祐「刻んできたな!」

 

の場面しかツボらなかったなぁ。映画ではなく、TVの2時間SPドラマ枠でも充分かも。でも、普通に楽しめる作品なのは間違いないので、時間のある方は見に行って損はないと思います。そういや、先日、NHKで三谷さんとクドカンが出演したバラエティトークがあったらしいですね……見ればよかった。そして、三谷さん、久しぶりの大河ドラマ出演おめでとうございます。『マジックアワー』で特別出演なさった市川崑とは……因縁やね。第4クールに向けてのキャスト発表でラストスパートに入った感のある『いだてん』。今週のポイントは4つ。二人のMVPに関する感想がメイン。

 

 

1.明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命

 

田畑政治「秀ちゃん、ちょっと痩せた? 大丈夫、大丈夫、記録なんかもう大丈夫! 全然、気にしなくていいからね! エンジョイ! 準決勝も楽しんでおいで!」

前畑秀子「」

 

恰も養豚場のブタでも見るかのように冷たい目で河童を一瞥する前畑さん。実にうらやま……うらやま……うらやま……じゃない、恐ろしいシーンでしたね。三回も間違えてしまいました。しかし、前畑さんが河童を見る目……上記のリサリサの他に何処かで記憶にあると思ったら、

 

みねちゃんが兄つぁまを見る目

 

でした。まさにゴミを見る眼差し。『兄つぁまを鴨川に放り込め』という視聴者の思いが六年越しにベルリンへ到達したのか、河童がプールに叩きまれるハメに陥りました。とんだとばっちりで可哀想。

それにしても、次項以降で触れるように、上記のゴミを見る眼差しネタを以てしても、今回の内容は重かった。毎週毎週、その週に起きたツライ現実を一時でも忘れさせてくれる『いだてん』は、私にとってはデトックス大河と呼べる作品なのですが、流石に今週は『はー、スッキリ!』というオチにならず。しかし、次回以降も大変そうなんだよなぁ……。

 

 

2.マルタ・ゲネンゲル

 

ゲネンゲル「また一緒に泳ぎましょうね」

 

一人目のMVPは前畑のライヴァルのゲネンゲル女史。今回はサブタイ通り、前畑さんが主人公のストーリーでしたが、私はゲネンゲル女史に感情移入してしまいましたよ。だって、想像してごらんよ? 地元開催というだけでも『勝って当然』という強烈なプレッシャーがあるうえ、総統閣下が直々にロッカールームへ激励に足を運んでくれたにも拘わらず、その眼前で異民族・異国民(今回は敢えてこの言葉を使います、悪しからず)に敗れてしまった訳ですよ。これはもう、見ているほうの胃が痛くなるレベルの事案。レース直後、前畑の後方から自らを見る総統閣下の視線が、ゲネンゲル女史に痛い程に突き刺さっていたのは作中で描かれた通り。この場面は実に秀逸で、後述するヤーコプの置かれていた境遇を田畑がイマイチ判っていなかったように、作中の前畑さんも背中に目がないので、自身の後方からゲネンゲル女史に突き刺さる総統閣下の視線に気づいていない=彼女の境遇を完璧に理解出来ていない(いい悪いではありません、念のため)のですね。何かと反発し合う田畑と前畑さんは根っこの部分では似た者同士であることを表しているでしょう。

少し話が逸れましたが、つまり、上記のような苦衷を察して余りある境遇に置かれたにも拘わらず、前畑の金メダルを讃えながら『また一緒に泳ごう』と笑顔でいえるゲネンゲル女史が最高にイケメン。『いだてん』は敗者の描写にこそ、心を砕いている作品であることが判る場面でした。

 

 

3.ヤーコプ

 

ヤーコプ「タバタ ガ イキナリ マエハタ オソッタ」

 

おおう、これはひどい。

 

先週のリク×金栗といい、二週連続で主人公が通報事案をやらかしていて草。先代のゲスの極み健次郎がドサマギでリクに抱きついたのを見て反射的に手が出た金栗君ですが、先週の君のほうが遥かに生々しかったですよ、全く。いや、こういう話題から入らないと気が滅入りそうでして、本当に紹介したかったのはこちらです。

 

田畑政治「四年後、東京に来るといい。通訳が足らんのでね」

ヤーコプ「ソレハ……ムズカシイカモシレナイ」

 

副島道正「選手村の通訳がいただろ……自殺したそうだよ。猶太人だったそうだね。オリンピックが終わって利用価値がなくなったら、自分がどうなるか、よく判っていたんだろうな……閉会式の翌日に亡くなったそうだよ」

 

ヤーコプ、お前、死んだんか……。

 

TVの前で絶句してしまった二人目のMVPヤーコプの退場。ストックホルム編で韋駄天と笑顔で別れたダニエルと、河童に一葉の写真に残して去ったヤーコプの対比が重過ぎました。ヤーコプにとっては期限つきの偽りの平等であってもオリンピックは救いであったのかも知れません。しかし、前回のロス五輪時も演習の砲声といったキナ臭い雰囲気はあったものの、選手村や競技には自由が存在しましたが、今回のベルリン五輪では『スポーツを通して心身を向上させ、文化・国籍などさまざまな違いを乗り越え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって、平和でよりよい世界の実現に貢献する』というオリンピックの精神は、遂にヤーコプが田畑に託した写真の中に閉じ込められてしまった。この自由の範囲が徐々に狭まってゆく表現が凄い。

そして、ヤーコプの死因。自殺とはいえ、彼は社会の同調圧力に殺されたという見方も出来るでしょう。ヘタに『総統閣下が何等かの手を下した』という書き方よりも遥かに薄ら寒い事案です。今回の『前畑がんばれ』が象徴するように皆が心を一つにすることは素晴らしいことであると同時に恐ろしいことでもあるというメッセージを、前畑とヤーコプの二人を通じて描いたのかも知れません。

 

 

4.敢えて苦言を

 

副島道正「挙国一致路線では必ずベルリンの模倣になる」

 

尚、模倣にすらならなかった模様。

 

開催されなかったからね。比較以前の問題だからね。仕方ないね。

それはさて置き、今回微妙に引っ掛かったのが、この場面。嘉納治五郎とかいうアヘアヘ金欠ウホウホ借金おじさんを『豪放磊落』の一言で片づけるのもネタ的に引っ掛かりましたが、それ以上に上記の副島さんの台詞が気になりました。後世の我々視点ではベルリン大会はプロパガンダオリンピックとして批判される存在ですが、成功したプロパガンダであるからこそ、興業のクオリティ自体は極めて高かった訳で、当時の日本も同じことが出来るのであれば、やりたいのではなかったかと思います。模倣出来なかったのは煎じ詰めると、

 

金銭がなかったの一言に尽きる

 

のですが、河童と注射300本の男は『ベルリン五輪の雰囲気が何か嫌』という非常にフィーリング重視の物言いをしているのですよね。本来のオリンピック精神の視点でも河童と注射300本の男の言い分は正しいとはいえ、先項のヤーコプの箇所でも述べたように、少なくとも作中では総統閣下の具体的な『所業』は描かれていません。それゆえ、河童と注射300本の男の言い分が些かボヤけてしまっている感がある。後世の我々視点では二人の主張は首肯し得るけれども、興業として大成功を収めた大会を当時の人間がフィーリングで否定するのは考えものではあります。この辺は単純明快に、

 

嘉納治五郎「ベルリンみたいな派手な五輪しようず!」

田畑副島「阿房か、日本には金銭がないんじゃあ!」

 

という構図に持ち込んだほうがよかったかも知れません。

 

 

 

 

 


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