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荒川弘版『アルスラーン戦記』第27章『カーラーンの息子』感想(ネタバレ有)

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田中芳樹「先週から原作小説『アルスラーン戦記』の新刊を書き始めました」(巻末コメント)

何気に今まで原稿に手をつけていなかった事実をカミングアウトした原作者。勿論、書かないよりかは何倍も嬉しい話とはいえ、三十年で十四巻という出版ペースを考えると、発売されるのは再来年の夏近くになりかねません。DVDの売り上げ如何ですが、アニメ版の第二期が放送されていてもおかしくない時期でしょう。先日、久々の新刊として、

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が発売されましたが、アル戦の執筆を優先して欲しいと考える読者のほうが多いと思いますよ。まぁ、この辺は編集者の腕次第とは判っているものの、上記の薬師寺涼子の新刊があまりにもアレな出来でしたので、苦情の一言もいいたくなりました。国立大学の文学部に対する圧力と取られかねない政策への批判には100%同意ですが。今回のポイントは3つ。


1.誰も愛さない人間は誰からも愛されない

ヒルメス「ダリューンにナルサス、なぜ、あの未熟な子供にそこまでの人材が揃って従うのだ! こざかしい! アルスラーンめ!」

自分の元に人材が集まらないことを嘆くヒルメス殿下。仕官に現れたザンデも、目の前のヒルメスがそのようなことを考えているとは思ってもいないでしょう。知らぬが花ですね。まぁ、ヒルメスの憤りも判らなくはありません。競争相手には張遼と郭嘉がいるのに対して、自分の手元にいるのが潘璋とか霍峻とかでしたら、私だって嫌になります。いや、潘璋は兎も角、霍峻は指揮官としても人物としても一廉の男ですが、如何せん地味。ヒルメスの元に喜んで参じるのは、ザンデやブルハーンのように誰かに指揮されて真価を発揮するタイプの人材ばかりですからね。
尤も、ヒルメスはダリューンの次に武勇に優れ、ナルサスの次に智謀に秀でた万能系の人物ですから、性格以外でもダリューンやナルサスとは君臣の相性が悪そうです。ヒルメスは誰かに事態を委ねるよりも、自力で戦況を切り開く、或いは切り開ける男ですから丸投げされて真価を発揮するタイプの人材のダリューンやナルサスとの相性の悪さを無意識に自覚している=そうであるからこそ、彼らの心を捕えることはできないのではないかと思います。ヒルメスはシャアと同じでよくも悪くも孤独な人間なんですね。今回の付録ドラマCDでも、孤独なオチ要員としていい味出していたのがその証拠といえるでしょう。あんなことで怨まれたアルスラーンが超気の毒。


2.早くもネタキャラ化

ヒルメス「俺のことは『殿下』と呼ぶな。ここでは出自のことを秘密にしているのでな」
ザンデ「はっ! 失礼いたしました!」


ヒルメス「おぬし、情報収集に長けておるな」
ザンデ「はっ! 光栄であります、ヒルメス殿下!」
ヒルメス「『殿下』はよせと言ったはずだ」
ザンデ「あっ……はっ! 申し訳ありません!」


先回、颯爽たる振る舞いと登場したにも拘わらず、前半で完全なるネタキャラに成り下がったザンデ。ブレンも真っ青の凋落っぷりですね。だが、それがいい。寧ろ、ザンデはこうでなくてはいけません。キリリとしたシャープな容貌とガタイのよさという外見のギャップに加えて、収集した情報を朗々と語る姿と、ヒルメスにツッコまれた時の狼狽というテンションのギャップが可愛い。こうなると、脳筋のザンデがイケメン風のキャラデザになったのも、荒川センセの計算に思えてきます。焔燃が唱えるカッコいい奴がギャグをやる面白さですね。
しかし、ヒルメスとしては、些か頼り甲斐のない部下だという思いを新たにしたことでしょう。ヒルメスの素性は王位を奪還するための秘中の秘なので、ペラペラと喋られては気持ちのいいものではありません。カーラーンの息子に対する教育はどうなっていたのか気になるところ。以前、漠然と『カーラーンとザンデの父子は不仲ではないか』と想像したことがありましたが、今回のシーンを見て、それが確信に変わりました。少なくとも、じっくりと息子に説いて聞かせるタイプの父親ではなかったと思います。


3.魔性の君主

ギーヴ「……なんと、身分の高い者は恩知らずだと思っていたが、部下ならまだしも、さらのその従者にすぎない者を助けに行くとは……酔狂な!」

パルスの文化財保護官(自称)に宝物を捨てさせるとか、並みの人徳でできることではありません。遂にギーヴがデレました。やったね、アルスラーン! 登場人物の中でも一、二を争うクセモノのハートをキャッチだよ! ホンマ、アルスラーンは悪女にも似た魔性の魅力に溢れる天然の誑しやでぇ。このシーンではギーヴが救援に来た時にエラムが浮かべた楳図かずおを思わせる驚愕の表情が非常にツボでした。そこまで驚くか。実に失礼な奴ですね。
そのエラムも、

アルスラーン「エラムは私が嫌いか? 私はお前と友達になりたい。もし、嫌いでないなら、友達になってくれないか」

といわれて、危うく墜ちそうになっていました。口説かれたエラムが体の前で腕を組んでいたのは緊張と自己防衛の現れですが、異性間では逆に『脈アリ』の仕草ともいわれているので、半分は墜ちたも同然ですね。アルスラーンに上目遣いで頼まれて断れる人間なんか、この世にいません。メッチャ可愛い。アニメでは女っ気のなさのあまり、一部原画マンに女性同然の描かれ方をされているアルスラーンですが、漫画原作にも、その影響が出たのではないかと思いましたよ。ギーヴも『そんな剣では友のひとりも守れませんぞ』とか、告白の所為で微妙な距離感を保とうとする両名をくっつけるかのような台詞を口にするしさ。絶対に面白がっているよな、コイツ。初々しくもホモホモしい場面で今回は〆……と思いきや、次回からアルスラーンの過去編突入っぽい雰囲気。キャラクターの掘り下げは嬉しいのですが、この冬もラジェンドラは出番がなさそうです。原作小説の続編と漫画版のラジェンドラの出番はどちらが早いか、意外と面白い賭けになるかも知れません……って、前にも同じようなことを書いた気がする。


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