本編と全く関係のない話題で恐縮ですが、先日、私の携帯に『メアド変更しました』というメールが届きました。それ自体は決して珍しくないものの、タイトルにも本文にも差出人の名前が載っていなかったので、誰の登録内容と差し替えてよいのか悩んでおります。几帳面でフレンドリーな方らしく、翌日にも『届いていたら返事を下さい』とのメールを送って下さいましたが、こちらにも名前がありませんでした(@発信元のアドレスも変わっていました)。相手の素性を確かめずに影武者徳川家康と通信した井伊=サイコパス=直親の轍を踏むのは避けたいので、御心当たりの方は改めて名前入りでメールを下さいませ。あれ? 一応、本編の内容と繋がった?
尤も、ここ数回の内容を見ていると、井伊家は影武者徳川家康の策に乗せられなくても、寿桂尼のデスノート&死神の目という必殺コンボからは逃れられなかったように思います。強大な敵の存在は大河ドラマを盛りあげる重要なファクターですが、これほどに力量に差があり過ぎると、見ているほうも絶望感が先に立ってしまい、去年の豊臣家のようにこれは勝つるという幻想に浸れないのが残念。秀頼が青年モードにヴァージョンアップした時の期待感は半端なかったからなぁ。今回、直虎が引き延ばしにしてきた徳政令の履行を武田の侵攻に対抗するための今川の策謀として描いたのは史実と創作の巧みな絡め方でしたが、労力の割に盛りあがりに欠ける内容になりました。色々と惜しい。今回は先週までの伏線の再確認と来週以降の展開に向けた下拵えの要素が濃かったのかも。そんな今回のポイントは3つ。
1.バレテーラ
今川氏真「お主には井伊に徳政令を出すことを受け入れて欲しいのじゃ。お主が受け入れれば、自ずと井伊は滅びるであろう?」
瀬戸方久「しかし、井伊が滅んでしまっては、私の井伊より安堵された村は……」
今川氏真「今川からの安堵状じゃ。これで井伊が潰れたあとも、お主の土地はお主のものじゃ。勿論、気賀もじゃ」
徳政令の履行に先駆けて今川氏真に取り入り、自身の領地を安堵したという銭ゲバを地でゆく史実の瀬戸方久の行動を踏まえた場面。史実通りであれば、
瀬戸方久「これで俺はもう、一生食いっぱぐれない!」
とガッツポーズを決めたに違いありませんが、本作では領地を安堵してくれた井伊の恩義と、離間策に出た今川の圧力に挟まれて、二進も三進もいかなくなっておりました。井伊の乗っ取りを企んでいるように見せかけて、実は誰よりも直虎のことを慮っている小野政次のように、史書を裏から眺める本作特有のキャラクター設定。惜しむらくは政次も方久も、現時点では決してメジャー級とは評しにくい存在なので、史実の裏を取る設定が物語を盛りあげる要素に直結しないことでしょうか。こういう捻った歴史解釈は一定のキャラクター像が定着している人物でやると効果的なのですが、政次や方久の知名度では描き手の苦労の割にリターンが少ないのよね。この辺が実に惜しい。『平清盛』の忠正叔父さんのような成功例もありますけれども、基本、このテのテクニックはキャラクターが確立している人物でやってくれたほうが、見ている側も楽しい。『コワモテ』のエンケンさん演じる『義の人』上杉景勝が『愛すべきヘタレ』という例が典型的ですね。史実・俳優・キャラクター……全ての要素が完全に真逆のベクトルを向いていたからな、昨年の御屋形様。
ちなみに当該場面では、政次が直虎と同じ穴の貉であることが氏真の口から方久に伝えられましたが、誰がどう見てもベタ惚れ事案なので、方久としては今更何言ってんだコイツという心境であったでしょう。この期に及んで、直虎と但馬が通じていないと思い込んでいる中野ジュニアや六左衛門のほうがどうかしています。流石は知力20以下ブラザーズ。曹豹よりひでぇや。
2.ヤマガ VS ホノオ
小野政次「知らぬであろうが、私は御主を見張るよう、太守様から言われておってな。今、御主は『三河から引き合いが来た』と聞いて、案の定、出かけてきたということだ。これは、どうしたものかのう?」
小野政次「『井伊を取り潰す話からは但馬を外す』と言われたか? 私も同じことを言われておるゆえな。私は井伊を取り潰したあと、気賀を任されることになっておるが……御主にはどういう話になっておる?」
寿桂尼の退場により、作中最高智謀ステータスキャラクター(暫定)にスライドした小野政次。見事なハッタリで瀬戸方久の内通を炙り出しました。或いは敵内部の対立勢力の双方にうまい話を持ち掛けて、内応に成功したほうと結ぶ&相手の分断を図る今川の作戦の可能性も微レ存ですが、既に政次のなんちゃって目付ぶりは今川に露見しているうえ、寿桂尼は兎も角、氏真が斯くも高度な計略を考えつくとは思えないので、ここは普通に政次の口から出まかせオンパレードであったと考えてよいでしょう。
今川への内応を見破られた瀬戸方久。『私が拒否しても、今川は井伊谷を直轄領にすることを諦めない。武力か財力か、用いる手段が変わるに過ぎない』と逆ギレしますが、実際、己の本領を安堵(保障)してくれる相手に従うのは戦国の世の常なので、方久を責めるのも可哀そうな気もします。仮に今川や武田が気賀に攻め込んできたところで、井伊が彼らを追い払い、方久の領土を安堵できるとは思えませんからね。まぁ、最終的に気賀城に入るのは井伊でも今川でも武田でもなく、徳川なのですが。結果的に今回の方久の気苦労は水の泡。やんなるね、全く。
3.鶴丸「止まるんじゃねぇぞ……」
井伊直虎「敢えて井伊を潰したうえで、今川の懐に入る。そして、関口の主級を挙げ……徳川に差し出せば……井伊は甦る!」
今川の直轄領となった井伊の民百姓は最前線に駆り出される~今川への不満が募る~その不満に乗じて関口氏経の主級を獲る~それを手土産に徳川に寝返るという、昨年のスズムシが知ったら諸手を打って賞賛するであろう、実にロクでもない策略を思いつく直虎(誉め言葉です)。一度は手を組んだ変態革命家(notシャア)をギャラルホルンに売り渡して、自己保全を図ろうとした止まるんじゃねぇぞさんに匹敵する畜生ぶりに草も生えません。これほどの畜生ぶりを見せた大河ドラマの女性主人公は珍しいのではないでしょうか。いいぞ、もっとやれ。
ところが、レジスタンスというか、内応者というか、兎に角、今川への面従腹背の肝となる井伊谷の民百姓たちは、直虎の治世に感化されてしまい、
甚兵衛「徳政令は望まんにぃ!」
とヒロインの思惑をブチ壊してしまいました。この場面はガチで笑った! いや、いい意味ですよ。為政者としての才幹は兎も角、本作の直虎が如何に民百姓と真摯に向き合い、彼らと共に泣き、笑ったか。その過程を見ているので、井伊谷の人々が徳政令を望まないという流れは物凄く納得がいく。でも、その善意が逆に直虎の策略を無に帰すという展開はメチャクチャ笑えるじゃあないですか。惜しむらくは場面に被されたBGMが感動系であったこと。ちげーよ、ココはギャグパートなんだよ。
井伊直虎「甚兵衛、それ以上やめて! (井伊家が)死んじゃう!」
というもこっちも裸足で逃げ出す笑いのツボなんだよ! 先回、原作ノベライズの政治パートをバッサリ斬り落とした点といい、今年の大河の現場スタッフは何も判っていない。まぁ、昨年のように原作者と現場スタッフの悪乗りでスケジュールが万策尽きそうになるのも考えものですが。
そして、作中で万策尽きた井伊家を救おうとしたのが、
小野政次「俺を信じろ……信じろ、おとわ」
と直虎を幼名で呼ぶ鶴丸。予告の『地獄へは俺が逝く』という台詞を合わせて、まさに彼こそが、悪名を背負い、己の身を犠牲にして仲間を救おうとした止まるんじゃねぇぞさんの系譜なのですね。つまり、もう退場間近ということか……。サンキュータジマ。フォーエバーマサツグ。
![]() | アオイホノオ Blu-ray BOX(5枚組) 20,520円 Amazon |