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荒川弘版『アルスラーン戦記』第61章『マルヤムの使者』感想(ネタバレ有)

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漁師①「俺、ナルサス様に魚の捕り方教えたら、礼にと絵を一枚くれたぞ」

漁師②「上手いのか?」

漁師①「いやぁ……俺には絵の良し悪しはわからん」

 

冒頭の何気ないダイラムの日常を描いたオリジナルシーン。直後のルシタニア軍による侵略との対比としても見事ですが、ラストで悪逆非道なルシタニア兵に天罰が下る伏線にもなっていたとは……流石は美術の天災軍略の天才ナルサス。その場に居ることなく、侵略者に一矢報いる策を講じていたとは驚きです。のちにキシュワードがナルサスの書き残した策でトゥラーン軍を撃滅する名場面があるのですが、その前フリとなる場面を荒川センセが創作してくれたのかも知れません。アルスラーンがパルスの玉座に就き、ナルサスが泣く子も笑う宮廷画家大陸行路随一の軍師となった暁には、この逸話もナルサスの英雄譚的四行詩として末永く(&主にギーヴの口から面白おかしく)語り継がれることでしょう。

物語の大筋とは離れた地域で離れたストーリーが展開する点で、何気に島編に近いダンバルド内海編の始まり(といっても、次々回くらいで終わりそう)ですが、今回も原作の要素以上にオリジナルパートがキレッキレの面白さでした。尚、今月も主人公は一コマも出番がない模様。アルスラーンは田中センセ作品でも特に不遇な主人公だからね、仕方ないね。

 

 

1.男クバード

 

クバード「悪いな、今日は酔っ払っておらんが、寝不足で加減がわからん」

 

加減が判らん時は常にオーバーキルのほうにメーターを振り切るクバードさん。たまには手加減し過ぎることもあっていいのではないかと思いますが、今回も因縁をつけてきたルシタニア兵の首を初太刀でぶった斬るという弾けっぷり。前の頁で赤ん坊を串刺しするという蛮行を犯したとはいえ、ほんのちょびっとルシタニア兵が可哀想に見えます。特に今回の犠牲者は『荷物と馬を置いていけば、見逃してやらんこともない』と一定の選択肢を提示しているのに、クバードさんの返答は初手から斬首というエゲツナイ対応。グロ注意! グロ注意!

それにしても、毎回言い訳を探しては思うさま虐殺戦闘を堪能するクバードさんが、完璧なコンディション時にどこまで精密な攻撃が出来るか、一度試してみたくもあります。でも、そういう時は『コンディションが良過ぎると逆に調子が出ない』とか平気でいいそう。ド真ん中のストレートは逆に打てない悪球打ちの岩鬼みたいなものでしょうか。ストライクゾーンが膝から脛までしかなさそうな印象です。ムラがあり過ぎて四番には向かない恐怖の六番打者みたいなタイプですね。

 

 

2.オブラートを探せ

 

メルレイン「妹を捜している。昨年、秋の終わりに親父と共に略奪に出たまま、行方不明なのだ」

クバード(犯罪を『買い物に出たまま』みたいに言うな)

 

そんな人を食った為人のクバードをして、心中でツッコミを入れざるを得ないゾット族の日常。略奪という『自分が金銭を払う』のではなく『他人の金銭を奪う』行為の本質を考えると、買い物というよりは出稼ぎに近い感覚かも知れませんが、何れにせよ、不法行為には違いないのでどっぷりとOUTです。『働かざる者食うべからず』が家訓の荒川センセ的にも、働く方向性が斜め上にズレているので、恐らくはOUTでしょう。その辺を反映したのか、或いは原作に忠実な描写を心掛けたのか、メルレインのキャラクターデザインは単なるイケメンで終わっていたアニメ版よりも人相の悪さが七割増しといったところ。これは確かに可愛げがない。田中センセ曰く、メルレインは口を『へ』の字に曲げたような人相をしているが、パルスの言葉にひらがなの『へ』の字はないので、それを文章で表現するのに苦労したとか。オマケに、

 

メルレイン「親父はやはり、妹が大事なのだな。とても。そもそも親父は酔っ払うと俺も妹も張りとばしたが、酔いが覚めてから謝るのは妹にだけだった。俺に対しては全く悪びれる様子もなかったし……ブツブツブツブツ」

クバード(面倒くさそうな男だな)

 

と、面倒臭さ(或いは扱い難さ)ではパルス軍でも一、二を争うクバードに『面倒臭い』と評される始末。この発言をヒルメスが聞いたら絶対にお前が言うなとブチぎれたことでしょう。まぁ、そのヒルメスさんも大概面倒臭い性格なのですが。

 

 

3.ぷるキューレベル

 

ルシタニア兵「絵だぁ? 金になるのか、それは?」

漁師①「将来、宮廷画家になるとおっしゃっていた方の作です!」

ルシタニア兵「ほぉ、宮廷画家! それがさぞかし……ギャアアアアアアアアアアアア(バターン

 

名もなきルシタニア兵の魂に安らぎあれ。尤も、奴に魂なんて上等なものがあればの話ですが。しかし、兵士が悲鳴をあげて卒倒するレベルの画って……ここまでくるとパルス軍の先頭にナルサスの画を掲げて戦えば、どんな相手にも百戦百勝ではないかとさえ思えてきますが、敵よりも先に味方の士気が喪失する危険もあるので、迂闊に扱うのは危険過ぎるでしょう。味方を巻き込む範囲攻撃兵器は無用の長物。はっきりわかんだね。尤も、ダイラムの漁師は『絵の良し悪しは判らん』と評しているので、ナルサスの画を見て正気を保っているからには何らかの耐性を身に着けている可能性大。永くナルサスの画を見せつけられ続けたことで、ダイラムの人々にはナルサスの画に対する抗体があるのではないでしょうか。そう考えると、先述したナルサスの画をパルス軍の先頭に掲げるという無差別範囲兵器も、ダイラムの人々のみで編成した特殊部隊が役割を担うことで実戦投入も可能になるのではないかと思えてきます。やったねアルスラーン! (多分、ルクナバードがなくても)ザッハークにも勝てるよ!

 

 

 

 

 


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