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『西郷どん』第三十五話『戦の鬼』簡易感想(ネタバレ意味なし)

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以上、今週の『西郷どん』でした。

 

 

昨晩のツイッター録画実況中にMasaさんが繰り出した究極にして至高のネタ画像。今週の『西郷どん』を見逃した視聴者の皆さま。週末の再放送も深夜の『5分で分かる西郷どん』も見る必要はありません。上記のMasaさんの画像を御覧頂ければ、それで充分です。この『オッカムの剃刀』の理想的見本を思わせるエレガントな解法に比べたら、冗長極まる文言が目につく私の感想文なんぞは、旧型パンチカードシステムを用いたゴリ押し演算によるエレファントな解法と評するしかありません。嗚呼、自己嫌悪。今週はMasaさんの画像の凄味に敬意を表して、余計な解説は極力控えた簡易感想でいきます。ポイントは1つ。

ちなみに今年のオフ会に関しては一両日中にブログで御報告致しますので、今暫くお待ち下さいませ。

 

 

1.ちょっと何言っているか判らない

 

西郷吉之助「慶喜は日本を自分のもんじゃち思い込んじょっとじゃ。そいは人の上に立つ将として、一番相応しくなか了見じゃ」

 

おう、ソースあんならすぐ出せよ。

 

西郷吉之助「江戸に降って浪士を五百人程集めろ。ほいで市中の商家を襲って火をかけろ。出来るだけ大きか所にせぇ。小さか所じゃ焼けると潰れてしまうでの。そん時、こいが一番肝要じゃが、薩摩の仕業じゃち判るようにすっとじゃ。連中を怒らせれば、それでよか」

 

これが少し前まで『攘夷か開国か、それを考えるためにも、まずは民の暮らしを守ることを考えてたもんせ』と慶喜にドヤ顔で宣っていた男の台詞である。

 

西郷吉之助「慶喜公は日本を異国に売り払おうとしちょる。生かしておったら民が苦しむこつになる」

 

薩摩の指示で店を焼き払われた江戸の商家は黒糖地獄に苦しむ奄美の人々と同じく、日ノ本の民じゃないんですか。そうですか。

 

ダブルスタンダードどころか、トリプルスタンダード、クアドラプルスタンダードと評してよい主人公のブーメラン発言が連発した今週の『西郷どん』。今週は珍しく、巷説(≠史実)準拠の描写が多かったものの、物語自体が『慶喜は日本を異国に叩き売る売国奴! それを阻止する西郷は絶対の正義!』という論拠のない捏造三流の勧善懲悪を基幹としているので、多少の小細工があったところで、全体のクオリティに影響はありませんでした。やんなるね。

いや、別に西郷が悪辣な策謀を巡らすのは問題ないのですよ。近年の研究では薩摩主導による江戸擾乱計画は公的には中止命令が出ていたのに益満や相楽への連絡が間に合わなかったとの見方もあるそうですが、王政復古の大号令と共に急速に終息した『ええじゃないか騒動』と同じで随分と薩摩にとって都合のいい話ですねとの思いは禁じ得ませんので、個人的には江戸擾乱計画を西郷主導で描いたこと自体は評価したい程です。

 

問題は西郷の闇堕ち描写が今までの言動と全く整合性が取れていないことなのですよ。

 

口では『民のため! 新しい日本のため!』といいながら、民の暮らしを踏み躙り、国を危うくする戦を引き起こそうとしている筋金入りのサイコパスにしか見えないのですね。

これ、実はキチンと筋道立てた物語を心掛けていれば、普通に視聴者の賛同を得ることが出来た筈なのですよ。幕末の情勢、就中、金銀の為替相場の不均衡から生じた経済恐慌、そして、開国以前から失策続きの徳川幕府の外交音痴という負のレガシーの所為で、諸外国に対する日本の信用度が回復不可能な水準にあったことを踏まえたうえで、

 

「不平等条約や為替レートの改正は愁眉の急であるが、タダでさえ、外交音痴で信用度ゼロの徳川幕府に早期の条約改正が出来るとは思えない。幕府と仏国との連携も一歩間違えると西欧列強による内政干渉の呼び水となる危険がある。この際、薩摩も英国の援助を受けて、短期間に幕府を屠るしかなさそうだ。そして、ダラダラと内戦を長引かせないためには一戦で慶喜の首級を獲る。多分に賭けの要素が強いが、これしかない」

 

史実の倒幕運動の内実は措くとして、この程度の解説をしておけば、視聴者は西郷に感情移入出来る筈なのですよ。その労を惜しみ、慶喜を売国奴に貶めて、相対的に西郷を正義に仕立てるというやっつけ仕事で片づけようとするから、その場その場の西郷の言動に全く一貫性がなく、昨年の井伊直親も裸足でトンズラするレベルのサイコパスになってしまうのですね。今回、他にも色々と触れたい点はありますが、結局のところ、本作の欠点の全ては上記した理由に帰結すると思うのですよ。それこそ、先述したように本作にしては巷説準拠の描写が目立ったものの、それらが心に全く響くことなく、逆にあざとい印象を残してしまったのも、そういうところなんじゃあないでしょうか。

 

次回予告で藤本隆宏さんが演じる山岡鉄舟が登場しましたが、これ以上ない神キャスティング&西郷VS『JIN-仁-』の西郷という、このうえなく心躍るシチュエーションにも拘わらず、全く心に響かないんだよなぁ。純粋に勿体ない他の作品で見たかったという思いしか抱けない。最高級の配役にハチミツをブチ撒けるが如き作品です。ピュア勝ならぬ、ダーク勝の、

 

勝海舟「アンタ、徳川の恥だよ!」

 

という台詞も、慶喜の苦衷に少しでも思いを致せば、おいそれと書くことなんて出来ないよね。まぁ、

 

福沢諭吉「降伏した勝や榎本のほうが恥知らずだぞ」(@『瘠我慢の説』)

榎本武揚「私と一緒に降伏した大鳥君は何でセーフなんですかねぇ」

勝海舟「適塾の同窓生だからだろ(ハナホジー)

 

こんなことをツイッターで呟いてしまう私も大概ですが。

 

 

 

 

 


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