「『真田丸』脚本を「つまらない」と一刀両断! アノ大物の“三谷節”批判で、現場大混乱!?」(『サイゾーウーマン』2016年1月30日)
「『真田丸』草刈正雄にNHK会長感謝」(『デイリースポーツ』2016年3月3日)
僅か一カ月で本作の真田昌幸も裸足で逃げ出すレベルの掌返しが報じられたNHK会長。大河ドラマを応援する気があるのかないのか、どちらなのでしょうか。思わず、
こうやって問い質したくなるレベル。後者は兎も角、前者はソース不明の記事なので、信憑性に疑問はありますが、こうも真逆の発言が流布すると、何が真実の報道で何が飛ばし記事なのか判らなくなります。或いは真田昌幸の言動に翻弄される上杉、北条、徳川と同じ心境を視聴者に体感して貰うための身体を張った話題作りなのかも知れません。これがNHKの本気……!
戯言は兎も角、身内を背後から狙い撃つような発言が飛び出さないのは、現場にはありがたいことだと思います。昨年は『おにぎり女』に対するトンチンカンな擁護発言が物議を醸しましたが、某県知事のように画面が汚いとかいう本編と殆ど関係のないクレームを入れる人よりかは(少なくとも現場にとっては)ナンボかマシでしょう。まぁ、BSプレミアムで『武田信玄』の再放送をぶつけてくる辺り、もしかすると今年の大河には何やら含むところがあるのかも知れませんが。そんなリアル真田昌幸を想起するNHK会長の後押しを受けた今回のポイントは7つ。
1.一騎当万
本多忠勝「殿! こうなったからには全力で正面からぶつかりましょうぞ! それが一番の策でござる」
本多正信「そんなものは策でも何でもない」
清々しいほどの脳筋っぷりをアピールする平八郎に呆れる佐渡。私もこのでくのぼうは何をいっているんだと思いましたが、平八郎個人にとっては最上の策であるのも揺るぎない事実。この時の兵力は徳川軍一万、北条軍は五万といわれていますが、徳川の兵が全員藤岡弘、さんだと思うと意外と楽勝……というか、逆に三日で天下が取れそうですよね? つまりはそういうことです。周囲の人間が皆、自分と同じ強さだと思っている。それが本作の平八郎なのでしょう。娘が親父レベルに強いので、そういう勘違いの原因なのかも。
2.アイトギガー
真田昌幸「こやつはわしが気に入らんのじゃ。さしずめ、春日信達の一件であろう。おまえは策とは何かを、まだ知らぬようじゃ」
真田信繁「知りたくありませぬ」
出浦昌相「春日の調略のことだが……信達にも非があった。あやつは恩ある上杉を不服と思い、己の意思で裏切った。自業自得と思わんか?」
真田信繁「私の口から、それはいえません」
他人を裏切り、陥れる策謀に嫌悪感を示す信繁。これ、最近の大河だと『まーたお花畑脳か』とか『戦国武将が何を甘っちょろいことをいっているんだ』と思われそうな発言ですが、先週の春日信達謀殺事件が視聴者ドンびきレベルのドス黒さであったため、全くもって信繁に感情移入してしまいます。登場人物に現代的価値観を語らせるためには、当時の世相が如何にアレかを描いたうえでないと、視聴者は感情移入できないことを弁えていらっしゃる。
この場面では……というか、毎回出番の度に美味しい台詞で場面を浚う出浦さん。確かに春日信達をハメたのは昌幸&信尹ですが、景勝に信尹が不平不満を漏らしていると注進しておけば、斯様な事態は防げたでしょう。一言半句&一挙手一投足にガチで生命が掛かっている緊張感を大河に求めたいと書いたことがありますが、その点で先週の春日信達は合格でした。
3.騙していない、気が変わっただけ
真田信幸「今から百年ほど前に、山城で国一揆があってな。大名たちの跡目争いに嫌気が刺した国衆たちが立ち上がり、自分たちだけで国を治めたのだ。恐らく、父上がやろうとしているのは、それよりもずっと大きなことだ。大したm【略
お兄ちゃんが父親を褒めると、大抵、その回に昌幸の気が変わる。毎度毎度のフラグ回収ご苦労さまです。『お兄ちゃんが肯定したから、この路線では話が進まないな』と判るので、本作で大河デビューした視聴者には話の展開が読める点はありがたいのかも。私なぞは自分の不運や不幸を承知しているお兄ちゃんが、親父の考えがヤバいなと思った時にワザと肯定の言葉を口にしてフラグを立てているように思います。流石は苦労人。
何気に重要なのが国一揆の件。先回ラストで語られた、昌幸主導の国衆による信濃統治案は妙な平等思想にカブれているんじゃないかという意見をチラッと見ましたが、山城国一揆や加賀国一揆のように国人や百姓が大名統治を否定した実例はある。それを回跨ぎでフォローするのが微妙に厭らしい。迂闊に批判するとトンデモない竹箆返しが待っている構造が散見します。
4.ツンデレとツンデレ
高梨内記「おい、源二郎さまは気落ちしておられる。おまえの出番だ」
きり「本当に私でいいのでしょうか?」
いいわけないでしょうか。
『リスクヘッジとして資産の半分をジンバ○エドルに両替しておきました』というのと同じくらいの有難迷惑。案の定、傷心の胸の内に土足であがり込もうとしたきりちゃんを避けるように、信繁は梅ちゃんの元にいってしまいます。そらそうよ。きりちゃんは慰め役に向いていないのよ。これは親父殿が悪い。そのうえ、梅ちゃんから策とは何かの極意を学んだ(気になった)信繁は、きりちゃんが帰りを待っているのを知らずに午前様。ゆうべはおたのしみでしたね。そりゃあ、きりちゃんもツンツンするっちゅうねん。
もう一人のツンデレである室賀さん。これまで、何かというと昌幸の選択に反対してきましたが、今回の国衆による信濃の共同統治案には珍しく、諸手を挙げての賛同を示しました。室賀は昌幸が自分以外の人間に目を向けるのが気にくわないのであって、昌幸のことを心底嫌いではないのでしょう。寧ろ、好き過ぎてツンツンしてしまうという状態ですね、判ります。
5.一番汚いのは昌幸なんですが
堀田作兵衛「また、隣村の奴らがきたねぇ真似しやがって……近頃、こういう揉め事が多くて参っているんです。武田さまの御時勢にはこういう風じゃなかったんですがねぇ」
今回一番よかったのが、このシーン。信繁の成長の契機、そして、真田家を取り巻く状況が映像と言葉で表されていました。序盤で描かれていたように、互いに人死を出さない暗黙の了解が存在する村同士の抗争でしたが、それが流血沙汰にエスカレートしているのが籠についた血で判る。そして、作兵衛は『誰かが強権を発動できる体制のほうが領内の争いは鎮まるのではないか』という。小県の国衆も『武田が支配していた頃は誰につくかという気苦労はなかった』と思っている。支配というと些か物騒な響きですが、リーダーやヴィジョンやスポンサーのないコミューンは容易に瓦解して更なる混沌を招いてしまうのは、それこそ、山城や加賀の国一揆が証明している通り。
無用の混乱を避けるためには権力の集中が必要。
同じように無用の犠牲を減らすためには策謀が必要。
いい悪いではなく、戦国とはそういう時代なのだということをキチンと提示してくれたのは嬉しいですね。そうした作中の世界観を僅かな血痕で象徴する辺り、非常にスマートだと思います。
6.諏訪を渡しちゃダメだろ(中の人的に
真田信幸「負けそうなほうに手を貸すのですか?」
真田昌幸「負けそうだからいいのじゃ。うまくいった時に恩着せがましくできるではないか」
恐らくは関ケ原の戦いにおける昌幸の選択のフラグになる発言。北条との正面対決で窮地に立たされた家康からの誘いの書状に火事場泥b……じゃない、策謀家の本能が刺激された昌幸は、家康との盟約に傾きます。先項で権力の集中や策謀は秩序維持に必要な手段であると述べましたが、しかし、基本的に本作の真田昌幸は他人を騙したり、出し抜いたりすることに純粋な快楽を覚える傾向があるのは拭い難い真実。ラインハルトが戦いを嗜んだように、真田昌幸は策謀を嗜むのでしょうか。
ともあれ、ここで真田の戦略を決したのが覚醒した主人公。直接に北条の国境を襲わず、甲斐に至る補給路をツブすことで、大軍の死命を制するという戦略は見事ですが、ここは敢えて常道の戦略を提示したお兄ちゃんの為人を推したい。彼が常道を説いたからこそ、信繁の戦略の鮮やかさが際立ったワケですし、また、末席から異議を唱えた信繁への温かい眼差しが実に頼もしかった! 大泉洋って、こんなにカッコよかったかしら? 『探偵はBARにいる』などでハードボイルドなシーンを演じる姿を何度も見ているのに、今回のお兄ちゃんは異常に好感度が高かった。何というか、
僕は綺麗な大泉洋
みたいな印象。カッコよくて、シビれるし、騙されっぷりが板についているけれども、異様な違和感があるよな、今回の役柄。
7.抱擁
北条氏政「フフフフフフフフフフフフフフ」
徳川家康「ハハハハハハハハハハハハハハ」
『北条にも一泡食わせて、徳川にも恩を着せてやった! これで連中は当分、信濃に手は出せまい!』と他人の不幸で飯がうまい一家団欒に飛び込んでくる大国同士の和解劇。これは詰んだぜ。真田に一泡吹かされた北条と真田との約束を反故にしたい徳川。一見、甲信越の覇権を争う不倶戴天の敵同士に思えますが、実は反真田という一点では共闘できることを昌幸は見落としていた模様。外交戦は勝てばいいというものではないからね。仕方ないね。戦争と違って、評判を落としたら負けだからね。
それにしても、和議の会場での氏政伸と家康の抱擁といったら……何なの、この大河ドラマ。おっさん同士の熱い接触シーンを入れなきゃいけない縛りでもあるの? NHKの会長的にはOKなの? 勿論、俺的にはOKです。もっとやって下さい。ラストは、
真田昌幸「真田の立場はどうなる……?」
という台詞で〆。取り敢えず、NG県JE市民としては、
上杉景勝「こっち見んな」
の一言で縁を切りたいのですが、次回予告を見るとそうもいかないんだよなぁ……何でしょう、この上杉と真田の腐れ縁。ちなみに上田市とは現在でも姉妹都市です。景勝が知ったら、どんな反応するか見ものだよな。
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『真田丸』第9回『駆引』感想(ネタバレ有)
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