ガーデーヴィ「王だ……俺はシンドゥラの王になるのだ……俺はカリカーラ二世が嫡子ガーデーヴィ……俺は王なのだ!」
そう叫びつつ、神前決闘の現場から全力失踪するガーデーヴィ殿下。アルスラーンにとってのバフマン、ジャスワントにとってのマヘーンドラという、両名のアイデンティティを葬ったガーデーヴィが、彼らと同時に己の存在意義=王位継承権を喪失してしまったことを見開きで描き切る荒川センセの構成力が半端ない。ラジェンドラによる猛虎将軍への贈り物といい、今回は荒川センセのオリジナル描写が輝いていました。虎のマントはダリューンを揶揄う目途ではなく、純粋にラジェンドラの好意に拠るものと思いますが、この後、本国に戻ろうとするアルスラーンに『ちょっかいをかけた』ことを慮ると、或いは一笑と引き換えにパルス軍の油断を誘う布石であったのかも知れません。まぁ、どのみち、通用しないのですが。そんなラジェンドラの深慮遠謀が描かれた(?)今回のポイントは5つ。
1.呂布と曹操とか
ガーデーヴィ「なっ……何が猛虎将軍(ショラ・セーナニー)だ! この俺がこの手で……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
ダリューン相手に一騎討ちを挑もうとするガーデーヴィ。虚勢の極みとはいえ、眼前でバハードゥルを倒した相手とタイマンを張ろうとする点、ガーデーヴィの勇猛さが窺えます。少し先の話になりますが、ダリューンと戦場で対峙させられた時、部下に、
ラジェンドラ「ふ、防げっ」
の一言を残して遁走した弟よりは尚武の気骨に溢れた為人といえるでしょう。原作でもガーデーヴィは投槍に秀でていたという記述があるのに対して、ラジェンドラは武勇に関する逸話は皆無ですからねぇ。尤も、ラジェンドラには機会が到来するまでは相手の靴の裏も平気で舐める政略上の演技力があるので、一国の統治者としてはラジェンドラのほうが勝っているかも知れません。この辺、のちにガーデーヴィが述べたように、政略のラジェンドラ、軍略のガーデーヴィと役割分担ができていれば、シンドゥラにとっては重畳なことであったと思われます。
2.災難ですね
マヘーンドラ「だが、わしは幸せ者だ……こうして、息……こ……(ガクッ
@一息というところで、肝心の点に触れずに昇天してしまうマヘーンドラ。自分の生命を賭した焦らしプレイとか、相当なテクニシャンですね。ジャスワントも父親がいないことをツライと思うことはないでしょうが、この場合、やはり酷だ。残酷です。上記の台詞から察するに、漫画版ではジャスワントの父親はマヘーンドラと殆ど確定したようなものですが、やはり、キチンと言葉にして伝えて欲しい案件ではあります。まぁ、父親というのは何時も一言足りないもので、その分は息子が埋め合わせなくてはいけないのが世の倣いであることは『ガンダムUC』や『プリンセス・トヨトミ』でも描かれた通りなので、仕方がないのかも知れません。
3.ナルサスよりも上かも?
衛兵「次期国王はラジェンドラ殿下に決まりました」
サリーマ「」
衛兵の報告にマグロ目になるサリーマさん。殆ど約束されていたシンドゥラの女王の座が永遠に失われたのですから、衝撃を受けるのも自然ではありますが、しかし、怪我をしたガーデーヴィが部屋に転がり込んで来た時点で、聡明なるサリーマさんが事情を察しなかったのは些か不自然ではあります。況してや、当のガーデーヴィが寝具の影に隠れてgkblしているので、神前決闘で『何かあった』のは確定的に明らか。そう考えると上記のマグロ目には、もっと深い思惑や感情が隠されていそう。後述するようにラジェンドラはガーデーヴィの助命に自首を条件に挙げていましたが、サリーマさんが『背中から刺した』ことで、彼の生存ルートは絶たれました。そこから逆算するに、
ガーデーヴィは神前決闘の場でマヘーンドラを刺した
しかし、ガーデーヴィを殺せば、自分も王位を巡るトラブルに巻き込まれる
ならば、ラジェンドラに突き出すことで、自分の手を汚さずにガーデーヴィを葬ろう
という遠大な計画を思いついた、その瞬間を切り取った表情であったのかも知れません。それはそれで、逆にサリーマさんの先読みが凄過ぎる気もしますが。
4.僕は新生シンドゥラの王になる
ラジェンドラ「わかりましたよ! ガーデーヴィの命は取りません! ただし、こちらからの呼びかけにガーデーヴィ自ら出てきた場合です! そうすれば、命を助け、寺院に預けます」
父王カリカーラ二世の懇請に折れるラジェンドラ……ですが、ガーデーヴィの性格上、自首するとは思えないので、ラジェンドラとしては計画通りという心境でしょう。カリカーラ二世も彼岸で涙目を浮かべていると思います。尤も、原作ではガーデーヴィを始末する気マンマンであったラジェンドラですが、漫画版では、
ラジェンドラ「ガーデーヴィはまだ見つからんのか! おとなしく出てくれば殺さぬと国中に布令を出しているのに……手間ばかりかけさせおって!」
と本気で助命しそうな雰囲気でした。でも、まぁ、口では何といおうと九分九厘、出て来たところを捕らえて首を刎ねる気マンマンだと思います。当のガーデーヴィが『愛想笑いを浮かべながら、相手の喉首を掻き切る男』と評した通りですね。
5.徐晃みたいなもん
ナルサス「お前がいなくなるという可能性を微塵も予測していなかったのでな。神前決闘では肝を冷やした。これで戦略は根本から崩れる、と!」
ダリューン「」
なかなかの畜将発言で神前決闘を振り返ったナルサス。そこに至るまでの過程は兎も角、実際に神前決闘が始まってからのナルサスは案山子も同然の存在でしたので、流石のダリューンもイラッとしたのではないかと思います。
しかし、ダリューンがナルサスの戦略を左右するほどの存在というのは結構意外。改めて作品を読み返すと、ダリューンの武勇が戦況を左右したのは第二次アトロパテネ会戦くらいなのですよ。戦略的にもクバードやキシュワードのように隣国との要衝に配置されたこともありません。ダリューンは中軍の要であっても、戦略単位の行動に影響を与える存在ではないのですね。個人的な武勲を積み重ねても、戦略上の勝利には直結しないという田中センセの価値観が地味に反映しているように思います。むしろ、戦略を左右し続けたのは当のナルサスのほう。まさか、ダリューンよりも【ネタバレ厳禁です】のほうが先にいなくなるとは想像もしていなかったろうなぁ。
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