毎回毎回秀逸な出来の本作にあっても、今回は特に見所満載でした。まず、キャスティングが非常に豪華。先回のアレで喜多が退場したとはいえ、淀君、三成、レオン、長政、利家といった豊臣家の御歴々は元より、八千草寧々、志麻姐さん、原田のアニキに勝新秀吉と、殆ど『独眼竜政宗』オールスターズ状態。この時点で存命していて出ていないキャラって家康と虎哉和尚くらいか。書き落としがあったらすみません。勿論、内容も豪華で楽しかった。今回のポイントは6つ。多いな。
1.文禄の役雑感
アバンタイトルで触れられた文禄の役の概要。近年、何かと毀誉褒貶が激しい李舜臣の活躍についても触れられていました。私個人は充分に名将の呼称に値する人物だと思っています。あの当時の朝鮮水軍(というか、李氏王朝軍全般)は将兵共に練度も武装も素人以下と評してよいレベルでした。義兵のほうがまだしも、戦果がデカかったりします。そんな軍隊を率いて、曲がりなりにも閑山島の戦いで勝ったワケですしね。日本の指揮官は陸軍主体だからという理論も耳にしますが、残念なことに李舜臣も陸軍出身です。言い訳にしても、もう少しマシな内容を考えましょう。
ただし、ナレーションで語られていたように李舜臣が釜山~名護屋の補給路を絶ったというのは完全な誤解。李舜臣も一度はそれを考えて釜山を攻撃しましたが、陸上からの援護が受けられずに大敗しました。それ以降、李舜臣は半島南西部への日本水軍の侵入を阻止することを主眼に活動します。釜山から海路を伝って前線(漢城とか)に物資が運ばれるのを防ごうとしたんですね。効果は心許ないにせよ、全く意味がないワケでもなかったと思います。ちなみに左馬介が斃れた第二次晋州城の戦いは、李舜臣の籠る麗水を陸上から攻撃する布石でもありました。尤も、晋州城が落ちたと知るや、李舜臣は速攻で本拠地を海上に移設してしまいます。この逃げ足の速さは間違いなく、名将の器。ただし、性格面でクセというかアクの強い人物で、個人的には郭再祐のほうが好き。この辺、学生時代に研究していたので語りたいことは山ほどあるのですが、色々とあらぬ誤解を受けそうなので、本編の感想に戻ります。
2.誰がために
文七郎の出奔を通じて描かれたのが、何のために戦うのかという根源的な問い掛け。政宗の采配の元、日本でドンパチやっている分には戦いの意義も規模も体感できたんでしょうが、外国に攻め入るというのは文七郎の発想の外。あまりにもスケールの違う戦いを前に、ざっくばらんにいうと我に返っちゃったんでしょうね。文七郎も小十郎の御説教など百も承知しているでしょうが、ふと我に返って色々と考えてみると、戦に大きいも小さいも内も外もない。やっていることは誰かの大事な人を斃すことではないかと思い悩んでしまう。人間、そういう時ってあるよね。
でも、そこで自分に課せられた使命と職責に歯を食いしばって留まれるか、何もかもを投げ出して逃げるか、それが人間の器を図る基準でもあります。事実、作中で文七郎に、
伊達政宗「心の迷いは誰にでもある」
と諭しているように&直前の場面で成実に指摘されてキレかけたように、主人公にも自分のやっていることの意味が判らなくなる瞬間がある。そこで耐えて踏ん張ってこその大人じゃないかと主人公は諭しているんですよ。更にいうと上記の台詞の瞬間、成実も反応するんですね。この台詞で成実も『何だよ、殿も秀吉に好きで媚び諂っているじゃなくて、色々と迷っているんじゃないかよ』と気づく。気づくけれども、それでも、今の政宗に納得できない。そういう成実の為人を、仕置きの場に立ち尽くす成実の姿で描いていました。
3.これ絶対触ってるよね
豊臣秀吉「茶々……ホンマか?」
完全に関西弁じゃないですか。主人公主従の緊迫感ある場面とは裏腹に、やりたい放題の勝新秀吉。どう考えてもアドリブ。しかも、全編関西弁という遊びっぷり。普通は名古屋弁ですからね。秀頼生誕の報告を受けた時の天眼鏡と扇子を叩きあわせるリアクションも、秀吉というよりも、バース&掛布&岡田のバックスクリーン三連発を見た阪神ファンのノリなんですが、それが妙に似あっているというか。多分、演技の参考にしたんじゃないかと邪推してしまいます。
それにしても勝新秀吉……どう見ても、ガチで樋口さんのケツを撫で回しているようなのですが……しかし、卑猥さを微塵も感じさせないのが勝新のスケールというものか。秀吉関係の内容では、北政所と淀君の本格的な絡みは今回が初めてなのかな。殆ど角突きあわせたりしないんですよね。『側室の子も自分の子』と愛姫を諭した北政所ですが、それは自分でも実践できていなければ説得力を伴わない。授乳の場面では些か複雑そうな表情を浮かべるけれども、そういうものは相手に見せない。ラストで愛姫が嫡男をあげられなかった時の政宗と同じで、本心はどうあれ、相手の前ではちゃんと気遣いを見せる。それが大人というものでしょう。
4.ママ上再臨
ひさかたぶりの登場となった志麻姐さん。この人は溜め息一つにも母親の感情が籠っているよなぁ。息子が無事に帰国したと聞いた時の安堵の溜め息。自分は母親の道を踏み外したから、二度と息子には許されまいという嘆息。それぞれに深い愛情がある。如何にも母親でございというシタリ顔を浮かべながら、息嫁とツルんで息子を吊るしあげる黒田の光さんも見習えよ。
何故、このタイミングかといえば、まず、史実として朝鮮に在陣していた頃に政宗と保春院の間で手紙の遣り取りがあったこと。これがベースになっっています。以前の感想でも書きましたが、保春院が政宗の元を出奔(?)したのはこの前後。今までの流れを鑑みると、米沢が蒲生の所領になったので、実家に里心がついたと考えるのが一番自然かも知れません。ストーリー上は言わずもがなで喜多が退場したからですね。育ての親が去って、生みの母が戻る。まぁ、実際は相当先まで戻らないのですが。時間でしか解決できないことってあるよね。そして、喜多が不在にも拘わらず、政宗と対等に張りあうようになった愛姫の成長。つーか、今回、政宗は愛姫にいいようにあしらわれていたよね。女って怖い。
5.絶対に同席したくない鷹狩二十四時
豊臣秀次「…………」
伊達政宗「…………」
最上義光「…………」
蒲生氏郷「…………」
ジェ○ムス三木「ところで、このメンツを見てくれ。コイツらをどう思う?」
与力「凄く…………居心地が悪いです」
何だ、この居あわせるだけで胃に穴が開きそうなメンツは。これ、史実なの? 史実だとしたら、本当に災難な話ですし、創作だとしたら、ジェームス三木さんの抜群のお笑い(それもブラックジョーク)のセンスを感じずにはいられません。このシーンは内容も面白かったですけれども、メンツあわせの段階で既に脚本家の勝ち。視聴者の全面敗北。こんな連中を一つ所の集めて話をさせたら、面白くなるに決まっているじゃないですか。卑怯だ、卑怯。この場に居あわせた人間の中では政宗を裏切って出奔して秀次に仕えている家臣さんが一番マトモに見える! 不思議!
会話の内容も最高。『血を分けた甥が可愛くない筈がない』というモガミンの発言には、秀次よりも先におまえがいうなと突っ込んだ視聴者は多い筈です。そして、
豊臣秀次「太閤と揉め事起こした時には奥州を頼っちゃおっかなぁっ」チラッチラッ
の台詞には三人揃って、心底嫌そうな反応を見せてくれました。こんな時だけ仲良くしてどーする。もしも、秀次がガチで奥州を頼ったら、
最上義光「では、是非、それがしの居城へ」
蒲生氏郷「いやいや、ここは拙者の所へ」
伊達政宗「何を言う。俺の元に来るにしくはございません」
最上義光&蒲生氏郷「「どうぞどうぞ」」
伊達政宗「」
的な展開あったのかも。
6.あじか売り不在
今回唯一の瑕瑾が太閤名物のコスプレ大会。いや、出演者全員が芸達者なので、誰が何に扮していても全然違和感なくて今の役者とは鍛え方が違うわと感心しはしたんですよ。特に淀殿の出雲阿国を思わせる男装束がエロイ。これは歌舞伎踊りがウケたワケですよ。男装というだけで、これほどのエロスが顕在化するとは。ここまで見事に再現されたコスプレ大会なのに、
何であじか売りがいないんだ
と小一時間(ry
いや、嵯峨野の催しに家康が招かれていなかっただけかも知れませんが、津川さんであれば、さぞや見事なあじか売りを見せてくれたんじゃないかと思うと、ここは是非、家康にも御登場願いたかった。
しかし、上記のような馬鹿騒ぎに現を抜かしているかと思いきや、一気に秀次追い落としにかかる秀吉。この糾弾の場面が凄ぇリアル。頭ごなしに怒鳴りつけるのではなく、自分が命じた訓戒をちゃんと守っているか、自らを顧みてどう思うと問い掛けること。これ、リアルで会社の上司に言われると結構堪える物言いですよね。特に身に覚えがあればあるほどさ。
そして、トドメとばかりに、
豊臣秀吉「わしを、怒らせるな。ええか。わしを怒らせるな、ええな」
と大事なことだから二回いう勝新秀吉。こんな男に二度も念押しされたら、私なんかその場で失禁する自信があります。
そして、ラストシーンで主人公が正室との間に子宝に恵まれたと思ったら、次回のサブタイが『秀次失脚』ときたもんだ。今回のサブタイの『子宝』は長男・長女を立て続けに得た政宗も勿論ですが、秀頼が生まれた秀吉にもかかっているんですよね。秀吉が得た子宝の所為で次回、またしても政宗が窮地に立たされる。こんなん、サブタイだけで続きを見るに決まっているじゃないですか。
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『独眼竜政宗』第31回『子宝』感想(ネタバレ有)
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