最初に今回の点数から発表しましょう。
100点満点中、98点です。
もう、殆ど完璧……というか、作劇的には100点満点でした。何がアカンかったかというと『お兄ちゃんが平八郎の娘と結婚する』『真田が上田合戦で徳川を二度も撃退する』という二回のネタバレ系ナレーション。大河の一見さん向けの配慮なのかもですが、これは言わないほうが先の楽しみがあるじゃないですか。本作は後世の視点から戦国を見るのではなく、真田家という決してマクロではない国衆の目を通した戦国を描くことを主眼に置いているワケですから、先々のことをナレーションで語られると興醒め。逆にいうと、それ以外は完璧。寧ろ、こんなに面白い歴史劇が書けるのでしたら、一昨々年の『清須会議』の出来栄えは何だったのかと小一時間ほど問い詰めたくなります。今更ながら金返せ。そんな『思い出し怒り』に駆られた今回の『真田丸』のポイントは5つ。
1.ツンデレとヤンデレ
北条と徳川の電撃和解で逆に窮地に立たされた小県の国衆。室賀さんは昌幸君のバカ! もう知らない! とツンデレ平常運転。逆に気になったのは出浦さん。『あれは何時もの癇癪だ、気にするな』と昌幸を慰めますが、これがのちのち、大騒動に至るのは今回のヒキ~次回予告からも明らかなのに、出浦さんほどのキレ者がそれを察知し得なかったのは些か意外。もしかすると室賀さんと出浦さんは昌幸を巡るライバル同士なのかも知れません。今までも表面上は室賀さんと仲良くしつつも、裏では相手を追い落とすための穴を掘削していましたからね。ラインハルトを巡るロイエンタールとオーベルシュタインのような関係といいますか。今回の件も『これで昌幸は俺のもの』と心中ほくそ笑んでいたのではないでしょうか。これがヤンデレ系の恐ろしさ……!
ちなみに、この場面で『徳川が北条との和睦を急いだ理由』とは、終盤で語られた秀吉との戦支度のこと。ここ、伏線の回収までに時間がかかりましたが、フラグ即回収では芸がないので、これくらいの間があってもいいんじゃないでしょうか。
2.お兄ちゃん無双
真田信尹「三河守さまが約定を必ずお守り下さる御方と信じましたゆえ、真田がお味方致したこと、くれぐれもお忘れなきよう」
尚、真田が約定を守るケースは稀な模様。
それどころか、裏切りを唆した相手をハメ殺すという鬼畜極まる謀略の片棒担いだ信尹でした。続くお兄ちゃんVS家康&平八郎のシーンでは、上杉の脅威を口実に俺らの城を作れとか……『おまえら真田が一番の脅威だろ』と視聴者の殆どが画面に向かってツッコんだことでしょう。まぁ、上杉が信州に出張ってきたら、北条との二正面作戦を強いられる徳川としても、上田平に軍事拠点を構える機会を得るのは勿怪の幸いですが、問題はそこを守る人間が信用に値するか否かです。うん。無理。呂布に赤兎馬を与えて忠誠心を買おうとするようなもの。どう見ても寝返りフラグです。本当にありがとうございました。
その条件を呑む代わりに沼田を北条に引き渡せとの家康の言葉にも、頑として首を縦に振らないお兄ちゃん。煮え切らない物言いの家康に対しても、
真田信幸「『じゃが』ではござらん!」
と一喝します。これは確かにお兄ちゃんでないと説得力ないわ。昌幸や信繁のように駆引きありきの為人ではなく、常に王道を歩もうとするお兄ちゃんの言葉であるからこそ、視聴者も徳川の弱味につけ込んだ真田のワガママではなく、大国の理不尽に抗おうとするローカルヒーローの活躍のように錯覚してしまいそうになる。交渉直後のシーンでの二晩連続で深夜バスに放り込まれたような脱力した表情も◎。そういや、懸案の沼田は『絵ハガキの旅』で最初に大泉さんが引いた場所でした。当時『ハズレハガキ』とか『幕ノ内弁当の醤油』とかクサしていた罰が当たったのでしょう。御愁傷様です。
でも、一番印象に残ったのは、お兄ちゃんの一喝の前の信繁。表情はポーカーフェイスを装っているのですが、喉がゴクリと動いているのよ。こういう小さい演技ホントすこ。
3.帰還
沼田の明け渡しを渋る真田に対して、家康は木曽義昌から譲り受けていた人質の中にいたとりさんを返還します。こうやって見ると家康のほうがマトモだよなぁ。城の建設費を肩代わりして、木曽に奪われていた人質も返して……確かに国力に物を言わせた恫喝外交の一面もあるけれども、交渉のボールは全部真田サイドに投げているんですよね。問題は真田の側が交渉のボールを家康にではなく、近隣の有力大名の窓ガラスに投げ込んでいることでしょう。しかも御丁寧にマジックで家康の名前をボールに書き込んで。や真鬼。
めでたく真田の里に帰還したとりさん。そうなると再燃するのが次の人身御供……ではなく、人質候補。薫さんは自分が行きたくないものだから、信繁に嫁を取らせて、その女を送り込めと暗に仄めかせます。や真鬼。きりちゃんはきりちゃんで『そういう発想は如何なものでしょう』と批判していますが、要するに自分が信繁の嫁になった時に人質にされるのが嫌なのでしょう。や真鬼。まぁ、当の信繁はとっくに梅ちゃんとの間に子供を儲けていたのですが。あのよるはおたのしみでしたね。や梅鬼。
あと、何気にお兄ちゃんの嫁のこうさんって、身体弱いネタで最終回まで生き残りそうに思えてきました。大往生を遂げようかとする信之の隣で、いつも通りにゲホゲホ。『おまえ、何時になったら死ぬんだよ!』と視聴者全員から突っ込まれるシーンで終劇とかあると思います。
4.北条キラー
使者「この城は、そもそも北条の物である。さもなければ……」
矢沢頼綱「」ブスリ
GGE御乱心!
まさかの無言成敗とか。仮にも主人公サイドの……『平清盛』でいうと家貞クラスのキャラがやることじゃねぇ。史実でしょうけれども、メッチャ笑ってしまいました。多分、あの槍は『小松明』。夜間使用時に周囲を照らすと共に、使用者に光学迷彩を施すという言い伝えのチート武器です。この武器を片手に矢沢頼綱は幾度も北条の大軍を撃退しました。長野業正といい、上野という土地にはチート武将の活躍を後押しする環境が整っているのか。
しかし、この場面でGGEが無言で使者を刺殺したおかげで、信繁による上杉との交渉シーンが光りました。善悪は兎も角、道理上は明らかに分がある北条の使者さえも無言で殺されるのですから、況や、真田にいいように騙されて、貴重な人材を失った挙句、実行犯には高飛びされた上杉に使者として赴くことの危険度は、その比ではない。単純にエピソードとして痛快なだけでなく、後半の展開への布石になっていました。
5.或るJE市民のお願い
今年の大河ドラマを上杉景勝と直江兼続の作品として認めて頂けないでしょうか?
だって、今回の上杉主従、メッチャカッコいいんだもん! 一度は自分を騙した信繁の申し出を『此度も騙されたとしたら、それは自分の器量不足』と受け入れる景勝と、その景勝の器の大きさと裏返しの馬鹿正直さを補うために常に目を光らせている兼続。これが軍神亡きあとの越後の二本柱のあるべき姿ですよ。何かあるとアイトギガーアイトギガーという珍妙な鳴き声で周囲を煙に巻くしか能のない下等生物が直江兼続のワケがないんだよ! これは今年の謙信公祭のゲスト出演あるかもと期待しちゃいますよ。しかし、登場時のBGMは『真田丸』のテーマになるんだろうなぁ。ガックンの時もメインのBGMはコッペパーン♪だし……JE市の観光行政は他県の大河ドラマの褌に頼りきりというのが悲しい。ちなみに個人的に今年の謙信公祭のゲストのガチ予想は、
雪花の虎 1 (ビッグコミックス) (ビッグコミックススペシャル)/小学館
¥750
Amazon.co.jp
の作者の東村アキコさん。これはこれで!
さて、前半のお兄ちゃんVS家康・平八郎と共に今回のクライマックスとなった信繁VS景勝&兼続の変則タッグ対決。自分たちで家康を引き入れておいて、上杉に徳川の脅威を説く言い分といい、ボニーウォー(インチキ戦争)で北条の侵攻を食い止めようとする遣り口といい、まさにマッチポンプという言葉は真田のためにあると評しても過言ではない。このシーンで第2話の感想で私が禁句と書いた、
上杉景勝「……面白い!」
という台詞が出てきますが、この景勝の『面白い!』はアリです。信繁が唱えた策が失敗しても、上杉に何の損もない。成功した場合も周辺諸国への示威になる。よく練られた計略でしたからね。私の『面白い』への警戒心とは、面白くも何ともないものをキャラクターに『面白い』といわせることへの苦情であって、今回はキチンと面白いと感じ取れました。ただし、景勝が信繁の策に乗ったことで真田との腐れ縁に火がつき、徳川と絶縁して以降の上田城の建築費用を肩代わりさせられたり、第一次上田合戦では『おう、家康への牽制をサボッたろ? 国境地帯焼き討ちにするぞ?』と文句をつけられたりしたので、やはり、長期的には損であったのかも。兼続は泣いていい。泣くといえば、上記の『面白い!』の台詞の時、景勝演じるエンケンさんの目から涙が零れたんだよなぁ。これって泣くほど愉快であったのか? それとも、機智に溢れた若武者の健気な姿に目頭が熱くなったのか? 何れにせよ、兼続はもっと泣きたい立場なんやで。
そう、その兼続!
愛の前立てがこんなにカッコいいとは思わなかった! 『天地人』の時は前立ての『愛』が『LOVE♡』にしか見えなかったですし、たぶちんの『名状しがたい大河のようなもの』に特別出演(笑)した時は失笑しか浮かびませんでしたが、今回はちゃんと『愛』に見えたよ! 虚空蔵城の戦い(?)も、本作では芝居ということもあって事実上合戦シーンとは呼べないにも拘わらず、拙劣な合戦シーンよりも遥かに緊張感ありましたよ。モブの兵士が、
「油断するな! 敵は真田ぞ!」
と叫んだ通り、芝居に見せかけて、虚空蔵城を乗っ取る計略の可能性もありますからね。今回、何気に一番マトモなことをいったのがこの兵士。テロップで名前が見たかった。
何というか、今回のボニーウォーは何かというと合戦シーンを見せろという古参のファンに対する強烈なアンチテーゼじゃないかと。『実際に合戦しないシーンでもこれだけの緊張感を出せるんやで』という製作陣のメッセージではないかと思いました。まぁ、そんならそれで普段からそういうシーンを放送しろということなんですが。
そして、何気に佐助がグッジョブ。今まで佐助が藤井さんというキャスティングに疑問があったのですが、今回のようにモブに紛れて流言飛語を飛ばすシーンが凄いハマッていることに気づきました。そうか、そういうことなのね、そうなのね。
いや、今回はほぼ満足な内容。その証拠に既に4回くらい本編見返しています。次回へのヒキも完璧。近藤正臣さんによる『死んで貰います』は色気があり過ぎていけねぇ。そして、ツンデレ室賀が遂にヤンデレ面に落ちるのか? 意中の相手が自分の思い通りにならないのであれば、いっそのこと……という『駆込み訴え』のような展開になるのか?
雪花の虎 2 (ビッグコミックススペシャル)/小学館
¥750
Amazon.co.jp
↧
『真田丸』第10回『妙手』感想(ネタバレ有)
↧