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荒川弘版『アルスラーン戦記』第26章『月下の吟遊詩人』感想(ネタバレ有)

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アニメ版では本日の放送で一先ず、出番が終了するであろうラジェンドラですが、原作よりも随分とマトモな人間に描かれていました。ファランギースに色目を使う回数も、ギーヴとの同族嫌悪に近い低レベルな争いも原作よりも遥かに控え目。ガーデーヴィとの決戦の際、自分の生命と引き換えに部下の助命を求めようと考えるなど、ダリューンやギーヴが見たら『コイツは誰だ』と錯乱してもおかしくないレベルですが、アニメ版のラジェンドラはシンドゥラ国の正史をベースにしていると考えると納得できなくもありません。何時の時代、何処の国でも指導者の記述には厚化粧が施されるものですからね。或いはパルス側の記述のほうが隣国への悪意で筆を歪めている可能性も……いや、流石にないか。
一方、ジャスワントが原作にない活躍でアルスラーンを救う場面は地味によかった。ギーヴやファランギースに『敵に情けをかけるリスクもお考え頂きたい』と釘を刺されていたアルスラーンでしたが、今回は施した恩がキチンとした形となって戻ってきたワケですね。これは原作でも漫画版でも描かれていない、いい場面。

ジャスワント「べ、別にアンタのことなんか助けたくないんだからねっ! 国賓に万一のことがあったら、シンドゥラの国威に瑕がつくので、仕方なくなんだからねっ!」

というツンデレ爆発の物言いも嫌いじゃない。今月号の対談でファランギースを演じる坂本真綾さんが述べていたように、本作には明確なヒロインが存在しないので、イカツイ男がツンデレを演じたり、世話焼き女房をやったりすることになるのでしょう。誰得だよ!
そのアニメ版では尺の都合でサラッと流されたペシャワールへの逃避行。今回の内容を見るに、漫画版では結構ガッツリとやってくれそうな予感。嬉しくもあり、漫画版でのラジェンドラの出番が遅れるのが哀しくもあり、何とも複雑な心境です。今回のポイントは4つ。


1.二割五分の賭け

ギーヴ「誰か戦っているな! ファランギース殿だとしたら、助けに行かねば!(使命感

アルスラーン「」
エラム「」


ギーヴ「」

金曜日に放送された『ジュラシックパーク』同様、子供嫌いが子供の御守りを押しつけられるという物語の王道パターンが発動。追われるアルスラーンとエラムを見つけた時のギーヴの表情は、彼が登場して以来、最悪の崩れ方でした。そんなに嫌か。だいたい、本人は男衆だったらシカトするとかいっていましたが、ダリューンが殿軍に出向いているから、残りはアルスラーン、ナルサス、エラム、ファランギースしかおらず、必然、ファランギースと合流できる確率は四分の一&5割の確率で子供の世話をするハメになるんじゃないでしょうか。元々、分の悪い賭けなのに、そこまで嫌な表情しなくてもいいのにね。大人になれよ。


2.道化芝居

ギーヴ「忠実な僕、ギーヴが参りましたぞ! アルスラーン殿下!」キラキラッ
アルスラーン「ギ―ヴ!」パアァッ
エラム「」


今度はエラムの表情がこのうえなく崩れる番でした。そこまでか? そこまでギーヴが信用ならないか? しかし、正しい解釈ではあります。何せ、当の本人が、

ギーヴ(この王子をルシタニア軍につき出せば金貨十万枚か……だが、生まれつき善人な俺は、こすいこととむごいことができないからなぁ)

とか考えちゃっているくらいですからね。尤も、ギーヴの言動を鑑みるに、こすいこともむごいこともできる奴ですが、その二つを同時にやらない程度の善人だとは私も思います。『金貨十万枚の賞金首なら、腕一本でも幾らかにはなる』とかいう、項羽を討ち取った漢兵のようなエグイ真似は確かにギーヴはやらないでしょう。首級を取った人間から首桶を掠め取りはするでしょうが。


3.自称

エラム「荷物なんか放っておいて、早く逃げないと!」
ギーヴ「パルスの文化財だぞ! 俺には保護する義務がある!」


パルスの文化財保護官を自認するギーヴですが、保護される側の言い分も聞いてみたいものです。『おまえにッ、だけはッ、いわれたくないッ』とか思っていそうですが、それでも、ルシタニア兵の手に落ちるよりはナンボかマシでしょう。ギーヴにとっての文化財は愛でるのに飽きたら売っ払う対象でしかありませんが、絶対に破壊しようとは思わないでしょうし。それにしても、決死のダイビングと見せかけた窮地脱出という序盤のギーヴ最大の見せ場の直後に、こういう漫画版オリジナルのギャグを入れてくる辺り、流石は荒川センセ。原作でも随所にコミカルな描写や台詞はありますが、このシーンは『ハガレン』とかで出てきても違和感ない。荒川センセのセンスが爆発した場面ですね。エドか増田がいいそう。


4.バラバラ

アルスラーン「これほどしつこく追ってくるということは、我々をペシャワールに入れたくないということだ。確信した! ペシャワールは敵の手に落ちていない!」
エラム「ナルサス様たちのことも心配です! 早く、この山を抜けないと!」
ギーヴ「うむ! ファランギース殿のことが心配だ! 急ごう!」


目指す目的は同じにも拘わらず、完全に会話が噛みあっていない逃亡者御一行。原作だと結構スンナリと三人(特にアルスラーンとエラム)が打ち解けちゃうのですが、漫画版ではまだまだ引っ張るようです。画的に巧いと思ったのが、最後から数えて3頁目のアルスラーン一行とザンデ一行の対比ですね。アルスラーン一行は全員の視線が見事にバラバラなんですよ。勿論、ギーヴやエラムは周囲を警戒しているのでしょうが、それでも、この三人が共通の目的で完全に結ばれていないことを表す証左だと思います。それに対して、ザンデ御一行様は全員が真っ直ぐに同じ方向を見据えている。こういう表現大好き。
そして、アニメ版に続き、漫画版でも登場したザンデ。『敵に情報収集に長けた者がいるのか』というアルスラーンの危惧の張本人であり、私の屈指の贔屓キャラ。ザンデが単なる筋肉馬鹿ではなく、情報収集にも通じた使える男であることをキチンと述べてくれるのも、荒川センセがコミカライズしてくれてよかったと思える点ですね。ザンデのクセにイケメン過ぎるという難点もありますが、今後の活躍を期待しております。

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