荒川弘「この号が出る頃には、原作の最終巻が出ているのですよね……!」
遂に本日発売となる『アルスラーン戦記』の最終巻。私も今から買いに行く予定ですが、何分、仕事が立て込んでいるため、今日中に読むのは難しいかも。明日から遠出するので、その道中の御伴にしようと思っています。そんな訳でコメント欄でのネタバレは暫く御遠慮頂けると幸いです。最終巻に期待することは、
全員死なせてもいいから、納得のいく結末にして欲しい
でしょうか。ここ数年、ダークカイトやパンドラ一歩のように作者が越えちゃいけないラインを弁えていない作品を立て続けに目の当たりにしているので……『タイタニア』も結構大概なラストでしたからねぇ。『修羅の門 第弐門』のようにベタでもいいから、自然な落としどころへ着地させて欲しいものです。長年、田中センセの作品を愛読してきた人間としては、最終巻は誰が死ぬかよりも、誰が生き残るかを予想したほうが効率的ではないかという覚悟はしているので……それでも、何気にバルハイは生き延びそう。『七都市物語』のボスウェルと並ぶ田中作品二大名物モブキャラですので、田中センセがうっかり殺し忘れることもあり得る……かも? そして、原作者がうっかりしなくても、しぶとく生き残りそうなキャラクター筆頭のラジェンドラが一先ず、表舞台から姿を消す今回のポイントは5つ。
1.安西aa略
ラジェンドラ「……なんでこうなった」
リアル時間でほぼほぼ一年前のパルス侵攻時と全く同じ台詞を呟くことになったラジェンドラ。まるで成長していない……。尤も、田中センセの作品はキャラクター設定がガッシリしている分、その成長が描かれるケースは稀なので、これはラジェンドラの責任に帰するのはアンフェアかも知れません。その意味でも漫画版のアルスラーンは、田中センセ由来のキャラクターの中で成長が描かれる稀有な存在といえるでしょう。
此度もパルス軍の虜囚となったラジェンドラですが、ナルサスの思惑通りとはいえ、二度も野戦で捕虜になりながら、生きて故国の土を踏むことが叶った王族というのも稀有な存在ではないでしょうか。大抵は戦場で斃れるか、捕殺されますからねぇ。この強運を人徳と見るか、利用価値と見るか。ラジェンドラ本人は勿論、前者と信じているでしょう。尚、和平の条件の一つとしてシンドゥラ暦の年代を二年縮めることというネタは割愛。前振りがなかったので仕方ないとはいえ、このネタ結構好きなので、やって欲しかったなぁ。
2.後頭部直撃級
ナルサス「甘いとは殺すべき者を殺さない時に使う言葉です」
ヘボ画家、ブーメラン刺さってるぞ。
のちのちの展開を思うと、結構なおまいう発言となったナルサスの一言。実際、あの時のドサクサに紛れて、禍根を絶っておけばねぇ……。
3.つ鏡
ナルサス「これより、チュルク国に使者を送り、救援を求めて差し上げましょう。チュルク国王は侠気のある御仁と承ります。喜んで大軍を派遣し、王の居ぬ間にシンドゥラ国を平定してくださることでしょう」
ラジェンドラ「チュルク王が侠気のある男だなどと聞いたこともないわ!」
自分のことを遠い棚にあげて、チュルク国王を論うラジェンドラですが、確かにチュルクのカルハナ王は御世辞にも器量人とは呼べない性格ですから、ラジェンドラの口から出た言葉にしては珍しく、真実を穿っているといえるでしょう。第二部で実際に謁見したギーヴがいやぁな奴という実も蓋も壺もない言葉でカルハナ王の為人を評していますが、カルハナ王もギーヴに同じ思いを抱いたのは想像に難くありません。『七都市物語』のギルフォードとAAAとクルガンのような関係性といえるでしょう。しかし、ラジェンドラ、カルハナ、ギーヴ……こうして三人を並べるとラジェンドラが一番マトモに見えるのが怖い。人間関係における相対的評価というものが如何にアテにならないか、その傍証といえます。
4.支払いはアルスラーンにツケておく
ジャスワント「あれでも我が国の王なので、賊などに襲われて死んでもらっては困ります」
国王をアレ呼ばわりする無礼は兎も角、一応、ラジェンドラへの気遣いを見せたジャスワント。しかし、本人が懸念したように、復讐に燃えるガーデーヴィ派の手に落ちた場合は生命の危機ですが、ラジェンドラのことですから、山賊に捕らえられても、彼らと気さくに語らい、気前よく身代金を払ってくれる気がします。
ラジェンドラ「何? 俺の身代金として金貨一万枚を要求する? バカをいえ。俺の首級にはもっと価値がある。金貨五万枚でどうだ?」
とかいって、人質生活をエンジョイしそう。勿論、身柄を解放されたら即座に山賊討伐の軍を編成して、全員縛り首にするというカエサルみたいな対応をするのは間違いありませんが、
5.悪女について
サリーマ「このまま、ここにいればいいのに」
なかなか行動原理が読めなかったサリーマですが、成程、ジャスワントへの思慕が基底にあったという設定でしたか。色々と納得。ジャスワントの想像が正しければ、彼とサリーマは異母兄妹の可能性がありますが、サリーマほどの女性が男女の機微に疎いとは考えられないので、その辺も織り込み済みでジャスワントを好ましく思っていたのかも知れません。
しかし、ラジェンドラはサリーマに振られ、サリーマはジャスワントに振られ、そのジャスワントが靡いた相手はアルスラーン。そして、アルスラーンが大抵の家臣よりも胸襟を開いて語れる相手がラジェンドラときたもんだ。うーん、この無限ループめ。
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