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『おんな城主直虎』第二十九回『女たちの挽歌』感想(ネタバレ有)

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ナレーション「直虎ら国衆は寿桂尼から涙ながらに助けを求められた」

 

前回の内容とは些か矛盾していた開幕ナレーション。確かに寿桂尼は涙ながらに『我亡きあとの今川を頼む』と哀願していましたが、その直前の映像は手にしたデスノートに見事な筆跡で直虎の名前を書き込む場面でした。一番の肝となる箇所を全力スルーした意図が奈辺にあるのか気になります。前回の放送を見そびれた視聴者には不親切設計の導入となった今週の『おんな城主直虎』。でも、一番気になったのはサブタイにするほどに女性キャラが死ななかったことでしょうか。或いは直虎が織りたての綿布で煙管に火をつけながら、両脇に抱えた火縄銃をブッ放すシーンでもあれば、内容的にもサブタイ負けしなかったと思います。そんな今回のポイントは4つ。

 

 

1.し、死んでる……!

 

「『我が骸、艮に葬るべし。死してなお、今川の家を護らん』……たれか、たれかおらぬか! 医者じゃ、医者を呼べ!」

 

本編開幕早々、骸で発見される寿桂尼。唐突な退場劇といい、突っ伏し具合といい、遺言の内容が、

 

寿桂尼「止まるんじゃねぇぞ……」

 

でも違和感のない雰囲気でした。これでしたら、先回のラストで死なせてもよかったんじゃあないかと思いましたが、それだと『大河ドラマ・女大名寿桂尼』最終話と錯覚して、今週から見なくなる視聴者がいるかもしれないから、仕方ないのかも知れません。実際、先週の内容はフツーに大河ドラマの最終回っぽかったしさ。

 

 

2.荒川茂樹「戦争だって? そんなものはとっくに始まっているさ。問題なのはいかにケリをつけるか、それだけだ」

 

井伊直虎「我はただ、戦そのものを避けたかったというだけじゃ!」

 

徳川に上杉との同盟を勧めて、武田の後背を扼し、今川への侵攻を阻止するという遠大……というよりも身の程知らずの政略が完全に裏目に出た直虎。アイデアは悪くなかったのですが、武田や上杉はおろか、滅亡寸前の今川や新興勢力の徳川さえも掣肘する力のない井伊の発案では説得力は兎も角、実行力に欠けるからなぁ。むしろ、両勢力の間をチョロチョロと動き回り、美味しいところに食いつくことしか考えない、どっちつかずの蝙蝠野郎と受け取られかねませんからね。この辺の『主人公がヘタを打ったら報いが来る』という展開は普通に好感が持てます。尤も、内政面は兎も角、外交面では只管ヘタを打ち続ける主人公というのも考えもの。

 

小野政次「何度も何度も同じ過ちを繰り返し、井伊家は滅びるべくして滅ぶ」

 

と闇堕ちしたての但馬守が評した頃から何も成長していない……しかし、ヘタを打ったのは怨敵である今川領を武田と折半というビックチャンスに舞いあがってしまい、今川を滅ぼしたら、武田と直に国境を接することに気づいていない徳川も同じか。のちの天下人でさえ、判断を誤った局面なので、直虎が悪手を打ったのも已むを得ないともいえます。この時期の徳川・今川・武田の関係性は中国の宋・遼・金に比することが出来るかも知れません。双方とも、目先の利益と生の感情に任せて外交を判断するとロクなことにならない典型事案ですから。

 

 

3.今週のMVP

 

しの「何故、斯様な小さい国衆が戦の勝敗を動かせるなどと思うたのですか?」

真田昌幸(思うたら)いかんのか?」

真田信幸(実行に移したら)いかんでしょ」

 

ぐうの音も出ないほどのド正論で直虎を叱責するしのさん。上杉、北条、徳川、織田といった強豪を相手に領土を保持し続けた昨年の一族は、色々な意味で規格外であったことを今更ながらに実感してしまいますが、しかし、単純にそういう話でもないかも知れません。昨年のスズムシは戦そのものを避けようとはしなかった……というか、明らかに戦をエンジョイしていたのに対して、直虎は初手から徳川への恭順というラストカードを切ってしまっています。自分たちの戦略が通らない時は一戦をも辞さないというポーズを取らなければ、国同士の交渉は成立しません。やれ、秀吉の凋落も近いから上洛しないとか、やれ、甲斐と信濃を約束しないと西軍につかないとか、傍から見たらスズムシ自重しろといいたくなった諸々の言動も、実は現実的な外交手段であったのではないでしょうか。まぁ、その所為でお兄ちゃんの寿命がガシガシ削られていたのも事実ですが、軒しのぶさんの計算によるとお兄ちゃんの本来寿命は百八十二歳くらいあったので、結果的に丁度よかったともいえます。

さて、直虎の外交姿勢をケチョンケチョンに問い質したしのさんは、直虎には『虎松には自分が言い含める』といいつつ、当の虎松には『母は嫁ぎたくない』と漏らすという、亡夫である井伊=サイコパス=直親を思わせる食言ぶりを披露。これは虎松に井伊家の問題への当事者意識を自覚させるための『フリ』でしたが、或いは、

 

しの「虎松がうまく直虎を丸め込めば、私が人質に行かずともすむ。失敗しても特にペナルティはない。どちらに転んでもOK」

 

とか考えていたかも知れません。そして、母上と別れたくない、母上は自分のことが一番大事な筈ではないかと号泣する虎松への、

 

しの「そのとおりです!」

 

は亡き児玉清さんばりに声が張っていました。貫地谷さん、あんな逞しい声出るのね。今回はキャラクターといい、中の人といい、しのさん&貫地谷さんがMVPで決まり。異論は認めない。

 

 

4.南渓「これは(虎松は再)教育やろうなぁ」

 

虎松「和尚様、答えは一つではないのですよね? 殿は考えつかぬだけの阿房なのではございませぬか?」

井伊直虎「」

南渓「……ハハハ、因果因果」

 

見事に直虎を直撃した過去のブーメラン発言。しのさんの代わりにあやめさんを影武者に仕立てようという色々な意味でハイリスク・ノーリターン極まる発想に思い至った時の、

 

虎松「そうじゃ……そうじゃ!(ピコーン!

 

という余計なこと閃いた感も直虎そっくりでした。子供は大人の真似して欲しくない点を見て育つ。はっきりわかんだね。勿論、贋者と露見した時のリスクを恐れた直虎は採用しませんでしたが、この虎松の発想は贋者の家康で井伊=サイコパス=直親をハメた今川や、何かと影武者説がつきまとう家康の思考に近いものがあります。少なくとも、まんまと影武者作戦にハマった父親よりは賢そう。或いは父親の死の状況を聞いていて、そこから思いついた策であったのかも知れません。

 

次回のサブタイは『潰されざる者』。パッと見、昨年の大河に相応しいサブタイっぽい。個人的には『死せる寿桂尼、生ける直虎を走らす』とか思いついたのですが……ダメ?

 

 

 

 

 

 

 


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