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『独眼竜政宗』第12回『輝宗無残』感想(ネタバレ有)

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『独眼竜政宗』と全く関係ない話題で恐縮ですが、明日の『ダウントン・アビー』は1stシーズンの最終回ということで拡大延長ヴァージョンです。時間帯で番組予約をされておられる方は終盤が録画されないという事態も考えられますので御注意下さい。
まぁ、関係ない話で始めるのもアレですので、ムリやり『ダウントン・アビー』を絡めた前置きを書かせて頂くと『独眼竜政宗』と『ダウントン・アビー』はプラス軸で対極の存在といえると思います。敷居の高さ感が半端なく思える『ダウントン・アビー』ですが、実は描かれていることは然程難しくはありません。アメリカ人が製作していれば、かなり判りやすい内容になったと思います。難しく思える原因は登場人物の台詞を常に二言三言足りないラインで留めている所為で、視聴する側の負担が非常に大きいんですね。登場人物の真意が何処にあるのかを考えながら見なければいけない。しかも、画の補完も殆どないので、純粋に推察するしかない。この辺を英国人の慎み深さと見るか底意地の悪さと見るかはさて置き、非常に頭を使う作品なんです。否、頭というよりも心かな。相手の感情を察する力でしょうね。私が一番苦手とすることです。
顧みて『独眼竜政宗』は結構難しい題材を判りやすく描いているといえます。一見、判りやすく思えるのは脚本家や演出家の力量が優れているから。例えば、今回描かれていた輝宗隠居の真意。以前から感想記事で述べているように奥州の大名は皆、親戚衆なので殲滅戦ができない=全土を束ねる覇者が生まれない。これらは本作を見ていると自然に頭の中に入ってくるんですけれども、実は日本人の多くは戦国=信長という価値観に慣らされている。即ち、戦国時代は実力主義&血の繋がりなんて邪魔になるだけという視点が当たり前なんです。その価値観に慣らされていると『何でコイツら、親戚同士でウダウダやっているんだろう。戦国なんだから情け容赦なく滅ぼしちゃえばいいのに』という思考に傾いてしまいがちなんですね。でも、本作は登場人物のシガラミを丁寧に描いているので、そうした違和感を覚えないですむ。確か井上ひさしさんの言葉だと記憶していますが、作劇の妙とは、

「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく」

なんですよ。『ダウントン・アビー』は実は単純なことを深く描く。『独眼竜政宗』は非常に難しいことを判りやすく描いている。土日連続でプラス軸で対極にある作品を観賞できるのは非常に贅沢なことだと改めて思います。『軍師官兵衛』? あれは『やさしいことを単純に』描いているだけだ。描いているのが素人でなければ単なるやっつけ仕事である。異論は認めない。今回のポイントは4つ。

1.タイミング

先回の感想でも述べたように意外と早かった輝宗の退場。『平清盛』の感想を読み返すとプルーンパパの退場が第16話なので、漠然と輝宗もそれくらいかなぁと思ってました。不意を衝かれた感が半端ない。
でも、主人公が乗り越えるべき存在を何時死なせるかというのは、その作品を語るうえで欠かせない判断材料になります。敢えて極論をいわせて頂くと遅いよりは早いほうがいいと思います。判りやすい例をあげると『太閤記』で本能寺の変を何時やるかで作品の質が見えてくる。或いは『あしたのジョー』だと力石は意外と早く死ぬよ&『グレンラガン』ではカミナが一桁話数で消えるとは思わなかった&『銀河英雄伝説』でいうと【流石にネタバレ厳禁です】が2巻で退場するかよという話。惜しまれつつも、早目に退場したほうが拙劣に居続けるよりも喪失感の裏返しの存在感が際立つ。特に輝宗は進んで隠居することで政宗を世に送り出した人物なので、退場は早ければ早い程よかったんじゃないかと思えてきました。その意味で今回での退場は納得。

2.悪人不在

今回の一番の凄味はこれ。政宗、輝宗、畠山善継という主要キャラ三名の誰もが悪人でないことですね。見ていて鳥肌がたちました。輝宗は兎も角、今回の話の流れでいくと普通は政宗か善継のどちらかを悪人にするしかないんです。成功に驕った政宗が因果応報を喰らう。或いは人質という手段に出た善継を卑劣漢にする。大抵はこれで片づきますし、それで文句を言う人も殆どいないでしょう。
でも、本作は違った。
驕っているように見える政宗も実は家督の重みでイッパイイッパイで常に自問自答を繰り返している。悩みもある。恐怖もある。それでも、覇道のために己の感情をねじ伏せて邁進している。これは視聴者としても共感せざるを得ない。一方の善継にも守るべきもの、背負うべきものがある。自分の生命と引き換えてでも、部下の本領安堵を哀願する善継の姿にも感情移入できる、否、こちらもせざるを得ない。そうした描写があるからこそ史実でなければ冗談としか思えない輝宗人質事件も視聴者には至極自然の流れとして受け入れることができる。一言でいうと、

登場人物の動機づけがハッキリしている

んですね。善継が輝宗を人質にした理由も、政宗が輝宗を結果的に死に追いやった理由も納得がいく。今日の研究では隠居したくせに何かと口を挟んでくる輝宗をウザく思った政宗が善継と一緒に【Nice boat.】することで一挙両得を狙ったという見方すらある今回の事件ですが、そういう説すら無粋に思えるほどのストーリー展開でした。いや、凄い。マジで凄い。

3.ラスボス不在

輝宗の死にも拘わらず、意外なことにお東の方が登場しませんでした。これも実に練り込まれた構成です。普通だと夫の死に何らかの予兆を感じる場面とかで登場してもおかしくないのですが、これも全体の構成を考えれば納得なんです。
今回の主題は父殺しです。
通常が観念上で父親を越えるべきものを政宗は物理上の死に追いやった。でも、それ=血のシガラミを絶つ=をしないことには奥州の覇者たり得ないのは作中で輝宗が言及していた通りです。その意味で今回の政宗の行動は実に自然で当然で首尾一貫しています。しかし、政宗にはもう一人、血のシガラミで越えなければならない人物がいる。言わずと知れたお東の方ですね……というか、彼女こそが血のシガラミの代表者であり、本作のラスボスなのは今までの感想記事で述べた通りです。そうなると今回の話でお東の方がチョロチョロと画面に出てくると政宗が越えなければいけない存在が分散化されてしまうんです。輝宗を殺しても、あとにお東の方が控えていることが視聴者に察せられると輝宗の存在が希薄に感じられる危険がある。それゆえ、今回はお東の方の出番はなかったのだと思います。視聴者を舐めていない。難しいことを判りやすく描いているくせに、決して視聴者を軽く見ることはしない。これが『独眼竜政宗』の凄味の一つだと思います。
まぁ、輝宗の見せ場なのでキンキンをトメのクレジットにするために志麻姐さんを出さなかったor単純に志麻姐さんのスケジュールの問題があったのかも知れませんが(汗)

4.老兵の行方

芸の細かさという点では終盤の左月&基信の場面。いつの間にか寝入ってしまった両名に対して、小十郎&成実は恐らくはまんじりともせずに父を喪った政宗と一晩を明かした筈です。つまり、左月も基信も気力体力双方の面で既に第一線ではなくなったという暗喩だと思われます。そういったことを台詞なしの場面で描く。それも、別に描かなくても問題ないのに描く。何気にニヤリとさせられた場面でした。

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