『経世済民の男』全話視聴しました。
王道のジェームス三木、エンタメの森下佳子、ギミックの池端俊策という、それぞれの脚本家の色がよく出ていた三部作。意外にも、ジェームス三木氏と高橋是清という黄金の組みあわせと思われた第一部がイマイチな出来でした。第二部の小林一三は笑いあり、涙ありの徹底したエンタメで普通に面白かった。これは再来年の大河も期待していいんでしょうか。この二作品、題材の一生を追う点では共通しているんですけれども、高橋是清は生涯年表をなぞるのに終始していたのに対して、小林一三は主人公の人生の何処に焦点を絞り込むかがハッキリしていたのが勝因でしょう。
この辺、第三部の松永安左エ門も同じで、一世紀近くに及ぶ彼の生涯の後半生から物語を始めることで、テーマを絞り込んでいました。第三部は登場人物&出演俳優も異様に豪華でしたね。近衛文麿なんか滅多に出ないだろ。そして、高嶋(弟)が演じる池田勇人の出落ち感は異常。他意はないのに、何故か見ただけで笑ってしまいましたよ。ゴメンね。
しかし、出演俳優の豪華さを差し引いても、三部作の中では松永安左エ門が圧倒的に面白かった。これ、表面的には既得権益に固執する政治家や官僚との戦いに、喧嘩上手といわれながらも生涯の大きな戦いでは常に負け続けてきた(少なくとも、作中ではそういう描き方でした)松永が、初めて喧嘩に勝った&民営化された電力が高度経済成長期を支えたというハッピーエンドのように見えますが、実はそうではありません。松永による電力の民営化を成功させたのは、GHQのポツダム政令という当時の国会決議をも覆す禁じ手であって、委員会で議論を尽くした結果でも、国民の総意に依る決断でもない。つまるところ、
日本は外圧でしか変わらない
ということを如実に表しているんですね。『日本を変えるには日本の政治家や官僚を変えるのではなく、アメリカを変えればいい』といわれた時代がありましたが、斯くもシニカル極まる認識を、恰も感動的なエンディングであるかのようにデッチあげた池端俊策さんは、最終回で主人公が己の人生の大反省会をやらかした『太平記』の脚本家だけのことはあります。本作は『昔の日本は頑張ったよ! 俺らも頑張ろうよ!』とかいう、既に下火を迎えつつあるセルフヨイショ番組ではない。『今の日本はGHQ統制下の頃と何処が違うのか?』という毒を含んだ問いかけの作品ではないかと思いました。これは凄い。ブルーレイに焼いておかねば。
点数をつけると第一部が三十点、第二部が七十点、第三部が八十点。惜しむらくは全てが題材に比して尺が足りないことでしたが、それこそ、第三部はヘタに長くすると上記したテーマがボヤける可能性があったので、これでOKなのかも。一話単発の内容であったからこそ、皮肉の効いた主題がハッキリしたのであって、二話構成&週跨ぎという中途半端に力の入った構成だと、逆にタダの感動中編に成り下がっていたかも知れません。
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『経世済民の男』超々簡易総評(ネタバレ有)
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