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『岸辺露伴ルーヴルへ行く』感想(ネタバレ注意!)

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今週の『どうする家康』は戦国のチェンソーマンこと大岡弥四郎の謀叛がメインイベントでしたが、瀬名と千代女の密議や『謀叛人はこのうえなくむごいやり方(意味深)で葬れ』と父親の威光を嵩に夫へ圧力をかける徳姫など、来週再来週に向けた布石としての位置づけになっていたので、一先ず評価は保留。弥四郎自体はポッと出で掘り下げ不足は否めなかったとはいえ、長引く戦乱に倦んで『もうどうにでもなーれ』とばかりに敵方へ内通する者の心情の代弁者としては一定の役割を果たしたといえるでしょう。滝田版『徳川家康』の大弥四郎は相応の尺を費やした&築山殿悪妻説がベースなので、あれと単純比較するのはちょっと可哀想。そんな訳で今週は大河ドラマの感想はお休みして、こちらの作品について触れます。

 

 

 

昨年末に放送されたドラマシリーズ第3弾の感想時に『映画化となると作品に求められるハードルがグッとあがってしまうから、ドラマ拡大SPでやってくれたほうが無難じゃないかと思う』『ルーヴルだけで2時間保たないから、イタリアにも足を延ばして懺悔室とグッチもやれ』と結構否定的なことを書いた記憶のある本作。それでも、公開翌日に運よく休みが重なったので、ササッと見て参りました。結論から申しあげると、

 

ドラマ版を楽しめた人は劇場に足を運ぶ価値はある

 

と思います。先述の映画化に求められるハードルの高さに関しては作中でこれはあくまでもドラマの延長であると随所でアピールすることで切り抜けています。具体的にはドラマ版各第一話でお馴染みのヘブンズドアーの解説パートを律儀にやる&凡百の劇場版でありがちな話題性重視の配役ではなく、求められる表現力に即したキャスティング(具体的にはルーヴルでのパントマイム的芝居が『浮かない』俳優さん)&エンディングもドラマ版楽曲のロングバージョンで特別なタイアップをつけない……といった感じですね。特に劇場版タイアップが当たり前のようになっている現今の映画界において、エンドロールをTVシリーズと同じ曲で切り抜けるというのはなかなかに勇気が必要。これは仮に『古畑任三郎』の劇場版を製作した場合もエンドロールは下手なタイアップ曲よりはTV版そのままの楽曲が求められるであろうことに似ていると思います。思えない? イッセー高橋とかいう二代目古畑最有力候補俳優。あ、今泉君は迫田孝也さんでお願いします。ともあれ、下手に劇場版を意識しない身の丈に合った姿勢が奏功したのは間違いないでしょう。

また、スケール感の乏しさはルーヴルロケの迫力で充分にリカバリー出来ていました。否、物語の基本的な姿勢をドラマ版のスケールに抑えることで、中盤以降~クライマックスのルーヴルロケが際立ったといえるかも知れません。劇場版となると余計な映像をつけたくなるのが普通の発想ですが、本作は画的な迫力は全てルーヴルに丸投げしますという潔さがありました。実際、イッセー高橋演じる岸辺露伴がルーヴルのモナリザの前に立つシーンだけでお腹一杯。コロナ禍で長らく絶望視されていた『ルーヴルへ行く』なので、感慨も一入でしたね。しかし、まさか『露伴とモナ・リザが似ている』という億泰の台詞を京香ちゃんが口にするとは思わなかった。『黒い画』を見てもケロリとしていた件といい、京香ちゃんの怪異に対する無敵属性が止まらない。まぁ、彼女が『見た』のは『黒い画』ではなく、フェルメールのほうであったのかも知れませんけど。

そして、ストーリー構成も非常に手堅くまとめてきたと思います。露伴のオークション参加&絵画盗難未遂事件編、露伴の過去編、ルーヴルロケ&クライマックスバトル編、帰国後の菜々緒の正体バレ編と起・承・転・結がハッキリとしており、判りやすかった。劇場で携帯を見るのはマナー違反なので正確な時間を計測した訳ではありませんが、内容的には勿論、尺的にもほぼ均等に四分割出来るんじゃあないかな。『菜々緒の正体と過去編を丁寧にやり過ぎ』という意見もあり、それには私的にも賛同出来るのですが、本作は原作のホラー要素に加えて、劇場版用にモリス・ルブランの絵画にまつわるサスペンス要素をつけ加えたために提示した謎は作中でキチンと解説しなければいけなかったんですね。ホラーは必ずしも怪異の全てを説明する必要のないジャンルです。私が一番好きな日本の怪異譚は東大寺の修二会に出てくる青衣の女人の逸話で、あれは怪異と対応のみで構成された純然たるホラーゆえに含蓄があるのですが、サスペンスは原因・過程・結果をキチンと観客に示さなければならないジャンルなので、それでストーリーを補強した以上、ホラー要素も謎解きをやらないのは片手落ちと受け取られかねないから、双方平等に遇した結果ではないかと思います。元々、ドラマ版も原作の不明な点を独自解釈&解明しているところがありましたからね。

しかも、その解釈の表現方法として用いたのが、

 

小野但馬守政次再臨(ネタバレ反転です!)

 

という『おんな城主直虎』履修者への御褒美(?)とか……『岸辺露伴は動かない』と大河ドラマって実況民の構成からして結構な割合で視聴者層が被っているとは思いましたが、まさかの公式による二次創作(?)! これは菜々緒の動機の説明としてもヤング露伴との絡みの件も納得でしたわ。キャスト陣の最大の功労者は露伴の次に木村文乃でしょうね。兎に角、エッロい。周囲にも本人にも女っ気が乏しい露伴がクラッとくるのも頷ける存在感でした。

まぁ、ドラマ版未履修の観客にウケるか否かは判断が分かれると思うので、初見向きか否かの判断は保留致しますが、繰り返すようにドラマ版を楽しめた人は劇場に足を運ぶ価値はあるでしょう。しかし、NHKは今年の年末、本作を地上波で解禁するか、或いはイッセー高橋にアワビを密漁させるかで悩みそうですね。両方やれ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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