『鎌倉殿』総評の執筆があるのに今更何度も見直している暇はないだろと自覚しつつも、つい、期末テストの近づいた学生の現実逃避宜しく鑑賞してしまいました。先日、本作を紹介してくれた友人と会った際に『第二部は何時になったら出来るのか』とか『第一部のクオリティが高過ぎるから、いっそのこと続編を期待せずにF91みたいな未完のプロローグとして割り切ろうか』とか話していた影響かも知れません(責任転嫁
さて、本編では主人公のハサウェイが、彼の正体をマフティーと知らない先代のハサウェイの中の人が演じる調査局員のヒューゲスト(ややこしいな)から、
「マフティーの戦術はテロですから最終的には支持されませんよ」
と断言されるシーンがあります。ここに至る詳細は本編をご覧頂くに若くはありませんが、判りやすくまとめると、
マフティー「我々は1000年先を見据えて行動しています!」
民衆「暮らしって、そんな先を考えている暇ないやね」
マフティー「まず、腐敗した政府高官を血祭りにあげます!」
民衆「ああ~いいっスねぇ~! 俺らの庭先でデカいツラしているマンハンターどももやっちまって下さいよ!」
マフティー「そして、地球環境の保全とホモサピエンスという種の進歩のために全人類で宇宙にあがりましょう! 例外規定があるかぎり人間は不正をする生き物なので、一人の例外も認めません!」
民衆「……えぇ(ドン引き)」
マフティー「ちなみにウチのリーダーが『血祭りにあげる前に政府高官の顔を直接拝みたい』という我儘を通したら、マフティーの名を騙ったニセモノのテロ事件に巻き込まれて、彼の正体を知らない軍と官憲の保護下に置かれました。このままだと身動きが取れないので、リーダーの脱出計画とガンダム受領作戦の陽動を兼ねて高級リゾートホテルをブッ飛ばします。多数の非戦闘員や民間人を巻き込むでしょうが、1000年先を考えたらやむを得ない犠牲です。諦めて受け入れましょう。巻き添えの方々の霊には哀悼の意を表する。勘弁してくれ(ツダケンヴォイス
民衆「ちょっと何言っているか判らない」
という筋書きです。本作の凄みは1st~CCA(出来ればUCも)までの履修が前提とはいえ『何故、テロは支持されないのか』という主題を主人公をテロ組織のリーダーに設定しながら、キチンと描き切ったことでしょう。要するにテロが民衆に支持されない理由とは、
目的のために正当化された手段の矛先が何時自分に向くか判らない
に尽きると思います。ちなみに本作の原作は前世紀に書かれたもので、上記のヒューゲストの台詞もほぼほぼ同じですが、あれから数十年を経た現在、世界で似たような思想を持つ輩が騒動を起こしていることに気づいた方もおられるのではないでしょうか。そう、それです、もうお判りですね。
前回記事の序文で環境問題のアピールのためと称して芸術作品にスープやペンキをブチ撒けるエテ公と、そのエテ公の行動を理解出来ない人は意識が低いと宣う曲学阿世の徒に触れたばかりですが、遂に標的を芸術作品からスポーツ興行に移す新種のエテ公が発見されました。上記の『テロが支持されない理由』の定義に従えば、地球環境問題の提起という目的のために正当化された手段の矛先は既に芸術作品に留まらず、他の仕事や趣味や所有物に無差別攻撃をかけてもおかしくない段階に突入しており、連中をマフティーの尻尾と呼んでも何ら差し支えないでしょう。近い将来、連中がアピールのために直接人間を害するようになっても俺は意外に思わん。
尤も、ここまで明々白々な条件が揃っているにも拘わらず、彼らや彼らの擁護者は他人にマフティーの尻尾と定義されることに異議を唱えているようですね。私も『問題意識が低いから1000年先の地球環境を考えている彼らを冷笑しているだけ』と思われたくない程度にはケツの穴の小さい人間なので、ここは連中にマフティーの尻尾と呼ばれずに済む方法を指南しましょう。簡単です。芸術作品にせよ、スポーツ興行にせよ、自分たちの政治アピールに使いたければ、
自分の金で権利を買ってからやる
ことです。貴重な絵画を破壊する衝撃で自身の主張にバフをかけたきゃ、コツコツと貯めたカネでも賛同者から募った募金でもいいから、キチンと正規の手続きと代金と引き換えに手に入れたうえでやればいい。勿論、貴重な作品を破壊する行為そのものは文明社会の何たるかを弁えない点で蛮族の誹りは免れ得ない行いでしょうし、田子の浦にヘドロを流し込んで稼いだカネで買ったゴッホの画を『自分が死んだら一緒に棺桶に入れて貰う』と放言したクレイジー・ジャパニーズと同等の美術観という史上最低レベルの評価も避けられませんが、政治的アピールのために第三者の所有物に矛先を向けることを止めれば、少なくともマフティーの尻尾と呼ばれることはなくなるでしょう、多分、恐らく。まぁ、このテの連中の思考の根底には『自分が発するメッセージには他人の所有権や法の規範を越える価値がある』と信じて疑わないバンクシー症候群があるので、この意見が受け入れられることはないと思われます。やんなるね。
更に私が危惧しているのは連中の標的が芸術作品からスポーツ興行にシフトチェンジした、このタイミングでワールドカップが開催されていることなんですよねぇ。ワールドカップで不測の事態が起きたらガチの戦争に発展しかねない前例があるし、個人的にも仕事由来の夜型生活で無理に夜更かしする必要がない&日本も含めて特定の国に思い入れのない私にとって、気軽にザッピングするだけで世界レベルの試合が見られるワールドカップは赤勝て白勝てみたいなノリで観戦出来る貴重な娯楽ですから、無事に大会が終わることを祈らずにはいられません。タダでさえ、本邦では『政治的アピールで劣っている我が国が勝つのはおかしい』などというマフティーの尻尾とは別ベクトルに突き抜けた寝言が囂しいので。『サッカーで勝敗よりも政治的喧伝のほうが評価されないのはおかしい』と宣う界隈、かなりの割合で『フィクションに政治的正しさを求めないのはおかしい』と難癖をつける界隈と被っているように思います。あの界隈、そのうちに正しい政治的アピールをしたチームには1点あげようとか言い出しそうで怖いよね。