上田旅行の際に穂積さんと『今年中にやりましょう』と話をしていた『真田丸の飲み会』、略して丸会の件。十月の何処かの週の土曜日に都内で穂積さんとお会いする約束が取れましたので、そこにあわせて開催することにしました。時間帯は19時以降を予定。詳細は更に詰めていかないといけませんが、御一緒に『真田丸』トークに花を咲かせたい方はコメント欄などでお知らせ頂けると幸いです。正式な時期や場所などは後日、改めて記事にしたいと思いますが、まずは取り急ぎのお知らせとして。
さて、今週の『真田丸』は……いや、リアルはリアルですよ? 凄いリアルですが、何もここまでやらんでもえぇやろ? これが老人介護を主題にしたドラマ枠でしたら、何の問題もないのですが、大河ドラマでやられるとシンドイの一言。見ていて辛くなるリアルさという点では、一昨々年の八重ちゃんも相当なシロモノでしたけれども、あれは史実パートの辛さじゃあないですか。でも、今回の秀吉は史実以外の描写が生々し過ぎるのよ。同じような心境に陥った作品が他にもあった気がして、色々と思い返してみたら、
『相棒』の『ボーダーライン』
もそうでした。ああいうのは『クローズアップ現代』でやって欲しい。そういえば、繰り上げ放送の要因となった都知事選を『劇場型選挙』と評する声がありましたが、確かに都知事選のほうが今週の大河ドラマよりもエンタメしていました。それが現実社会にとっての幸福か否かは別として。腰の打撲が原因で寝たきりになった身内がいた人間としては、過去のトラウマを穿り返された今回の『真田丸』。ポイントは7つ。
1.今週の闇深
大谷吉継「殿下は些か、長く生き過ぎたのかも知れぬ……」
嘗ての颯爽たる秀吉を知る家臣にとっての共通の思いには違いない発言ですが、本作の刑部の口から出ると何やら裏がありそうに思えてなりません。『用済みの太閤はそろそろ消えて貰おうか』というニュアンスに聞こえてしまいました。狙いは治部を次の傀儡の天下人に据えることでしょうか。刑部殿の闇は深い。初登場時から思っていたことですが、この人が一番天下を治めるに相応しい器量の持ち主という印象を受けます。頑張れ家康。
そんな刑部殿の闇深発言の契機となったサン・フェリペ号事件と日本二十六聖人殉教。従来の作品では秀吉の耄碌やキリシタンの脅威が主体として語られがちですが、本作では積み荷の接収の正当化のためにバテレン追放令を拡大解釈した結果として描かれていました。こういう通り一遍ではない史実の用い方は好き。暴走した権力の典型的症例は法の恣意的運用というのが古今東西を問わない歴史の法則ですからね。この場面は秀吉の恐ろしさが出ていたと思います。
2.フラグ回収
石田三成「お主は顔に出やすい。殿下の前で涙ぐんだりして貰っては困るのだ」
加藤清正「そんなことは判っておる!」
矢沢頼綱「この矢沢薩摩守頼綱、床の上で死ぬる訳にはいかんわ!」
ナレーション「矢沢頼綱はその後、一度も戦場に出ることなく、天寿を全うした。享年八十」
うーん、このフラグ回収の早さ。
特に矢沢のGGEは胸を押さえるとか咳き込むとかいう、大河ドラマの御約束的描写抜きで、一気に彼岸に旅立たれました。流石はイニDの聖地。最速に拘る御国柄。老いて益々盛ん、矍鑠たるという言葉に相応しいファイティングサイボーグGちゃんYAZAWAらしさ満載の、あっけらかんとした入定でした。合掌。
一方、信繁と治部の制止にも拘わらず、秀吉の御前で大号泣してしまう虎之介。治部としては後頭部の一つでも叩きたい気持ちでしょうし、同時に感情を露わにできる虎之介が羨ましいかぎりでしょうけれども、治部の『泣くなよ! 絶対泣くなよ!』という台詞はダチョウ倶楽部の前フリと同レベルなので、虎之介に罪はありません。悪いのは治部。
3.初めての主人公らしさ
真田信繁「私の人生で『あの人のようになりたい』と思うお人が二人いた。その二人から同じことをいわれた。『わしのようになるな』と。一人は御家のため、人の道を捨てた。一人は御家のため、己の信念を枉げた。だから、私はそうならぬよう心掛けてきた。秀吉様にお仕えした以上、豊臣家に背くは義に背くこと。おかげで今、息ができぬほど苦しい思いをしている……」
放送開始から三十話目にして、初めて主人公が己の人生を自問自答する場面。ようやっと大河ドラマの主人公らしさを見せた信繁です。今までの信繁には目の前のトラブルを解決する才知はあっても、己が如何に生きるべきかを長考する場面は殆どありませんでしたからね。この辺からも本作の主人公は天正壬午編がスズムシ、大阪編が秀吉と考えたほうがいいでしょう。最終章では信繁になると思いますが、そうなると関ヶ原編の主役は誰になるのか? まさかのお兄ちゃん? ちなみに二人とは信尹叔父さんと上杉景勝であって、スズムシではありません、念のため。普通、主人公の人生の指針になるのは尊敬に足る、或いは越えがたい愛憎の対象としての父親ですが、本作のスズムシはどちらの要件も満たしていないという稀有な存在といえるでしょう。
尚、その一人である景勝は『家康の動向を北から見張ってくれ』という口実で越後から会津へ飛ばされてしまいますが、六尺の孤を託された感涙に咽ぶ景勝と、隣で『北から家康を見張るのなら越後のままでもええんちゃうのか?』という迷惑千万と言いた気な表情を浮かべる兼続の、相変わらずな関係に噴いた。ホンマ、本作の景勝はチョロいでぇ。
4.きりちゃんのきりはキリシタンのきり?
きり「私、キリシタンになってもいいですか?」
真田信繁「やめておけ(即答
久しぶりに顔をあわせた『運命の二人』の会話がこれ。多分、信繁はきりちゃんの言葉は耳に入っていないと思います。きりちゃんが『~してもいいですか?』という時は大抵ロクでもないことになるので、語尾に対して反射的に反対している可能性大。これが『仏門に帰依してもいいですか?』とか『上田に帰ってもいいですか?』とか『たかちゃんを捜しにルソンに渡ってもいいですか?』とかでも、信繁は反対したと思います。世の中には会話を転がしたくない相手がいるものですから。
さて、キリシタンへの傾倒を強めた(のか?)きりちゃんですが、現時点では強烈な入信の契機には遭遇していなさそう。もしも、仮説通りにキリシタンに目覚めるとしたら、ガラシャの自害に居合わせるという展開が考えられそうです。尤も、色々な意味でフリーダムなきりちゃんが何らかの属性に縛られるとキャラクターの魅力そのものが損なわれる危険もあるので、キリシタンへの帰依はあり得ないんじゃあないかとも思います。秀次の側室に望まれた件と同じで、ギリギリの場面で切り抜ける可能性大。きりちゃんのきりは切り抜けるのきり、かも。
5.私のトラウマ
豊臣秀吉「枯れ木に花を咲かせましょ~♪」ボキッ ドタッ ミシッ
今回最大のトラウマ掘削機と化した秀吉転落(物理)の場面。やめてください(こころが)しんでしまいます。腰を痛めると本当にアカンのよ……。この場面で何故に秀吉が無茶をしたのかが疑問でしたが、よくよく考えたら阿茶局が同席していたのがマズかったのでしょう。彼女の耳目を通じて、秀吉の健康状態は家康の元に筒抜けですから、ここは自身の健在ぶりをアピールしておかなければいけないという秀吉なりの計算があったものと思われます。この辺、単なる息子可愛さの軽率な行動ではないという動機づけがされているのは、見ていて『おぉっ!』となりました。それでも、
きり「とめたほうがいいんじゃあないですか!」
と本作屈指のトラブルメーカーでさえ、危惧するシチュエーションなのに、三成も信繁も梯子を支えるのに気を取られて、秀吉の落下を阻止できなかったのはダメ過ぎる……木の周囲にも何人が張り巡らせておけよ。
そして、もう一人のトラブルメーカーである茶々。あの状態の老人に木に登ってパフォーマンスしろとか、完全に秀吉を殺しにかかっているとしか思えない無茶ブリでした。それが天性のファム・ファタール気質なのか、それとも、殺意があったのか、判断の分かれるところです。演じる竹内結子さんの表情を見ていると少なくとも未必の故意はあったように思えてしまうのですが……。
6.今週のMVP
出浦昌相「この女は、忍だ」
真田昌幸「昌相……よう気づいたのぉ」
出浦昌相「同類は、目を見れば判る」
兄弟の会話の雰囲気からして、どう考えても余人に語るべきではない話を、色気に惑わされてペラペラと囀ってしまうスズムシ。スズムシの奴、マジスズムシレベルの脳ミソ。今回は秀吉の老衰ぶりが半端なかった所為で見落とされがちですが、いっていいことと悪いことの区別がつかなくなった&贔屓の太夫の容貌を見誤ったスズムシの老いが何気に描かれた回であったようにも思います。そんなスズムシを救ったのが出浦さん。襖を開けたら襷掛けをした暗殺モードの出浦さんが立っていたなんて、恐怖以外の何者でもありません。
吉野太夫(偽)「アイエエエ! デウラ? デウラナンデ?」
と取り乱さなかっただけでも、このくのいちは歴戦の猛者と推察できます。そんな歴戦の猛者をアッサリと始末する出浦さんマジカッコイイ。無言で間合いを詰めての一刺しでケリをつけるとか殺す時は声も発さずに殺せという『蒼天航路』の関羽の名言を思い出しました。
しかし、そんな出浦さんの活躍を無に帰すかのように、カブトムシのツテで徳川家に秀吉の病状を伝えるお兄ちゃん。これは出浦さんのようなタイプの人間が乱世から取り残されているということなのでしょう。その証左のように次回予告では出浦さんがカブトムシに斬られるシーンが……しかも、スズムシの差し金で現場にお兄ちゃんも居合わせているっぽい。今回はテンション下がり気味の内容でしたが、次回は期待値高いぞ。
7.黄昏
石田三成「殿下、左衛門佐には?」
豊臣秀吉「……誰?」
真田信繁「」
もうやめて!
視聴者のSAN値はとっくにゼロよ!
この辺の下りはマジでシンドかった。いや、確かに近年の大河ドラマのように何もしていない主人公が三英傑に覚えられているというのもアレですが、今回のようにガチで忘れられるのもキツいものがあります。ラストシーンで秀吉が信繁と初めて会った日のことを繰り返すのは、記憶が完全にデリートされていないことの証とはいえ、ここまでくると忘れ去られたほうがマシに思えてきます。
これ以上は本当にトラウマの傷がパックリと口を開いてしまいそうなので、勘弁して頂くとして、今回の秀吉の描写は本当にキツかった。まぁ、キツいのはいいんですよ。耄碌して失禁する秀吉は歴代の大河ドラマでも何度も描かれていますので。じゃあ、今回が何でキツかったかというと耄碌のリアリティを支えるだけのファンタジーが本作の秀吉にはなかったことでしょうかね。耄碌の悲哀は元気な頃との落差が大きければ大きいほどに深いものですが、本作の秀吉は政治家としての力量、独裁者としての恐怖、主人公との親和性の何れもが及第点ギリギリか、それに達していなかったと思うのですよ。あれほどに優れた頭脳の持ち主が耄碌した。あれほどの暴挙を仕出かしてきた男が哀れなほどに老いた。あれほどに自分を可愛がってくれた恩人が私のことを忘れてしまった。こういう場合こそ、人は老いに物語的な悲哀を感じる訳です。しかし、本作の秀吉はフツーのおっさんが耄碌した印象が拭えない。それゆえ、耄碌の描写に異様にリアリティが出てしまって、歴史上の人物の老境というよりも『クローズアップ現代』を見ているような気分にさせられてしまったのではないかと思います。
三谷さんらしからぬ、善くも悪くもリアリティ優先となった今回の『真田丸』ですが、次回は出浦さんによる家康暗殺計画という久々の大法螺が炸裂する模様。折角の大河ドラマなのですから、こういう血沸き肉躍る法螺話を楽しみたいものです。
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『真田丸』第30回『黄昏』感想(ネタバレ有)
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