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『西郷どん』第九話『江戸のヒー様』感想(ネタバレ有)

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毎年、この時期は週刊誌を中心に『結論ありきの大河バッシング』が始まるのですが、今年はそのテの記事が少ない気がします。今までのように『海が汚い』『会津弁が聞き取りにくい』『藤村志保さんのナレーションが怖い』『吉田松陰は〒□リス卜』『どう見ても日曜どうでしょう』のようなザのインネン……というとヤザに失礼な記事が世間を騒がせていたことを思うと、大河ドラマに対する世間の視線は一定の冷静さを帯びてきたといえるのではないでしょうか。勿論、そうした意見が全くなくなった訳ではなく、今年見かけた大河批判で私が一番引っかかったのは、

 

「西郷隆盛という恵まれた題材で、この程度の物語しか描けないのか」

 

という意見です。西郷隆盛は決して恵まれた題材ではありません。確かに単純なネームバリューは『二十一世紀以降の大河ドラマでは随一の人物』とはいえ、その生涯、人格、言動、才能、功績は複雑怪奇で、とても一言で表現できる人物ではない。他のメジャー級の人物の場合、義経=KY軍略家、尊氏=人間不信のメンヘラ将軍、信長=第六天魔王、秀吉=成りあがりの天下人、家康=焼味噌狸親父、龍馬=幕末の風雲児、高杉=天才と紙一重、大久保=氷の宰相、慶喜=責任を取りたくない責任者……みたいに何となくイメージをまとめることができるのですが、西郷は一言で為人を言い表すことは不可能でしょう。敢えて言葉を選ぶとするとダメブリーダーでしょうか。

そもそも、西郷とは如何なる人物か。彼は維新政府創設の功労者でありながら、その政府に対する叛乱で生命を落としました。政権発足当時の唯一の陸軍大将ですが、同時代に彼以上の軍略家・軍政家は数多存在しました(大村とか立見とか山川とか)。国家規模の行政処理能力では盟友の大久保に譲り、新時代への先見性では旧幕臣の勝安房や福沢諭吉に譲り、政略上の柔軟性では政敵の徳川慶喜に譲り、個人的な武勇では腹心の桐野利秋に譲るといった具合に、西郷は突出した才幹で歴史に名を遺した人物ではありません。しかしながら、それでも、維新最大の元勲は誰かとの問いには大久保でも木戸でもなく、万人が西郷の名を挙げるでしょう。それほどに西郷は判りにくい。作家の司馬遼太郎氏も『結局のところ、西郷という人物の真価は本人に会ってみなければ判らない』と、創作に携わる人間としては一種の敗北宣言に近い結論を下しています。あの司馬さんが匙を投げたくらいですから、並みの作家に扱える題材ではない。極端な話、杉文や井伊直虎よりもハードルは高いでしょう。西郷隆盛という人物は圧倒的なネームバリューに反して、

 

日本史上最も難解な題材

 

といえるのではないかと思います。この辺は何時か、西郷&大久保を尊氏&直義の対比を通じて、記事に出来たらいいなぁと漠然と考えておりますが、本編の感想に入る前に長々と駄文を述べさせて頂いたのは、一つには『西郷隆盛が恵まれた題材』という前提で今年の大河を批判すると『西郷どん』の本質を見失うのではないかと思ったためです。

勿論、これは『西郷どん』を擁護するためではなく、日本史上、最も複雑怪奇な題材に挑んでいる以上、描かなければいけないことは発酵するほどにあると思うのですが、その自覚もなしにチンタラチンタラと無意味な創作カマしている本作への批判の意図に拠るものです。しかも、その創作の全てがアホ臭くて、見ていられない。特に吉之助サァが斉彬の密書をデスラーに届ける件。懐の密書を胸チラさせながら、目的地の水戸藩邸への道を地元民に尋ねる吉之助サァの場面は馬鹿の一言に尽きます。お前が持っているのは密書だぞ? 密書というのは秘状のことだぞ? 何で『如何にも書状を持っています』アピールをしながら、目的地を赤の他人に聞いて回るの? 馬鹿なの? 死ぬの? そして、こんな不用心で土地勘のない人間に密書を託した本作の斉彬も馬鹿の極彩色(🄫山川健次郎)というしかありません。この場面の余りのアホさ加減の所為で、ヒー様とかいう松田翔太さんの無駄使いも相対的に気にならなかった程です。これって相当だよね。

アホらしさといえば、

 

ナレーション「ここが、吉之助が暮らす部屋です」

 

というのも酷かった。これ、ナレーションの必要ある? 見りゃあ判るし、説明したからといって、そこから何か話が膨らんだ訳でもないよね? 先程、本編の感想を書く前に長々と駄文を述べさせて頂いた理由が二つあると書きましたが、二つ目の理由はいわずもがな、本編に感想を書くに値する内容がなかったためです。それでも、敢えてよかった点をあげるとしたら、

 

①   吉之助サァがフキちゃんに遠回しに母親の最期を伝える件

②   井伊万千代「俺の子孫がこんなに雪斎な訳がない」

③   太原雪斎、太原雪斎の悪口をいう。

 

くらいでしょうか。でも、①は兎も角、②と③はキャスティングネタですからねぇ。

 

次回は謎の蘭方医(笑)が登場。チャン・リンシャンといい、ヒー様といい、橋本佐内といい、隠す意味もない『謎の』というフレーズで無理矢理話を盛る前に、描くべきことがあると思うのですが……。

 

 

 

 


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