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『相棒21』を巡る雑感(『相棒21』の感想ではありません)

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今週の更新はお休みする予定でしたが、どうしても飲み下すにはシンドイ話があったので、短めに触れます。題材はこれ。

 

 

 

 

先週放送開始となった新シリーズ。初回から杉下と亀山の正義が衝突した内容となりました。衝突の議題に対する是非は措くとして、亀山が杉下の推理を信じ切れなかったのはシンプルに15年という歳月によるものでしょう。これが『レベル4』の直後でしたら、亀山は嫁の生命に加えて、乗員乗客の生命をレイズすることに躊躇いを覚えなかったと推測します。ついでにアイシャの生命も倍プッシュだ……! とはいえ、全体的にストーリーや台詞のリズムが悪く、倍速で見たほうがシックリと来るクオリティでした。初回前後編は近年の定番ですが、60分越えの拡大バージョンはストーリーを薄く引き伸ばしただけの冗長なものになりがちという、本シリーズの悪癖を修正し切れていないように思われます。後編での巻き返しに期待。

尤も、シンドかったのは本編ではなく、初回の内容に対する或る意見。亀山がサルウィンで民間教育に尽力していたことに、

 

「日本人のキャラクターが『不正だらけの国の子どもたちに正義を知ってほしい』と言って現地の教育に携わるのを美談として描くのは植民地主義。こうしたフィクションが違和感なく消費されるのは、こういう発想が善とされてるから。専門的な教育を修了したわけでもなく、現地語も出来ない日本人が、発展途上国で現地の子どもに日本人の道徳を伝えて社会を良くしようとする『文明化の使命』には賛同出来ない」

 

と批判する意見があり、更に『15年前の設定なんか幾らでも変えられたのにね』とか『昔の価値観をアップデート出来ていない、ヤバい』とか『今の日本が他国の悪口を言える立場か』とか『楽しみにしていたのに途中で見るのやめた』とかの賛同の声が少なからずあがっていたことです。上記の内容は投稿者の感想・批評であり、意見自体を発するななどという表現規制界隈と同じことを述べるつもりは毛頭ありませんが、あくまでも当該投稿者の『作品への批判』に対する私なりの批判として、所見を述べることに致しましょう。大きく分けて3つの異論が挙げられると思います。

 

 

まず、基本的なことから申しあげます。

 

サルウィンは架空の国です。

 

大事なことなのでもう一度言います。

 

サルウィンは架空の国です。

 

架空のキャラクターに対する架空のキャラクターの発言や行動を自分が受けたものと勘違い(或いは勘違いしたフリを)して、作品の内容を変えさせる、或いは作品自体を抹殺しようとする連中がデカいツラと声でのさばっている冠城的ポイズンな世の中とはいえ、その矛先が『相棒』にまで向くとは思いませんでした。そもそも『違和感なく消費される』って誰が何に消費されたんですか? ついでに『消費』を悪と見做す定義は何? この辺の論法は二次元の性的消費とかいう『何となく悪いこと』というイメージを植え付けたくて仕方がない連中のガバガバ理論に通じるものがありますね。多分、根っこは同じ花です。

 

 

次に亀山が警察を辞めてサルウィンに活動の拠点を移したのは15年前です。大事なことなのでもう一度繰り返します。

 

 

1 5 年 前 の 設 定 で す 。

 

その設定がけしからんというのであれば、それは15年前に言っておけという話です。勿論、15年前とは日本も世界も情勢が激変したのは事実ですが、それはあくまでも現実社会のお話。それを『相棒』という作品が取り入れるか否かの判断は制作者の裁量次第です。実際、本作は2020年以降の新型コロナウイルスの猖獗という出来事は現時点では【なかったこと】として制作されています。その判断の是非は兎も角、今回の『相棒』に対する最大の焦点は、

 

「15年前にサルウィンに去った亀山が如何なる変貌と遂げているか(或いはいないか)、そして、如何なる動機づけで杉下の相棒に復帰するか」

 

であり、視聴者の大半が望んでいるのは『文明化の使命という名の植民地思想』を自己総括した亀山が対日組織の一員として極秘裏に密入国することではありません。そもそも、亀山がサルウィンに渡ったのは亡き友人の遺志を継ぐためであり、個人的には自らの手で引導を渡した瀬戸内米蔵への敬意と贖罪でもあると思っています(後者は多分、亀山本人は自覚していない)。それを【なかったこと】にして、積み重ねてきた設定をガン無視した政治的に正しい(かどうかも現時点では正解の出ていない)思想に基づくイデオロギーを優先しろと言われても困ります。それはそれで視聴者の意表を衝く設定といえなくもありませんが、ハッキリいって、

 

意外性はあっても視聴者の誰も喜ばない展開はダークカイトだけでお腹いっぱい

 

なんですよ。我々が見たいのは15年前の続きなんです。

 

 

そして、彼らのいう『今の日本が他国の悪口を言える立場か』という主張が、実は次回以降の展開の構成要素として考えられなくはないということ。先述したように今季最大の焦点は『亀山がサルウィンから警視庁に戻る動機づけ』です。取り敢えず、サルウィンでは自身の教え子たちが色々な意味で『自立』したので、自分の役割は終わったという流れで日本に帰国する可能性がありそうですが、些かの勘繰りが許されるとしたら、今回の事件の顛末を鑓鞍や片山雛子に握り潰される展開を経て、亀山が新しい使命感を抱くという筋書きもありそう。実際、今回放送された前編では日本の報道の自由度の低さに対するサルウィン首脳部の危機感が事態を悪化させた側面がありましたからね。実際に事件を隠密裏に処理するのは内調のトップに転じた社さんかな? 何れにせよ、それを受けた亀山が、

 

「この国は俺が居ない間にサルウィンよりも不正義がまかり通るようになった。今度は日本に正義の種を蒔きたいと思う」

 

みたいなことを言い出して、その言葉に感銘を受けた綺麗な刑事部長が『よし、俺が一肌脱いでやろう』と特命係への配属をゴリ押しする……という展開も考えられるでしょう。まぁ、多分、外れると思うけどね。

 

ただ、この予想が奇跡的に当たるにせよ確実に外れるにせよ、映画や芝居のように直接チケットにカネを投じるのではなく、前後編を実質タダで見られるのですから、作品の総合的な評価は全部終わるまで待ちましょう。そして、今回の亀山の描写を否定したかったら、少なくとも『還流』と『レベル4』は見ましょう。そういう話ですよ。何も現在までの20期+プレシリーズ+お蔵入りの『夢を喰う女』まで見ろとはいわんし、見たうえで現実の活動従事者諸共否定するなら、それはそれで個人の感想ですが、最後まで見もせんで自身が社会的マウントを取るために『相棒』をサンドバッグにするなってこと。そして、見ないで叩くんだったら、せめて他のモノを叩く道具に利用するなってこと。叩きたいモノがあるならグローブ越しではなく、素手で叩け。以上。あー、少しだけスッキリした。

 

 

 


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