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『真田丸』第22回『裁定』感想(ネタバレ有)

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敢えて言おう! 全員がMVPであると!

今回は三谷史劇の真骨頂といいますか、登場人物全員に見せ場があり、且つ、皆に感情移入ができて、そのうえ、物語としても充分に面白かった。小田原攻めに至る経緯を、史実を元に大胆なホラ……じゃない、創作を交えて丁寧に描き切っていました。流石は合戦の直前回に定評のある三谷脚本です。まぁ、逆にいうと、次回以降のバトル回が第一次上田合戦の轍を踏まないか気になりますが、それは来週心配することにしましょう。今回はムダな前書き抜きでとっとと本編の感想に入ります。


今週のMVP① 片桐且元

片桐且元「……ここが面白いところですが、家中に騒動が起こりまして、何と家臣が上杉方と北条側真っ二つに分かれ、その時騒動を鎮めたのが……」
豊臣秀吉「長い」


社会科のOHP授業を思い出させる画図面で沼田城の歴史的・地理的状況を説明する片桐且元。これはハッキリと視聴者の好き嫌いが分かれるでしょうね。『こんな時代劇があってたまるか』という意見が聞こえてくるようです。私も概ね同意ですが、これは『この悪乗りを受け入れてくれる方には最高のエンタメを提供します』という振るい掛けかも知れません。きりちゃんの存在と同じで視聴者への試金石とでもいいますか。
尤も、信繁の祝言回のように、序盤を弛めることで後半のシリアス展開を際立たせるのは『真田丸』の常道手段。これは各話もそうですが、全体の構成にも通じます。三谷さんの描く謀略劇は基本的に軽いのですが、第一話、第二話のユルユル戦国物語があったからこそ、第三話のお兄ちゃんのどうでしょう劇場を皮切りに開幕した天正壬午の謀略劇は重く感じました。大坂編も序盤はモニョッと感が拭えなかったものの、それ以降はモニョッと感の原因(信繁と茶々の関係とか)が逆に物語を盛りあげる要素に転化してきています。最初から百点を狙うのではなく、まずはマイナス三十点を取っておいて、次に七十点を取れば、差し引き百点に等しい。毎回毎回、万人が認める百点作品を叩き出すのは困難ですから、そうした緩急をつけることで体感的な満点をコンスタントに提供するという狙いがあるんじゃあないかと思えてきました。
それと、近年の大河ドラマの製作者は『一般視聴者向けにハードルを下げる』的な物言いをしていまして、それはそれで新規層を開拓するうえで大切なことなのですけれども、そういう作品の問題点はハードルを下げっ放しで終わっていることですね。自分で下げたものは自分で上げろよ。その点で『真田丸』は軽い軽いと言われながらも、自分で下げたハードルは自分で上げ直しているワケで……まぁ、そんな具合に『真田丸』という作品の全体的構造を考える契機となった片桐且元がまずはMVP。


今週のMVP② 真田信繁

真田信繁「騙し取り! 掠め取り! 勝ち取りました!」

『真田は当時の主筋である織田勢を騙して、沼田を掠め取ったのだ』という江雪斎の発言に対する信繁の返答がこれ。ここまで清々しい開き直りの台詞は裸になって何が悪いの他に思いつきません。キョクチョー! キョクチョー! 室賀さんの『黙れ小童!』を抜いて、兼続の『斬り捨てますか?』に次ぐ暫定二位の名台詞。しかし、何よりも凄いのは主人公の台詞ということでしょう。主人公がこういう台詞を口にすること、それが概ね事実であること、そして、その言葉に視聴者が共感できる内容であったこと。この三点を満たしたということで信繁もMVPの名に恥じない働きでした。


今週のMVP③ 板部岡江雪斎

板部岡江雪斎「これは戦だと私は思うておる。戦は勝たくては意味はない。容赦はせんぞ……こうして、我らがやりあうことで真の戦をせずに済む」フフン

板部岡江雪斎△!

後述する佐渡守といい、治部といい、今回は朝方に放送している『ガンダムUC』を意識しているのか敵味方の垣根を越えて若者を導く大人の姿がメインでした。何というおっさんホイホイ。だいたい、信繁と江雪斎を絡ませようという発想が尋常じゃあなく、そのうえ、江雪斎のほうに花を持たせる展開は空前にして絶後でしょう。三谷さんの歪んだ歴史愛を感じずにはいられません。


今週のMVP④ きりちゃん

きり「中納言さまぁ~♪ 御約束通り、御差し入れをもって参りました……ホラ、アンタの分も」ポイ

先回、信繁に『秀次の側室にでもなってしまえ』と言われた腹いせでしょう、露骨に弁当のクオリティに差をつけてくるきりちゃん。信繁としては業腹ですが、昔、お梅ちゃんへの櫛の一件できりちゃんに似たようなことをしているので、自業自得としかいいようがありません。信繁はとうの昔に忘れているでしょうが、やられたほうは覚えているものです。しかし、それでも、秀次相手に『沼田城は真田のもの』というハニトラを仕掛けている辺り、きりちゃんはきりちゃんなりに真田家の御役に立とうと頑張っています。気苦労で踵や踝がカサカサになるのも無理はありません。普段と変わらないようでいて、実は真田のために尽くしていたきりちゃんもMVPに相応しい。

今週のMVP⑤ 本多正信

本多正信「必死で戦うておる若者を見たら、手を差し伸べてやるのが年寄りというもの……失礼」

『起請文の日付が早いほうが法的拘束力を持つのは赤子にも判る理屈』という信繁の言葉尻を捕らえて、それは三河守殿に対する侮辱と批判する江雪斎。この裁判の鍵を握る……というか、そもそもの元凶は徳川家なので、その心証を害したほうが圧倒的不利に陥る。陪審員を丸め込むのではなく、証人から有利な証言を導こうというのが江雪斎の法廷戦術でした……が、佐渡守、まさかの熱い掌返し。『やるとも返すともいっていない。取るなら好きにしろとしかいっていない』ときたもんだ。まぁ、実際もそんな感じじゃあなかったかと思います。それにしても、今回の佐渡守はカッコよかったなぁ。こんなにカッコいい佐渡守は見たことねぇ……いや、まぁ、本作のスズムシがアレで佐渡守を演じておられましたが、アレはあらゆる意味で例外ということで勘弁して下さい。しかも、頑張る若者は応援したくなるという自分の言葉に照れて、足早に去る正信が粋でした。僕は綺麗な佐渡守。尤も、後述する秀吉の思惑を読んでいたとしたら、裁判の結果がどうなるかも予測し得たワケで、そう考えると『ここは真田に肩入れして、秀吉にイヤガラセをしてやれ』とか考えた結果であったのかも? それはそれでMVPの価値はあります。


今週のMVP⑥ 豊臣秀次

豊臣秀次「ずっと気になっていたのだが、譲り渡すにせよ、奪い取るにせよ、それは沼田城が真田の城であることを暗に認めていることにはならないか? 元々、北条のものであるなら、取り返す、奪い返すというべきであろう。これは何より、北条は沼田を真田の物と思っている証拠じゃ。『語るに落ちる』とはこのこと……違うか、江雪斎?」

誰やねん、コイツ?

登場人物のみならず、視聴者全員が成程と膝を打つと共に『コイツは本当に秀次か?』と疑ったであろう、近江中納言の名裁き。秀吉が見たら『こんなの秀次じゃない! 俺の秀次がこんなに有能なワケがない!』と疑心暗鬼に駆られたことでしょう。もしかすると、この功績が捨や拾を脅かす障害になると秀吉に判断されて、のちの殺生関白事件に発展するのかも知れません。まさに今回が人生のピークと思える秀次でした。

今週のMVP⑦ 石田三成

石田三成「理不尽なことは承知のうえ……このとおりだ」フカブカー

ところが、今回の裁判は初めから北条の勝訴が確定していたとのこと。沼田を引き渡せば、北条は上洛する。しかし、頭ごなしに真田に沼田を空け渡すように命じたら、空気を読まないスズムシが何を仕出かすか判ったモンじゃあない。つまり、

綺麗なリディ

歯車の意地

ということでした。主人公の敢闘やスズムシの暗躍の遥か頭上では、日ノ本全土を見渡した戦略が展開されていました。そのうえでスズムシに頭を下げる治部。先回も述べたようにこの部屋ごとスズムシを焼き払ってしまえば万事解決するというのに、治部の誠実さには感激してしまいます。まぁ、最初から信繁にネタ明かしをしておけばよかったのにと思えなくもないですが。


今週のMVP⑧ スズムシ

真田昌幸「『名胡桃に先祖の墓がある』といったな。あれは嘘だ」

ここまでくると視聴者としても知ってたという言葉しか出てこない、スズムシの口から出まかせエレクリカルパレード発言は今回も健在。休廷中に戻ってきた信繁に水を飲ませてやったり、元気づけたり、喝をいれてやったりと納戸に潜むスズムシの働きはボクシングのセコンドのようでした。これで片目に眼帯をしていたら完全に丹下団平。基本的な作戦は弁えているものの、イザという時に物事の全体像が見えずにアワアワする所も似ています。後半になると完全にコメディリリーフでしたからね、丹下団平。


今週のMVP⑨ 北条氏政

北条氏政「兵を一万ほど沼田周辺に送れ」
板部岡江雪斎「秀吉公は城の受け渡しの際は千人以上の兵を動かしてはならぬと仰せられました」
北条氏政「二万にしろ」


しかし、そんな真田の思惑を見抜いていた氏政伸。序盤で真田相手にはキレキャラでブイブイいわせていた氏直も父親の裁定にはドンびきです。イヤガラセのために二万も動員できる北条家は、まさに関東の雄でしょう。ホンマ、この人は相手が秀吉でなかったら、乱世の名君として語り継がれたでしょうなぁ。氏政伸も秀吉とマトモに戦ったらヤバイのは薄々感じているような描写がありましたが、ここまで大国になると引っ込みがつかなかったのかも知れません。戦争とは必ずしも理と利の激突の果てに起こるものではなく、寧ろ、意地と面子の暴走が原因足り得る。そんなメッセージを託された氏政伸も立派にMVP。


今週のMVP⑩ 矢沢頼綱

矢沢頼綱「これまで、この沼田城を守るために死んでいった者たちの名前を思い出していた。昨日までの時点で九万九千八百二十ニ人だ。教えてくれ、あの者たちに何といって詫びればよいのだ!」

沼田を守るために戦死した者の名を全員覚えていた矢沢のGGE。何処ぞのエレガント閣下も吃驚の記憶力です。そりゃあ、三十郎も『父上はまだまだ死なない』と思ってしまいますよ。『一見元気に見えない人間が一番長生きする』という三十郎の台詞に、

おこう「おっ、せやな!」

と思った視聴者も多かった筈。勿論、単なるギャグ要員ではなく、己の領土を守るために意固地を張るのは当時の価値観では間違っていないことを体現しているのでしょう。要するに矢沢のGGEは氏政伸と合わせ鏡の存在なのだと思います。大抵の歴史劇では氏政は時流の読めない因循派という解釈で描かれていますが、決してそういうワケではないことを主人公の味方サイドの人間を通じて描くのが三谷さんの嫌らしさ。ついでに『絶対に城から離れない』と駄々を捏ねるGGEに、

真田信幸「見た目よりも頑丈のようじゃ! 多少、乱暴に扱っても死にはせん!」

と意外な台詞を吐かせた点でも矢沢のGGEはMVP。お兄ちゃんの闇は深い。


今週のMVP⑪ 本多忠勝&真田信幸

本多忠勝「何を躊躇っておる! 今すぐ兵を名胡桃に進めるのじゃ! たまたま、当地にとどまっておったのも何かの縁……この本多平八郎忠勝、加勢仕る!」

夜中にリアルでウィスキー噴いた。

くっそう、そうきたか。三日と空けずに上田に来ていたのは今回のフリか。これは想像できなかったぜ。こんなギャグシーン卑怯やわ。絶対笑うわ。ついでに『百の兵を御貸し頂ければ』というのもクソワロタ。アナタならリアル中の人でも単身で名胡桃落とせそうじゃん。そのうえ、今度はお兄ちゃんが、

真田信幸「何故、此処におられるのです? 此処は真田の軍議の場でござる! 貴方様は徳川の御家来……速やかにお戻り願いたい!」

キャー、お兄ちゃんカッコいい! 『あの』本多忠勝を一喝したことで家臣たちの忠誠度も大幅UPです。代わりに寿命が五十年は縮んだと思いますが。


今週のMVP⑫ 佐助

真田信幸「京へは何日で行ける?」
佐助「五日あれば」
真田信幸「四日で頼む」
出浦昌相「ここまで何日で来た?」
佐助「四日で」
出浦昌相「三日で戻れ」
真田昌幸「いや、二日だ」


(時間的&距離的に)MVPは佐助。


今週のMVP⑬ 豊臣秀吉

豊臣秀吉「散々、わしは救いの手を差し伸べてきた。それを氏政は拒んだのだ。あとは戦しかない」

MVPの〆は秀吉。いやね、この秀吉の台詞にも充分共感できるのですよ。本心では後継者のために天下を統一しておきたいと考えていながらも、紛争となる双方の言い分を聞き、妥協点を見出して、それを実行に移して、相手が軽挙妄動に出ても軽々しく兵を動かさず、ギリギリのギリギリまで粘ったうえでの小田原攻めという描写になっていました。大抵の大河ドラマで小田原攻めは(題材上、必要性はないケースもあるとはいえ)何となく始まって何となく終わるのが当然で、そう描いても文句は出ないのに、安易な方途に奔ることなく、登場人物全員に見せ場と言い分を与えた脚本に脱帽。上洛を拒んだ氏政伸をMVPに叙した以上、上洛を求めた秀吉にMVPを与えないワケにはいきません。先々回だかに『勢いのあるチームは日替わりMVPが出る』と書きましたが、まさに今回は全員野球で勝ち取った神回でした。


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