「松本幸四郎『真田丸』で再び呂宋助左衛門に!38年ぶり異例の同じ役」
『黄金の日日』世代には堪らないゲストキャラクター投入が決まった『真田丸』。私は直撃世代ではありませんが、この作品は『太平記』『独眼竜政宗』に次ぐ私的大河ドラマベスト3にノミネートされているので、喜ばしいかぎり。そういえば、三谷さんも『黄金の日日』大好きでしたね。『黄金の日日』は細かい史実よりも壮大なデッチあげが物語を面白くしている作品の典型で、三谷さんが好きというのも納得。助左の登場が今から楽しみです。
尤も、これも以前から述べているように、キャスティングよりもストーリー重視で作品を鑑賞したいという思いは変わりません。もっと極端な物言いをすると俳優が作品の外で何を仕出かそうが知ったこっちゃない。古くは『独眼竜政宗』の豊臣秀吉、直近では『武田信玄』の武田晴信(若)&武田勝頼の中の人が色々とやらかしちゃいましたけれども、それと作品は別に評価するべきでしょう。こんなことをいうのも、再放送中の『武田信玄』で四郎勝頼の場面に、妙な規制とかモザイクとか編集とか入ったりしないかという不安があるからです。もしかすると、平岳大さんによる勝頼の新規撮り下ろしシーンが挿入されるかも……いや、それはそれで見たい。
さて、今回の『真田丸』は恋愛パートが多めなので、実の両親から『おまえは人の心が判らない人間だ』といわれた私に男女の機微が判るワケがないから、自然と感想は短くなる……と思いきや、意外と恋愛シーンは少なかった。軽いサブタイ詐欺(いい意味で)。ポイントは5つ。
1.『蔵』
茶々「『その蔵には決して入ってはならぬ』と殿下にいわれておるのです。でも、そんなことをいわれたら、余計に覗いてみたくなるでしょ?」
おまえは江頭2:50か。
恐らく、大坂落城の際に茶々が最期を迎える場所と思われる蔵。先回、秀吉に対する執り成しへの見返りとして、信繁は茶々の蔵探索に同道させられます。徳川の寄騎に組み入れられた結果を考えると、茶々に執り成しを頼んだことがマイナスに働いたワケですから、律儀に契約を履行せずともいいように思えますが、信繁はキチンと約束を守ります。尤も、約束を反故にしたら、茶々が『源二郎がねー、殿下のいない時に私に会いにきたのー』と無邪気な笑みを浮かべながら、秀吉の耳に蜜の如き毒を垂らし込む危険があるので、ここは素直にいうことを聞くのがベターかも知れません。
前半パートは茶々の独壇場。正味5分に満たないシーンにも拘わらず、本作における茶々の為人が伝わってきた『蔵の中』でした。大坂パートの登場人物らしく、茶々もいい塩梅にブッ壊れていますが、完全にイッちゃっているワケでもなさそう。ブッ壊れた人間を演じることで辛うじて精神の均衡を保っている感じですね。何れにせよ、それに巻き込まれる人間はいい迷惑です。権佐とか。
殆ど『生き地獄ツアー』ともいうべき蔵探索から解放された信繁の前に現れたのがきりちゃん。最近のきりちゃんは信繁が茶々にヒドイ目に遭わされた直後に登場するパターンが多いです。危機が去り、ホッとした瞬間に現れるきりちゃんに覚える安堵感。それが恋愛感情に発展するという逆吊り橋効果が両名を結びつける可能性アリ。
2.奥様は市
豊臣秀吉「茶々に惚れてしもうた……」
寧々「……誰の膝の上か、判っていますか?」
豊臣秀吉「あれの母親にも惚れていた……母子二代じゃ」
茶々の口説き方を寧々に訊く秀吉。本作の寧々の前世は茶々の母親なので、呆れてモノもいえません、二重の意味で。一応、旦那には『真正面からぶつかるしかない』といいますが、要するに玉砕してしまえという意図でしょう。
一方、大坂城に信繁と茶々の『不適切な関係』の噂が広まります。それを聞きつけたラスボスに『茶々を蔵に連れ込んだのか?』と問われますが、蔵に連れ込んだのは茶々のほうなので、信繁は根も葉もない噂とシラをきります。嘘はつかないけれども、本当のことはいわない辺り、流石はスズムシの息子です。この場面、且元側の証人として、妬心に駆られたきりちゃんが出てきそうな予感がしましたが、流石に信繁に『見なかったことにしてくれ』と頼まれたことをピーチクパーチクと囀る真似はしませんでした。それどころか、秀次に執り成しを頼んでくれるという有能ぶり。きりちゃん、ぐう聖女。そして、実際には役には立たなかったけれども、最終的に解決してくれた治部に渡りをつけた秀次は今週も技能賞確定。これで三週連続の技能賞。尤も、治部に恋愛絡みの問題の解決を依頼したのは、結果オーライというだけで相当ピント外れの判断だと思う。
3.今週の徳川パート
真田信尹「徳川の下につくのは、真田にとって決して悪いことではない」
越後の方角から『そうだそうだ』という兼続の合いの手が聞こえてきそうな信尹叔父さんの台詞。次の場面ではスズムシと共に駿府城の攻略法を練っていましたが、蒼々と月代を剃った風貌から察するに、徳川に潜り込んだ真田のスパイというよりも、真田と徳川双方のパイプ役として己を規定するようになったと思われます。尤も、家康は信尹には信用が措けないのか、平八郎の娘の稲姫をお兄ちゃんの嫁にすることに。あまりに唐突な話に、
真田昌幸「でも、陪臣の娘でしょう?」
とか空気を読まないことを言い出しそうでしたが、徳川から人質が取れるとか、稲姫を通じて徳川に逆情報を流せるとか、相変わらずのロクでもないことを考えたスズムシは『使えるな!』と大喜び。
真田昌幸「源三郎、おこうは里に返そう。ここは泣いてくれ」
真田信幸「冗談じゃないよ! ぼかぁねぇ、今回にかぎらず、毎度毎度アンタに泣かされているんだよ! そんなに徳川の人質が欲しかったら、アンタが貰いなさいよ! 母上を京に追い返して、アンタが嫁を貰いなさいよ! 馬鹿馬鹿しい、全く!」
といいたいに違いないお兄ちゃんですが、ヘタをするとスズムシは『それもいいな!』とか考えかねないので、迂闊なことは口にできません。
それにしても、政略結婚という悲劇の象徴として描かれるシチュエーションがコメディになるとは……迎える側もですが、送り出す側も悲しいのに笑える場面の連続です。特に平八郎。泣くほど嫌か。厠のシーンでも殺気が漏れ過ぎて、お兄ちゃんの用足しが途中で止まっちゃったじゃないですか。まぁ、現実でもトイレで藤岡さんに並ばれたら、止まるか、余計にチビるかのどちらかだと思います。ついでに平八郎に『好きな殿御でもおるのか?』と問われた稲姫のリアクションが意味深でタイムリー。羨まけしからん。
4.ファム・ファタール
茶々「蔵ですって! また一緒に見に行きましょう!」
真田信繁「」
豊臣秀吉「」
石田三成「」
大蔵卿局「」
遂に露見した信繁と茶々の密会(冤罪)。恐らく、信繁は女を本気で殴りたいと思ったのは生まれて初めてだとか考えていたでしょう。『とばっちりは御免』とばかりに真っ先に退場する治部。先の場面では『殿下の周辺で不可解な死が連続するのは好ましくない(`・ω・´)』とか宣っていましたが、自分が巻き込まれかねないシチュエーションは例外のようです。治部も人の子だからね、仕方ないね。他人の色恋の巻き添えになって死ぬなんて、この世で二番目に嫌な死に方だからね。勿論、同じ価値観の持ち主である信繁も人払いを命じられた大蔵卿局と共にドサマギで退出しようとしますが、
豊臣秀吉「何でおまえも行こうとしているんだ?」
そらそうよ。当事者が出ていってどうする。この辺の件は信繁が死なないと判りきっているのに異様な緊迫感がありました。第一次上田合戦よりもハラハラドキドキした。それはそれで大河ドラマとして如何なのかという疑問もありますが、そのくせ、呼びとめたにも拘わらず、秀吉は信繁の存在をガン無視しての茶々口説き開始。この場面、ヘタにいい言葉や終盤の伏線になりそうな台詞のオンパレードな分、立ち合いを強要させられた信繁の存在が可笑しかった。社長と愛人の特殊なプレイを見せつけられた社員の心境とでもいいますか。笑いたいのに絶対に笑ってはいけないシチュエーション。『何で俺は此処にいるんだろう?』という感情を、笑顔がディフォの堺さんには珍しい真顔の演技が物語っていました。
斯くして秀吉の側室になると決めた茶々ですが、それでも、気になった男に粉をかけておくことは忘れない模様。『私と貴方は同じ日に死ぬ予感がする』と思わせぶりな言葉を口にします。これ、大坂の陣の伏線のようです(実際にそうなるでしょう)が、本作の茶々の為人を考えると出会った男には全員に同じことをいっていると思います。権佐は勿論のこと、信繁と茶々の『関係』に憤る様子からすると且元や清正も同様でしょう。男を破滅させる女、ファム・ファタールの呪縛。そして、トドメの呪いのアイテムとばかりに山吹の押し花を渡します。これで殆どの男はイチコロです。実際、信繁もほぼイキかけていました。
そんな主人公を救ったのは我らがきりちゃんですよ。
きり「」ムシャムシャゴックン
真田信繁「出せ! 出せぇー!」
まさかのコマンド『食べる』。
全く、これ以上の呪いの解除方法はありません。棄てれば必死に探される。燃やせば灰を大事にされる。思い出の品の処分は意外とハードルが高いのです。しかし、食って排出してしまえば話は別。これによって、信繁は茶々の呪縛から解放されたのです。主人公に対する貢献度でいえば、今回のMVPはきりちゃんの他にはあり得ません!
5.今週のMVP 大蔵卿局
尚、実際の受賞者はきりちゃんではない模様。いや、凄く悩んだよ。上記のように主人公への貢献度ではきりちゃんがナンバーワンでした……が、ここは敢えて茶々の元を去る信繁に頭を下げた大蔵卿局を推したい。きりちゃんの場面には信繁を茶々の呪縛から解き放つという大きな意味があった。今回、なくてはならないシーンでした。逆に大蔵卿局が信繁に頭を下げるシーンは必ずしも必要ではない。茶々のことしか考えられない、高慢で視野の狭い乳母という通俗的なキャラクターとして大蔵卿局を描くのであれば、全く用のないシーンです。実際、そう描いたところで然したる文句も出ないでしょう。しかし、本作ではそうではなかった。年齢や身分や立場に拘わらず、迷惑をかけた相手には主君のメンツを潰さない範囲で頭を下げる大蔵卿局にキャラクターへの愛情、そして、
人間としての美しさ
を感じました。本作のキャラクター描写に関しては賛否両論ありますけれども、こうした美しい人物像が描けないワケではないのだと思います。序盤の武田勝頼や滝川一益や春日信達のように、視聴者に美を感じさせるキャラクターは何人もいました。それこそ、春日信達の最期はガッツ星人に磔にされたウルトラセブンに通ずるエロスすら漂わせる美しさがあった。そのうえで本作は主人公周辺の人物は敢えて美しく描かないという選択をしているのでしょう。何故ならば、これも拙ブログで何度も述べているように美しいとは悲しいことであるから。そして、戦国の世の生き残りを描こうとする本作には滅びの美学は似合わないから、判りやすい形での美は描かれない。でも、それらは随所に仕込まれている。
描けないんじゃない。敢えて描かないんだ。
そういう製作者サイドのメッセージを感じさせた大蔵卿局が今回のMVP。
こうして、先回同様に今回もMVPを逃したきりちゃん。いや、ワザと避けているワケじゃあないよ? 別にアンチきりちゃんじゃあないし。きりちゃんにはアンチも含めた万人が認めざるを得ないMVP回が用意されていると思うのですよ。それを信じて、この先の視聴を楽しみましょう。
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『真田丸』第19回『恋路』感想(ネタバレ有)
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