ここ一、二回が『タメ』であったことを証明するかのように、なかなかの出来栄えを見せた今回の『真田丸』。秀吉と秀次の関係を『善意の空回り』として描くのが如何にも三谷さんらしいですね。まぁ、大河ドラマというよりも三谷ドラマと評するべき内容ではありましたが、そもそも、三谷さんに任せたら今回のような展開になるのはコーラを飲んだらゲップが出るくらいに確実、或いは小松江里子(呼び捨て)に脚本を描かせたらクソ大河になるくらいに確実でしたので、この辺は文句をいっても仕方ないと思います。
尤も、クライマックスでモニョッとなることに定評がある『真田丸』ですから、次回は意外と危ういかも。途中経過は如何あれ、最終的に秀次が行き着く先は畜生塚ですから、秀吉との関係を善意に拠る誤解に留めておくのは、次回のハードルを自らあげたようなもの。これは難易度高いぞ。『黄金の日日』の助左が登場するので、信繁が秀次をルソンに逃がそうとするも、秀次は前途を絶望して自害する展開かも知れませんが、ここは自暴自棄になった秀次がガチで殺生関白になるほうが楽なんじゃあないかと余計な心配をしてしまいました。何れにせよ、秀吉が秀次の一族妻子を誅戮するに至る動機が描かれるかが最大の焦点になると思われます。取り敢えず、前フリとしては概ね及第点の今回のポイントは4つ。意外と少ない? その分、各章の文章は多目です。
1.深読み男と考えない女
大蔵卿局「お父上が判るのですね。笑っていらっしゃいます」
勿論、父上とは秀吉を指しているのでしょうが、懐妊時の大蔵卿局の物言いたげな表情を想像すると、何やら含みがある発言に思えてなりません。そして、この場に居合わせた秀吉以外の男は秀次、片桐且元の二名。秀次には懐妊時のアリバイがある&拾の存在に脅えていることを考えると、残る容疑者は約一名。流石は秀吉の目の前で猿回しを披露した闇深男の片桐且元。好々爺とした(そんな年齢でもありませんが)仮面の下で何気に秀吉を見下しているのでしょうか。まぁ、100%深読みのし過ぎだと思いますが、深読みをする側には他に真実はないと思ってしまうのは、直後の秀次のリアクションで証明されています。全く、
豊臣秀吉「ワシは日ノ本を五つに割けようと思っておる。そのうちの四つをおまえにやるから、一つだけ、拾にやってくれんか?」ニコニコ
なんて言葉は遠回しに『関白をやめろ』といわれていると誤解されても仕方ありません。人間関係って難しいね。
一方、深読みどころか、まるで現実そのものを把握できていないのがきりちゃん。
きり「初恋の女子が他所の人のものになるのですよ?」
真田信繁「おまえは、殿下の、側室に、なるべきだ」
きり「…………ずっと待っていたのに!」ダッ! チラッチラッ!
の件はメチャクチャ笑った。そりゃあ、信繁にしてみたら、ウザい女が目の前からいなくなる訳ですから心の底からおめでとう&地雷女を引き取ってくれる秀次にありがとうという言葉しか出てきませんよ。きりちゃんを見送る堺さんの表情がツボに嵌り過ぎでした。『何処か遠くの私の知らない場所で、いつの間にやら私の知らない間に幸せになってくれ』という心底がアリアリと見えました。このシーンから逆算して堺さんをキャスティングしたといわれても納得するレベル。
2.ボンクラーズ
豊臣秀俊「太閤殿下は能がお好きでございます。殿下も能を習われてはいかがですか?」
豊臣秀次「……急な話だな」
『おう、メタ発言やめーや』と突っ込みたくなった金吾と秀次のやり取り。確かに善意に拠る誤解を演出するための強引な筋運びですが、史実の秀次も能にのめり込み過ぎて、秀吉の不興を買っているので、この辺はOKです。そして、秀秋の口から出るとどんな名案も滅亡フラグに聞こえてしまうのは先入観に拠る偏見というものでしょう、多分。しかし、まぁ、この三人が雁首揃えるとマジで豊臣家の将来はヤバいなと思えてしまいます。
豊臣秀次「殺生関白!」
豊臣秀俊「関ヶ原寝返り!」
豊臣秀保「エクストリームワ○ミダイビング!」
秀次・秀俊・秀保「三人揃ってダメ人間! ボンクラーズ参上!」
うーん、このボンクラーズ。まぁ、今回の能の師匠も師匠で、
宇喜多秀家「この宇喜多秀家、戦にせよ、能にせよ、隅々まで疎かにせぬことでしられております!」
と関ヶ原直前の御家騒動のフラグを口走っちゃっていました。あれはおまえが家中の統率を疎かにした所為じゃあないか。コイツはコイツで充分に残念系です。案の定、
豊臣秀吉「関白は他にやるべきことが幾らでもあるだろう!」
と痛烈なダメ出し。いやぁ、この時期の秀吉は大抵の作劇で耄碌しちゃっているのですが、本作は『誰よりもしっかりしている』という旋回の信繁の発言通りでした。次の場面で『兄を差し置いて、官位は受け取れない』という信繁の言葉に、
豊臣秀吉「わしゃあ頭ぁ悪いんで、よう判らんのだが、おまえは自分が官位を貰うのでは足らず、兄にも与えよと申しておるのか?」
と質の悪い絡み方をしたのは、耄碌というよりも秀次の不祥事に端を発する悪酔いでしょう、多分。『おまえは父親に似て油断がならない』という秀吉の辛辣な物言いも日頃のスズムシの言動を慮れば、残念ながら当然。むしろ、ここでは秀吉よりも治部に問題アリ。
石田三成「源次郎は分不相応だと申しておるのです。断る口実として、兄のことを持ち出したのでは?」
どう見ても事態を悪化させたのは上記の治部の一言。『官位の叙任は関白の職責です(`・ω・´)』という秀次(覚醒ver.)の執り成しでよろず事なきを得ましたが、空気が読めない奴は他人の会話に嘴を挟まないで欲しい。ここ数ヵ月、職場で同様のタイプ……要するに人をイラッとさせる天才に色々とお見舞いされて、些かノイローゼ気味なので、今回の治部にはガチでイラッとした。或いは先回で信繁と刑部が急接近したので、ツンケン当たりたいのかも知れません。何気に今回は治部と刑部の間で私的な会話がなかったことを慮ると、恐らくは『冷戦中』なのでしょう。痴情怨恨を職場に持ち込まないで欲しいのですが。
3.今週の日曜どうでしょう
真田信幸「京へのぼるぞ。この度、帝より官位を頂くことになった。其方も参るのだぞ。近々、出立するので身支度を整えておくように」(`・ω・´)
相変わらず、公務に関しては身内に強気に出ることができるお兄ちゃん。公私の別がついている立派な人間なのか、それとも、単純に私生活がヘタレなのか。多分、両方。嫁のほうは『ウナギパイが恋しいので浜松に帰りたい』と巷説で囁かれる鬼嫁の片鱗は欠片も見られない可憐な物言いでおこうさんを困らせます。おこうさんがここまで元気になったのを思うと、三谷さんが稲を後半で大きく成長させる気なのは間違いないのでしょう。その辺は信用していますが、問題は稲の成長に割く尺が残っているか否か。スケジュールに関しては信用できない三谷さんなので、些か心配ではあります。いや、益岡徹さんも素晴らしかったですが、それでも『巌流島』の佐々木小次郎は陣内孝則さんで見たかったよ。
さて、そのおこうさん。『つらい思いは貴女だけではない。ご存知なくとも貴女よりもつらい思いをしている者もいる』と稲を励まします。自分を正室の座から逐った相手を励ますのはなかなかできるものじゃあありません。そうだよ、今この場で一番つらいのはおこうさんなんだよ。畜生、いいシーンじゃあねぇか……と思っていたら、
豊臣秀吉「お主もよい弟を持ったな。こやつ、最初は断ってきたのだぞ。『兄を差し置いて官位は頂けません』と。伊豆守は弟に頭があがらんな」
真田信幸「父上はご存知だったのですか?」
真田昌幸「知っとったよ?」
一番辛い目に遭ったのはお兄ちゃんでした。
何という『水曜どうでしょう』劇場。続くお兄ちゃんの台詞は、
大泉洋「また私だけ蚊帳の外でしたか!」
と表記しても問題ないと思う。ここまでくると大泉さんの前世がお兄ちゃんといわれても納得してしまいそうになります。騙されっぷりが板につき過ぎ。
更にスズムシはスズムシで『もらえるものは病気以外なら何でも頂くぜ』と某鉄球使いのようなことをいうし、弟は弟で『兄上を支えるつもりで左衛門佐の官位を頂きました』とかいうし。そうだけれどもそうじゃあねぇよ。考えが足りないんじゃあない。頭が回り過ぎるのが問題なんだよ。信繁が先に任官されても、お兄ちゃんは落ち込むかも知れないけれども、絶対に傷つかないよ。でも、そうやって、怒りが向かいそうな場所を全て予め封じ込まれたら、自分が弟の掌で踊らされている屈辱に傷つくのですよ。この辺は真田家も豊臣家も同じで、共に無駄な深読みや先回りの気遣いが全部裏目に出ているという対比になっていました。実に上手い。
そして、伏見城の普請を押しつけられたスズムシ。コイツは絶対に隠し扉を作るぞ。もしかすると慶弔伏見大地震の時に、屋内に閉じ込められた秀吉が偶然発見した隠し扉から脱出するという展開あるかも。
4.今週のMVP
まぁ、今週は秀吉で決まりでしょう。実をいうと私は本作の秀吉のキャラクターを然程には評価していなかったのですよ。確かにサイコパスじみた言動には恐怖を覚えましたが、その恐怖の淵源は何かというと立花権左の存在と消滅が全てなんですね。茶々と目配せしたというだけの理由で、一切の台詞もないままに物語からの退場を余儀なくされた権左の描写があったからこそ、視聴者は『秀吉って怖い人だな』と思った訳で、秀吉単体としての怖さが出た場面は決して多くはなかった。バファリンの半分が優しさでできているように秀吉の恐怖の半分は権左でできていたのですよ。
しかし、今回は秀吉単体としての怖さが全面に出ていたように思います。それも、悪意ではなく、正論と善意という形で。
豊臣秀吉「全てはあやつの心の弱さが元じゃ! あやつが強くならないかぎり、会っても話すことなど何もない!」
これ、作中では全くもって秀吉の言葉が正しいのですが、しかし、正しさが威圧感を持った時、人は相手の言葉を額面通りに受け取らないという、人間社会のリアルな恐怖の描写にもなっていました。こういう形で秀吉の恐怖を描くとは思わなかったです。三谷さんは決して通り一遍のキャラクター造形はしませんね。善かれ悪しかれ、必ず捻ってくる。それがグダグダになることも侭ありますが、今話の秀吉に関しては目新しく、面白く働いていたと思います。
次点……ではありませんが、気になったのは信尹叔父さん。
ナレーション「真田信尹が信繁の人生に大きく関わってくるのは、これより二十二年後、大坂の陣においてだか、それはまだ、遠い先の話」
え? ひょっとして、信尹叔父さんは大坂の陣まで出番ないの? 今年の大河キャラクターベスト10入り確実のお気に入りなので、それは寂し過ぎるぜ……。
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『真田丸』第27回『不信』感想(ネタバレ有)
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