前島密「私は日本の『郵便の父』になる!」
『平清盛』の海賊王に俺はなるみたいなノリで、ジャパンのポストのファーザーにビカーム宣言をブチあげた我が郷里が誇る偉人ヒソカ=マエジマ。ヒソカの駅逓整備案は様々な通信手段が乱立&急激に発達している今日視点ではクラシカルに思われがちですが、現代の社会で例えると途上国でのネットインフラ整備みたいなものですから、クッソ重要なんやで。招聘された際には『九等出仕とは身分が低過ぎる』とゴネていたヒソカですが、元会津藩家老&前斗南藩権大参事(副知事)の山川浩でさえ八等出仕だからね、仕方ないね。そうした境遇にもめげず、従来の飛脚便に費やす予算と同額で更なる利便性と事業拡張という郵政『官』営化を果たしたヒソカさんパネェっす。二週連続のピンクレも納得の存在感。
前島密「この飛脚印にあるは何だ?」
渋沢栄一「汚れじゃねぇのか?」
前島密「そうか」
とフランス帰りの栄一の言葉を鵜呑みにして消印を華麗にスルーしてしまう一幕もありましたが、史実では後日、キチンと修正が入ったからセーフとしましょう……というか、そのシーンは尺の都合でカットされたのかと思いました。実質残り1クールだからね。ただ、現状では尺がない分、必要な情報をあれこれとブチ込んだのが逆に幸いしたというか、当時の改正掛の寝る間もない忙しさとリンクしていて、物語の疾走感の演出になっていたと思います。
さて、今回の主題の改正掛。渋沢が主人公である以上、幕臣の活躍にスポットが当てられるのは順当なところですが、作中でも各自の出身が提示されていたように各々の派閥や部署から中堅以下の小回りと潰しが利く割に面倒臭い連中が集まった、まさに梁山泊のような組織として描かれていました。長岡とか岡健とか海援隊の残党もポツポツおって嬉しい。後年の初代内閣総理大臣も、
伊藤博文「早う西洋流の統一国家を目指すならメートル法じゃ!」
と未だにヤード・ポンド法を墨守し続けるアメちゃんに喧嘩売るような提案をするなど、結構な割合で改革最前線の部署の改正掛に首を突っ込んできますが、当時の俊輔は大久保や岩倉よりも遥かに下の次官クラスの役職であり、後年の栄一との関係を差し引いても決して不自然な絡みではないでしょう。閣僚級の上役である大隈もフットワークの軽さに定評のある政治家なので、こちらも違和感なし。手紙が無事に届くか否かだけで話を盛りあげる大河ドラマに何かと縁がある大倉孝二さん。今回は無事に届いて何よりでした。
それはさて置き、国家のグランドデザインを設計し直す新政権の首脳部とは異なり、改正掛のような現場の実務と密接にリンクする役職には前政権の官僚が重宝されるのは何処の国でも同じですね。革命の理想を追求するあまり、前政権の官僚を末端まで斬り捨てた国家が如何なる運命を辿るかは『十二国記』の『華胥の夢』をお読み頂けると判りやすいと思います。攘夷や倒幕を掲げていた新政府が権力を握った途端に右も左も判らなくなり、旧幕府官僚の助けを借りるのは掌ゲッター2にも程がありますが、主義や理想に凝り固まって国ごとぶっ潰した革命政権なんざ枚挙に暇がありませんので、少なくともそれよりはマシ。
尤も、主人公の事業が軌道に乗りかけると余所からクレームが入って全てブチ壊しになるのが本作のセオリー。今回のお邪魔虫はこちらの方。
大久保利通「国家の大事をホンの一握りの若手が勝手に立案し、勝手に進めておりもす!」
国元にいる三郎が聞いたら同じことを俺の目を見て言ってみろと激怒すること請け合いの一蔵サァによる改正掛dis。栄一と大久保は終生ソリが合わなかったそうで、作中での扱いも宜なるかな。尤も、大久保が改正掛に当たりが厳しいのは別に彼が話の判らないパワハラ上司ということではありません。実は改正掛がやっている国家的新事業の立ち上げは、本当は大久保本人が一番やりたい仕事なんですね。のちに大久保は内務省という部署を創設。明治政府の司法・行政・殖産興業の主導権を掌握して、自身の理想の新国家像を具体化していくのですが、現在の改正掛はプチ内務省というかプレ内務省みたいなもので、大久保的には『俺のほうがもっと効率的に上手くやれる』という自負があったのでしょう。
それに加えて、これは多分に大久保の個人的事情になりますが、彼は上記した三郎(島津久光)というアキレス腱を抱えており、保守派の総本山にして何時暴発するか判らない政治的火薬庫でもある元主君の機嫌を損ねる訳にはいかない以上、自分の与り知らないところでホイホイと新事業を興されたらたまったものじゃあない訳ですよ。実際、このあとには廃藩置県という全国の大名を【なかったこと】にするという大改革が控えていますので、大久保が徒に不平分子を刺激しないように日本全体の政治的バランスを考えながら、慎重に事を進めているにも拘わらず、そんな事情を知らない栄一やヒソカみたいな輩が『んほぉ~この新事業たまんねぇ~』と善意で国家を前進させているのですから、そらぁ、一蔵サァも、
大久保利通「改正の喜びを知りやがって! お前ら許さんぞ!」
となるのも道理です。この辺の事情をもうちょい掘り下げて欲しかったのですが、来週以降に期待するには全体の尺が……ね。