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『真田丸』第26回『瓜売』感想(ネタバレ有)

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『清須会議』や『ギャラクシー街道』と、ここ最近はアレな印象の作品が続いている三谷さんの映画。アレな原因に対する私なりの分析をさせて頂くと、

ギャグが中途半端に笑えてしまう

ことでしょうか。『ギャラクシー街道』でいうとキャプテン・ソックス。あれ、私的にはメチャクチャツボで大爆笑してしまったのですが、他の場面は漏れなくダダ滑りといいますか……キャプテン・ソックスが面白かった分、他にも笑える場面があるだろうと思い、最後まで見てしまいました。何というか半生のグラタンを食べさせられた感じに近いですね。端緒から生と判っていたら手を出さないのですが、序盤の一口がイケたために手を止めることができず、ズルズルと食べ続けた結果、大ダメージを被ってしまったという印象です。
今回の『真田丸』も『ギャラクシー街道』に近い印象を受けました。チョコチョコと面白い場面はあるものの、全体的には煮え切らないギャグが目立った半生クオリティ。サブタイ的にも今回は『組!』の『寺田屋大騒動』のような内容を期待した方も多かったと思うのですよ。三十話台半ばで刑部殿がノーマルメイクで撮影をしているほどのタイトなスケジュールで大丈夫なのかという話もありますが、今回は瓜売ネタで一話全部をギャグに振り切って欲しかったと思います。色々と手を広げ過ぎた感が否めない。
尤も、今回は第三クールの始まり。各クールの第一話は敢えてピリッとしないものを出す&当該クールの伏線を重視するのが今までの本作のヤリクチですので、迂闊な批判は控えましょう。実際、宇喜多秀家の性格描写や、信繁の嫁が立て続けに登場するなどの第三クールの主要人物にスポットを浴びせることを重視していたようですし。今週ラストで稲姫も真田の家族の輪に入ってきましたからね。遂に後半戦に突入した『真田丸』。今回のポイントは5つ。


1.主導権

大谷吉継「ようやく日ノ本から戦がなくなったというのに、殿下は鶴松様を亡くされて、おかしくなってしまわれたのではないか?」
豊臣秀吉「太平の世になったからこそ、明国を討たねばならんのだ。人には仕事を与えねばならん。人は仕事がないと碌なことを考えぬ。明国に攻め入る。これぞ、まさに武士の大仕事。太平をひっくり返そうなどと考える者はいなくなる。そのための戦よ」
真田信繁「殿下は決しておかしくなられた訳ではありません。むしろ、恐ろしいほどにしっかりされておられます」
石田三成「そういう訳だ。忙しくなるぞ、刑部殿」


煬帝の『外征が国内の安定に繋がる……そう考えていた時期が朕にもありました』とのボヤきが聞こえてそうな、いわゆる『唐入り』の動機。国内統一に用いた兵力の雇用策を外征に求めるのは世界史の共通現象であり、取り立てて珍しい話ではないのですが、何故か秀吉に関しては、鶴松を亡くして狂ったとか、大政所を亡くして狂ったとか、秀長を亡くして狂ったとか、利休を死なせて狂ったとか、既に狂っていたとか、存命中にもレオンに『狂った』とかいわれてしまうのは不憫ではあります。まぁ、最終的に負けたからね。仕方ないね。勝って増やした領土を恒久的に維持できていたら、ここまでいわれなかったでしょう。それでも、大河ドラマで『秀吉が狂った』という動機ではない唐入りをやってくれたのはありがたい。これが今後のスタンダードになると更に嬉しいのですが。
この場面ではむしろ、刑部殿のほうが狂ったというか、今までの場面と矛盾する発言のオンパレード。小田原攻めの際に『これは唐入りの予行演習かも知れん』とかドヤ顔で解説していたくせに、何を今更のように驚いているのでしょうか。若年性の健忘症? 否定していた宗匠の祟り、ガチであるかも。逆に先回はいいように刑部に弄ばれていた(意味深)な治部が、今回は会話や仕事の主導権を取り戻していました。恐らくは攻守が逆転するナニかがあったでしょう。でも、最初に持ち掛けたのは刑部のほうだと思う。


2.サイコパス多過ぎ

加藤清正「色々あったが、わしは根に持たぬ男じゃ」

あまりにも突っ込みどころが満載の虎之介の台詞。まず、殺そうとした加害者側の台詞じゃありません。次に虎之介と色々あったのは治部や刑部であり、信繁ではありません。何故、信繁が虎之介に根に持たれなければいけないのでしょうか。会話が成立しないアホが一人登場。斯くも他人の感情を考慮できないサイコパスが二十万石の大大名で、しかも、先鋒司令官の双璧。全く安土桃山時代は世紀末だぜ。しかし、そうであるからこそ、信繁も虎之介をアブない男と評したのかも知れません。理屈で判らない部分で怨まれるほどに恐ろしいことはありませんからね。
そんなアブない清正と舅のカブトムシの間で右往左往する羽目になるお兄ちゃん。いや、別に清正はスズムシと信繁に任せて、貴方は舅殿の相手をすればいいんじゃあないですかね? 兄の名代を務めるのも弟の役目でしょうし。スズムシもスズムシでそういう助言をしてやりゃあいいのに、

真田昌幸「どっちを断っても殺されるって……おまえ? どうするよ?」ニヤニヤ

と何故か嬉しそう。他人どころか、息子の気持ちも汲まない男が小なりとはいえ大名で、しかも、主人公の実父とか……でも、確かに本作のスズムシはココでニヤニヤするキャラクターなんだよなぁ。この場面の草刈さんの笑顔は最高でした。


3.新キャラクター悲喜交々

宇喜多秀家「わしは何時頃、向こうに渡れるのだ?」

泳いで渡ればいいんじゃね?

一部視聴者が全力で画面に向かって突っ込んだであろう、備前宰相の台詞。いや、勿論、秀家が『泳いで参った』訳はないのですが、ネット社会における印象とは恐ろしいものです。演じるは高橋和也さん。鬼美濃(馬場版)やんけ。
そして、信繁の正室となる刑部殿の娘御も登場。

「私は何処に向かっているのでしょう?」
与力「グッド!」ガッツポーズ!


私は先週の放送で本作の刑部の娘御は不思議ちゃんになるとの確信を抱いておりました。この点は先週お会いした際に穂積さんとも意気投合しております。あの闇深の刑部殿を普通の男性と思って育った女の子が、こうならない訳がありません。このキャラクター設定は必然ですね。超納得。登場シーンのSEといい、ティンカーベルのような妖精系のキャラクターとして描かれる模様。でも、初登場時に信繁の背後を駆け抜けたシーンは一瞬、きりちゃんかと見紛いました。直前に、

茶々「皆、身内を連れてきてもよいそうですよ。あの子は? きり……でしたっけ?」
真田信繁「『アレ』は身内でも何でもありません(即答


と些か食い気味で返答するシーンがあったので、てっきり、きりちゃんがシレッと現れるフリかと思いました。この辺、笑いを優先するのであれば、絶対にきりちゃんを持ってくるべきでしたが、そうではなく、些か必然性の薄い春のほうを登場させたのは、今後の伏線なのでしょう。尚、先回チョロっと初登場を果たした秀勝の訃報はサラリと流されました。ちなみに史実通りの戦病没で決して現地民を庇って死んだ訳ではないようです、念のため。


4.豊臣ヒゲ次の憂鬱

豊臣秀次「私の腕の中で息子は息を引き取った。その時、私は息子の顔を眺め、そして、ほっとした。『これで叔父上に睨まれなくてすむ』。息子の死に顔を眺めながら、私はそう思った! 許してくれ……この不甲斐ない父親を許してくれ!」
きり「」ヒシッ


創作ギャグパートが全面に出された今回のストーリーで、殆ど唯一歴史劇パートを担っていたのが豊臣秀次。今回からヒゲつきになったものの、貫録を増すどころか、残念なイケメンぶりに磨きがかかったように見えます。勿論、本作の秀次にかぎっては褒め言葉です、念のため。『愛すべきアホ』という単語を純粋培養したのが本作の秀次ですので。
さて、関白就任という人生のピークも束の間、茶々の懐妊に恐れ戦くヒゲ次。茶々の懐妊に己の地歩への不安を覚える秀次というのは結構あるパターンですが、生まれて間もない我が子の死に安堵する己のダメさ加減に泣くというのは珍しい。この時点では既に秀次には嗣子がいるので、今更男児が生まれたことを恐れなくてもいいように思いますが、そこは絶頂から奈落へという秀次の生涯を際立たせるための工夫でしょう。そして、そんなダメさ加減に思わずハグしてしまうきりちゃん……これはだめんずウォーカーへ一直線ですわ。折角、父親が秀次の申し出を断るほうへと背中を押してくれたのに……いや、でも、内記も相手が秀次と聞いたら、めっちゃ未練がましそうでした。

高梨内記「関白殿下に見初められたならまだしも!」
きり「その……関白殿下なんです」
高梨内記「」


この遣り取りはティベリウス・グラックスの逸話を思い出してしまいました。
ついでに今回の茶々の懐妊。どうも胡散臭いものを感じさせる描写が目立ちますな。寧々の反応は元より、先回の懐妊時と同じように齧歯類を思わせる健啖家ぶりを見せる茶々を見る大蔵卿局の視線に穏やかならざるものを感じました。


5.今週のMVP

真田信繁「……殿下は己を見失っているようです」
真田昌幸「何故判らぬ?」


通常、この時期の秀吉絡みで出てくる上記の台詞は『唐入り』について用いられるケースが多いですが、今回は瓜売の『やつしくらべ』の上手い下手について。秀吉と家康の秘密会談といい、とことん、斜め上か斜め下を狙わずにはいられないのが三谷さんの作風でしょう。大抵の創作では秀吉の瓜売のハマリッぷりが描かれるのですが、まさかの大根役者ときたもんだ。そういや、上記の家康との会談の時もあがり症とか自分でいっていましたね。こんなところでの伏線回収……いや、でも、あがり症の人間はそもそも『やつしくらべ』をやろうとは考えないんじゃあないのか?
さて、今回のメインイベントとなった『やつしくらべ』ですが……うーん、イマイチパンチ力。負けてガチで悔しがるカブトムシとか、秀吉に一服盛ってやるとかいう出浦さんの物騒な物言いとか、結構笑える場面はあったものの、ガツンとした笑いには至りませんでした。他のシーンでも、カブトムシに飲酒を悟られまいと呼吸をとめるお兄ちゃんのシーンや、昨今の大河の悪癖ともいうべきナレーション無双を力技で覆すとりさんの『ちと早過ぎた』というメタ発言などが散りばめられていた所為で、メインの『やつしくらべ』の笑いが目立たなかったですね。色々と手を広げ過ぎ。ストーリーは別として、ギャグは『やつしくらべ』に集中してくれたほうが面白くなったと思います。
それでも、とりさんの臨終のシーンはネタに奔った割にはよかったです。特におこうさん。侍女扱いのおこうさんは部屋の外で控えている。逆に稲姫は躊躇いながらも部屋に入る。両者の立場と心情と一度は明確に描いておきながら、イザという時にはおこうさんにも入室させる辺り、本作のスタッフは批判されないギリギリのことをワザとやっているとしか思えないのですよね。本当にいやらしいぜ。

あ、発表が遅れました。今週のMVPは三名。
一人目は草刈正雄さん。スズムシではなく、草刈正雄さん御本人。もうね、瓜売の真似が本当に巧かったのよ。これは確かに秀吉と同じ舞台にあげてはいけないと誰もが納得するレベルでした。二人目は春。闇深の刑部殿の息女は不思議ちゃんに違いないという当初の予測が完全的中したこともありますが、初登場時に画面の上手から下手に抜ける様子がガチの妖精ぽくて目を奪われました。本編での今後の活躍に期待。三人目は片桐且元。秀吉の前で猿回しを演目にする且元の度胸半端ねぇ。コイツは小心な胃痛持ちキャラで売っていますが、ある意味で秀吉や刑部以上に闇が深いのかも知れません。

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