今週から『大坂編』に突入した『真田丸』。確かに『大坂編』としかいいようのない時期ではありますが、肝心の大坂の陣が描かれる第4クールが如何に呼称されるのか気掛かりでもあります。『真田丸編』というのもアリでしょうか。でも、大坂夏の陣だと真田丸の出番ないからなぁ。
さて、新シーズンに突入した今回。随所に面白さを垣間見せつつも、流れにスキが多く、作劇には落ち着きがなく、今後の展開に対する期待よりも不安が上回った内容でした。まぁ、この辺は本作の第一話を見た時も同じ感想を抱いた覚えがあるので、第1クールと同様、いい意味で視聴者を裏切って欲しい。ポイントは8つ。不満も多かったけれども、見所も多かったな。
1.椿事
物語は春日山城からスタート。何よりも信繁が越後に戻ってきているのに驚きました。あのまま上田に留め置かれて、昌幸の命令で直接に大阪へ人質に出されるかと思ったよ。てっきり、先々回の『必ず戻ってこい』という景勝の台詞はフラグで、
直江兼続「人質横取りされたの私だ! 秀吉○ね!」
になると予想していたのに意外。本作で真田一族が口約束を守った稀有な例です。景勝の感化力半端ねぇ。その景勝は今回も人のいいダメ親父っぷり全開。お梅ちゃんを喪ったばかりの信繁に、
上杉景勝「どうだ、もう暫く上田におらぬか? お主の好きな時に、また此処に戻ってこい」
などと横にいる兼続が『また甘っちょろいことを』とボヤきそうなことを宣いますが、兼続が口を挟まないのは、先回海津城に差し向けた援軍の件を景勝にチクられるのを怖れているからなのかも知れません。や兼可。
お梅ちゃんの死から立ち直れずにいる信繁。三十郎は『真田のため、上杉のため、今何ができるかを考えようではありませんか!』と励ましますが、兼続が聞いたら上杉と関わりを持たないでくれるのが一番ためになるというでしょう。人の世は侭ならないね。
2.まだあわてるような事態じゃない
第一次上田合戦で勝利したものの、徳川の圧力が続いているのは相変わらず。実際、先回の戦術は同じ相手に何度も通用する手段ではありません(ただし、秀忠を除く)。消耗戦になったら、国力兵力共に絶対数が少ない真田が圧倒的不利(ただし、秀忠を除く)。頼みの上杉は援軍にGGEとガキしかよこさず、越後に戻った信繁も戦争に使えない……なのに、どうだ、真田の連中の目つきは。
真田昌幸「それでも、信尹なら……信尹ならきっと何とかしてくれる」
そういう目をしています。殆ど陵南の仙道扱いされている信尹叔父さん。確かに戦争外交謀略内政人事とあらゆる状況で活躍できる信尹叔父さんは、フォワードもガードも完璧にこなすオールラウンダー仙道に近いのかも。
その期待に応えるように、信尹叔父さんの細工で石川数正が豊臣方に出奔。この世のありとあらゆる悪事には真田が一枚噛んでいるんじゃないかと思えてきました。尤も、今回の謀略は春日信達謀殺事件と異なり、カラクリの過程がバッサリと省かれていた分、説得力少な目。信尹叔父さんの幽閉先が数正の屋敷で接触の機会が多かったとか、真田と豊臣の間に何らかのパイプがあることなど、細かい設定を盛り込んで欲しかった。
それと、信尹が死を覚悟している描写が明確に欲しかったかなぁ。流石に今回は『全部兄貴の所為』という釈明が成立しない、情状酌量の余地のない案件なので、問答無用で殺されても文句はいえない。我が生命はなきものと考えた信尹叔父さんの最後っ屁の計略であったことを強調したほうがリアリティあるし、それを承知で信尹叔父さんを召し抱えた家康の器量の大きさも光るってモンです。
3.予言
北条氏政「わしが対面するのはココから上だけじゃ」
豊臣秀吉「せやな、おまえの首から下には用はない」
こうですね、判ります。
4.日頃の腹いせ
真田信幸「上洛? 気になりますな。大名でもない父上に何故、秀吉は上洛を? 上杉や北条ならまだしも、大名でもない父上に何故、秀吉は……大名でもない父上n」
真田昌幸「うるさいわ! 国衆じゃダメなのかよ? 国衆でヒゲ生えていたらダメなのかよ!」
真田信幸「ヒゲは関係ないんだよ!」
大事なことなので三回繰り返したお兄ちゃん。普段から何度も騙されていることへの意趣返し……ではなく、純粋に疑問に思ったことを口にしたのでしょう。お兄ちゃんのことなので他意はありません、多分、恐らく。ここ、後世の視点だとチャッチャと秀吉につけばいいじゃんと思ってしまいますが、作中序盤で信長に全てを賭けた所為でドえらい目に遭っているので、昌幸が慎重になるのも判ります。導き出された今回の結論は、
真田昌幸「途方にくれてしまいますねぇ。慌ててはいけませんよ、皆さん、こういう場合は。ただ、まぁ、打つ手はないですね、基本的に」
と判断の保留。しかし、信長の時は即決の閃きで痛い目に遭ったとはいえ、室賀さんの離反は問題の先送りが原因であったのをスズムシは忘れてしまっているのかも知れません。
そして、信繁が上杉のツテで秀吉に接近できると知ったスズムシは上機嫌。逆にお兄ちゃんは『自分が頼りにされていない』と落ち込んでしまいます。こちらは『大名でもない』と息子に無意識にdisらわれたスズムシの腹いせでしょう。間違いない。お兄ちゃんは薫さんをおこうさんと勘違いして、愚痴を垂れる始末。これは恥ずかしい。でも、薫さんとおこうさんという、登場当初は似ても似つかない二人を間違えるとは……やはり、おこうさんは徐々に健康になってきている? おこうさんが最終回でお兄ちゃんの臨終を看取るラストがあるかも。
5.Be ambitious
直江兼続「御屋形様はお主を息子のように思っている。傍にいてやってくれぬか?」
いや、だから、今からでも子供作らせろよ。
まずは側室を男装させて、閨に送り込めよ。
のちのちの場面では、
上杉景勝「源二郎、お主はわしのようにはなるな。この世に義があることを己自身の生き方で示してみせよ。わしに果たせなかったこと、お主が成し遂げるのだ」
と信繁の生き様を決めるであろう言葉を口にした景勝ですが、何度も繰り返すように景勝は三十になったばかりですからね。まだまだ、この先判りませんよ。いや、後世の人間には判っているんですけれども、当時の視点を大事にすることをコンセプトとして掲げている作品である以上、人物の逆算描写は控え目にお願いしたい。しかし、兼続は信繁のコトをあくまでも景勝の『息子』として定義して、決して『恋人』とは認めないんですね。や兼ホ。はっきりわかんだね。
6.土方左大臣三成
きり「なにあれ?」
真田信繁「人を不快にさせる『何か』を持っている」
直江兼続「堅苦しいところがあるが、実に頭が切れる。ああ見えて熱い男よ」
きり「見えませんけどね」
真田信繁・直江兼続・視聴者全員「「「おまえがいうな」」」
人をイラッにさせる点では人後に落ちないきりちゃんと長年つきあっている信繁をして、斯く言わしめた本作の三成。人をイラッとさせる人間には二種類ありまして、大抵は一言多いか一言足りないかのどちらか(現在進行形体験者・談)。きりちゃんは前者、本作の三成は後者でしょう。自分の頭が切れる分、他人への説明を惜しんで感情を害させるパターン。しかし、これはもう、あれですね、完全に山本耕史さんのアテ書きですね。三谷さんが山本さんで石田三成を描くとこうなるという、想像通りのキャラクター。これは好き嫌い分かれると思います。『組!』好きの方は概ね好意的でしょうけれども、三谷さんの作風が適わない人には難しいかなぁ。それこそ、清正との絡みは『真田丸』というよりも『組!』での土方と左之助の会話のようでした。試衛館時代の気風を引き摺る左之助と、池田屋での成功を足掛かりに組織の改編を推し進める土方の対立を見ているよう。環境の変化が相容れない関係へと変化していくパターンになるのでしょうか。単純な武断派と文治派のカテゴリ対立にはしないという意欲は感じるのですが、ここはギャンブルですなぁ。
7.上を向いて歩こう
真田信繁「もう、しょうがないですよ。裏切ってしまったんですから。先が読めないのは皆、同じですよ。だから、必死に生きているんです。人を騙したり、裏切ることもあるでしょう。でも、それは善とか悪で測れるものではないと私は思うのです。石川様、取り敢えず、先に進みましょう」
恐らくは今回の肝である、信繁がお梅ちゃんを吹っ切るイベント。そのキーパーソンの一人が石川数正というのが意外過ぎた。台詞だけ聞いていると騙した側の人間の言い分としては最悪極まりないですが、徳川が攻めてこなければ、お梅ちゃんが死ぬこともなかったと思うと、意外と信繁の器量の大きさが伝わらなくもありません。結果が出てしまったことを悔いても仕方がないと数正を慰めることで、信繁もお梅ちゃんロスにフンギリをつけたのでしょう。
そして、もう一人のキーパーソンが茶々。新しい恋愛が見つかってこそ、過去の女性との関係にも一区切りつけられるものです。その証左がラスト付近、茶々と出会ったあとで大阪城の巨大さに驚く信繁のシーン。あれ、普通に考えると城に入る前に気づきそうですが、あの瞬間まで信繁の視線は常に下を向いていたということを表しているのでしょう。理論的には数正との会話で心の整理をつけていた信繁ですが、心情的には茶々との出会いが彼に上を見る契機を与えたのだと思います。つまり、はるばる上田から出てきて、越後を経由して京都まで同道したきりちゃんでは役者不足であったということに……流石にちょっと可哀想。
そして、小日向さん演じる秀吉登場で〆。このヒキは気になる。小日向さんも堺さんも笑顔の印象が強い割に目は決して笑っていないという共通点を持つ役者さん同士。来週からの絡みが気になります。
8.今週のMVP
きり「これ、人が住む部屋ではありませんよn」
石田三成「」ピシャッ
初登場&初対面にも拘わらず、考え得る最高のきりちゃん対策を体現した治部が今週のMVP。先述のように一言多くてイラッとするタイプのきりちゃんを言葉でやりこめようとするから、信繁は失敗するんですよ。問答無用で何処かに押し込めてしまうに如くはありません。兼続の『キレる男』という評価は伊達じゃありません……が、副長のイメージが強い所為か、女性の扱い全般に長けているだけなのかもと想像してしまいます。
次点が信尹叔父さん。牢内で読んでいたのは『論語』だぜ。ギャップ萌え過ぎるやろ。
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『真田丸』第14回『大坂』感想(ネタバレ有)
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