直虎によるハイパー串刺しタイムの回想から始まった今週の『おんな城主直虎』。何の予備知識もない人が偶然、チャンネルを合わせたとしたら、尼さんが罪人の胸を突き刺すという突拍子もない出だしに衝撃を受けたことでしょう。前後の文脈が判っている私でさえ、混乱を禁じ得ない場面でしたからねぇ。『花の生涯』から全ての大河ドラマを見続けてきた(除く『花燃ゆ』)私の母親も流石にやり過ぎと述べていました。
近藤康用「次郎様手ずからトドメを刺されるとは……いやぁ、驚きましたなぁ」
と、謀略の画図面を引いた眉毛本人でさえ、驚嘆の念を禁じ得ないのですから、我々が消化できないのも宜なるかな。肯定であれ、否定であれ、小野但馬の最期が衝撃の展開であったのは間違いありません。その反動でしょうか、今回はひどくチグハグな筋書きの連続で、
与力「何でそーなるのっ?」
と何度も画面に突っ込んでしまいました。一つ一つのエピソードはそこそこなのに、全体を通すと違和感バリバリの内容。視聴者や直虎が政次ロスから立ち直れないように、作り手側も小野但馬という物語の中軸を失ったことで、一時的に迷走しているのではないかと思えた今回のポイントは3つ。
1.やべぇ……やべぇよ……
井伊直虎「今宵辺り、但馬が来るかも知れません」
南渓(えっ?)
昊天(えっ?)
井伊直虎「近藤殿が、どうも井伊への企みを抱いておるようなのです。但馬が来たら、どうやって処するか、話をせねばなりませんゆえ……」
南渓(アカン)
昊天(アカン)
己が小野但馬を殺めた事実を自身の脳が認めなかったのか、解離性健忘を発症してしまった直虎。パッと見は柴咲さんの演技のテンションが従来と変わらない分、余計に闇の深さを感じました。尤も、眉毛の井伊谷乗っ取りという、同時期に発生した事案の記憶は持ち越しているので、本人はタイムリープしたつもりなのかも知れません。どちらにしても、周囲の人間はドンびきするしかありませんが。でも、本当に気が変になりそう&なってしまいたいのは、なつさんだと思うよ。
それは兎も角、チグハグ感の原因の一つが直虎の解離性健忘。劇中での政次ロスを演出する狙いでしょうけれども、この設定が物語の進捗に殆ど寄与していないのですね。『直虎は可哀そうだね』の一言で済んでしまうレベルで留まっており、これが原因で物語が(いい方悪い方を問わず)動いた形跡がない。或いは直虎の自失状態で井伊との連携を絶たれたために、気賀は対応を誤ったという展開にしたいのかもですが、よくよく考えると徳川がアテにならないことは南渓和尚の口から龍雲丸に伝達されているので、そういう狙いでもなさそう。これがチグハグ感の一つ目の要因。あと、個人的な好みをつけ加えると、作中での政次ロスは彼の不在が政戦両略の遂行で著しく支障を生じるといった描写でやってくれたほうが、絶対に大河ドラマっぽくなると思う。
2.嘘だッ!
鈴木重時「井伊谷城開城の折、某は傍におりながらとめることは出来ず、ただ流されるばかりで……情けのう存じます。何か、お役に立てることがあれば、御申しつけ下さいませ」
南渓「……では、教えて下さいますかの。但馬を生きて返す術を」
鈴木重時「」
仏門に帰依しているとは思えない、なかなかの怨み節を見せた南渓和尚。昨年のイケボでしたら、
直江兼続「じゃあ、地獄の閻魔に但馬を生き返らせてくれるよう、和尚が直に手紙を渡してくれ」ズバー
でカタがついた場面ですが、どう足掻いても小市民的小悪党の域を出ない本作の鈴木さんに、そこまでのリアクションを期待するのは酷でしょう。眉毛の企みに全く気づかなかった程度のキャラクターですからねぇ。でも、陰謀に気づいていなかったという本人の弁には首肯しかねます。結構ノリノリでやらかしていた感ありましたので。そもそも、鈴木さんは井伊家とも小野家とも中野家とも姻戚関係にあるので、何かと直虎や小野但馬と悪い意味で因縁の深い眉毛とは反対に、三人衆の中でも親・井伊家というスタンスで描いてくれていれば、今回の懺悔シーンも自然に受け入れられたと思うのですが、如何せん、眉毛に比べると他の二人は影が薄くてなぁ。更にいうと、別に鈴木重時が小野但馬の死の真相を知っても物語の大筋に大した影響を及ぼす訳でもなさそうなのも問題点。まぁ、この辺はのちのちの伏線として、何らかの形で回収される可能性もありますけれども、現時点では、
「あの人も死ぬ時は善人になって死にました」
というロイエンタールの自嘲と世の道徳屋共の共感を買う以上のものにはならなかった。直虎の解離性健忘と同じく、何のために描かれたのかが判らない鈴木さんのハイパー懺悔タイムがチグハグ感の二つ目の要因。
3.龍雲丸「何じゃこりゃあ!」
力也「そういや、この城は皆を逃がすために造ったんだよなぁ……」
真壁さん、ぐう正論。
建設時には『逃げる者を助けるために考えた城』と豪語しておきながら、自分たちだけでドロンしようとした龍雲丸。
龍雲丸「この城に近づけるのは潮が満ちている時、しかも、船を持つ者だけ。敵が馬に乗ってきても、どうにもなんねぇ。仮に……(シュバッ)……潮が引いても、泥濘んでて馬は来れねぇ。こっちが往生している間に、この中にいる奴らは裏から船で逃げ出すという寸法でさぁ」
とドヤ顔でテーブルクロス芸を披露していましたが、まさか、城の外ではなく、内側の今川軍に支配されると思っていなかった模様。難攻不落の要塞は内側からの攻撃には弱い。はっきりわかんだね。最終的には民草を逃がすために尽力した龍雲丸ですが、真壁にいわれるまでもなく、積極的に動いて欲しかったかなぁ。それが史実のシガラミを持たないオリキャラの強みであり、存在意義ではないでしょうか。
気賀城の地理的優勢が本作で殆ど触れられなかったのも疑問点。気賀城の建設には二話も費やしたので、てっきり、徳川の最初の攻撃を退ける件は描かれると思っていたのに……昨年でいうと真田丸を建設しておきながら、冬の陣の攻防をスルーしたようなものでしょうか。或いは民草を逃がすための経路が、逆に民草を殺戮する徳川軍の来寇を招いたという悲劇を描きたかったのかなぁ。
今川の武将たちが気賀を接収する件も、違和感を覚えたというか。折角、民草を抱え込んだのに、労役や防衛任務を課すでもなく、見張りをつけておくだけとは……これでは銀行強盗の取り籠り犯と変わらん。単純に兵糧の減りが早くなるだけで、何のメリットもなさそうです。更にいうと何で家康が気賀の民を救おうとしているのかも判らない。勿論、親・家康派への援助という動機はあるにせよ、こういう場合は救出よりも先に城内の味方を焚きつけて、内部から城を落とそうと考えるのが自然ではないでしょうか。もう一ついうと、何で酒井忠次は家康の命令を無視して、味方諸共気賀を攻め潰そうとしたのかも判らない。見せしめという意図は理解しますが、ここは普通に、
徳川家康「気賀の連中、俺に歯向かいやがって! 許せん! ジェノサイだー!」
でいいと思うのですよ。それをわざわざ忠次にやらせる理由が判らない。多分、将来的に虎松が仕える相手を悪く描きたくないという考えでしょうけれども、井伊谷の件に続き、今回も末端の暴走を制止できなかった訳で、そのほうが家康の沽券に拘わると思うのですよねぇ……ここまで忠次がヒールとなると、瀬名殿の一件も忠次の讒言説になりそうな予感。
兎に角、今週、特に気賀城を巡る一連のチグハグ感は半端ありませんでした。ラストシーンも直虎が龍雲丸を刺す夢オチという、どうやったら、次回に繋がるのか全く予想できない〆。直政の登場までは、迷走が続きそうな予感です。
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