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『真田丸』第8回『調略』感想(ネタバレ有)

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只今、絶賛放送中の『ダウントン・アビー』第4期。ローズの小悪魔的な魅力にメロメロになる一方、アンナの受難やベイツの暗黒堕ちフラグといった物騒なエピソードに度肝を抜かされております。特に驚いたのは【ネタバレ厳禁です】の離脱でしたが、ネットで調べてみると、あまりにもヒールオーラ満載のキャラクターに視聴者のクレームが殺到して、中の人が降板してしまったという記事を見つけました。ホンマかいな? 個人的にはトーマスのほうが遥かにタチが悪いと思いますが、こちらは作中屈指のネタキャラとして支持されているんだよなぁ。まぁ、トーマスの場合は悪行を仕出かす度に相応の報いを受けているので、視聴者的にはカタルシスがあるのかも。それは兎も角、それほどまでに視聴者の憎悪を集めるキャラクターがいるということは、その作品が多くの視聴者に愛されている&作品の世界観が優れている証明かも知れません。
その意味で先週放送分の『真田丸』に殺到したきりちゃんへの轟轟たる非難の声も、本作に対する評価の高さの裏返しといえるのではないでしょうか。きりの所為で作品の世界観が損なわれるということは、逆にいうと彼女さえいなければ、作品自体は好きということですからね。『風林火山』での平蔵と同じ理論。よく考えると、ここ数年の大河ドラマでは平蔵やきりのようなキャラはいなかったような。『八重の桜』は登場人物殆ど全員が視聴者に好印象を残しました(逆にモブの扱いは酷かった)。『平清盛』は濃ぃいサブキャラが一部視聴者の熱狂的な支持を集めました……というか、あの作品で平蔵ねという扱いを受けていたのは主人公の平清盛でした。アイツの所為で重盛の寿命が五十年は縮みましたからね。主人公が作中秩序の紊乱者という点でも『平清盛』は異色作。『天地人』? 『GO』? 『軍師官兵衛』? 『花燃ゆ』? 殆どの登場人物が視聴者にねと思われる作品は論外です。この四作品で魅力に満ち溢れたメインキャラといったら安国寺恵瓊しか思い浮かびませんからね。ベールさんマジ名優。
ともあれ、きりちゃんへのブーイングは作品そのものに対する期待の裏返しではないかと思いながら視聴した今回の『真田丸』は、まさにその期待に応える内容でした。コメディとか三谷作品とかいう括りではない、大河らしい雰囲気を持った面白さ。見応え充分の四十五分となった今回のポイントは4つ。


1.今週のきりちゃん

きり「本当に大変でした。正直、このm【略】aがやきで判ったわ。ゴメン、長居しちゃった」テヘペロ
「」パカーンパカーン


おぉう、これはウザイ。

全文書き起こしていたら、こちらまでうっとおしい気持ちにさせられるので、台詞は半分以上、省略させて頂きました。これ、素でも充分ウザいのですが、きりちゃんのタチの悪さは梅が源二郎を好いていることを知っていて喋っていることですね。デリカシーゼロ。手にした鉈できりちゃんの頭を叩き割っても、誰も梅を責めないと思いますが、今回は陰惨な謀略劇がメインなのできりちゃんのウザさに逆に救われた気分でした。何気に今回もMVP。異論は認めます。それっくらい、今回の昌幸の謀略はエグかった。敵も味方も振り回されっ放し。

真田信幸「何? 父上は上杉を見限り、北条についた? あのヒゲ○していいよね?

という安定のお兄ちゃんパートや、北条と上杉のどちらが敵か判らなくなった梅ちゃんの兄貴もそうでしたが、一番の被害者は主人公の信繁。信尹がうまく逃がしてくれたからいいようなものの、昌幸による見切り発車の謀略の所為で危うく上杉に誅殺されるところでした。今回は信繁もお兄ちゃんの気持ちが理解できたのではないでしょうか。


2.今週のキャットフードマン

北条氏政「先を急ぐな……食べる分だけ汁をかける。少しずつ、少しずつ……わしの食べ方じゃ。北条の国盗り、ゆっくり味わおうではないか」ズズズズズ

父・氏康から暗君認定された氏政伸の汁かけ飯エピソードですが、こういう解釈に持っていきましたか。最初から適量を注ぎ込むのもいいが、汁そのものの味を損なわないためには、その都度その都度で必要量を継ぎ足すのも一興。氏政伸の戦略とはドバッと適量を注ぐのではなく、無理をせずにジワジワと欲する領土を侵食していく=何度も汁を継ぎ足すのが肝なのでしょう。こういう人口に膾炙した逸話を裏側から描く手法、ほんとすこ。北条の大軍が押し寄せるとの報告を聞いて、漏らさんばかりにビビりまくる家康のリアクションといい、今年の北条は関東の覇者と呼ぶに相応しい強大な描かれ方です。


3.今週のヒゲ親父

真田昌幸「上杉の家臣、春日信達をこちらに引き入れました(引き入れたとはいっていない

尤も、そんな氏政伸さえも手玉に取ったのが信濃のヒゲ魔神。結果的に成功したとはいえ、完全な見切り発車の謀略でしたが、リスクを犯した分だけ効果は絶大でした。実際は補給線が伸びるのを嫌った&家康の蠢動を警戒した北条と、新発田重家の叛乱鎮圧に専念したい上杉の思惑が一致したのであって、昌幸の謀略で両者が退いたワケではないと思いますが、北条の南進と上杉の北帰、春日信達の誅殺という同時期の事件が巧みにツギハギして、昌幸の謀略劇に仕立てあげていました。上杉と北条の国境線に当たる海津城の春日信達を謀殺する~海津城攻めの決め手を失った北条は兵を退き、新発田重家の叛乱という火種を抱えた上杉も国元へ帰る~甲斐で様子見中の徳川は北条の圧力が強まったために身動きが取れなくなる~上杉、北条、徳川といった大名を叩き出した信濃に真田主導の国人衆連合を形成する……という解釈でいいのかな。些か込み入り過ぎな気もしますが、最近の戦国大河では史実のコピペしかやらない作品ばかりでしたので、やり過ぎのほうが視聴者にとっても刺激があります。視聴者が見たいのは誰もが知っている史実のダイジェストではなく、登場人物(ひいては製作者)が自分たちの頭を使って歴史という物語を紡ぐ姿なのだと改めて認識した次第。


4.春日信達殺人事件

真田信尹「源二郎、お主、わしのようになりたいと何時か申しておったな。これだけはいっておく。わしのようにはなるな」

今回のメインとなった春日信達調略の顛末。信達謀殺の偽装工作を命じられた信繁の表情たるや、ドンびきという言葉しか出てきません。これ、本当に主人公陣営のやることなのか? 実に素晴らしい。もっとやれ。
でも、単純に汚い謀略劇という印象で終わらないのが本作の肝でしょうね。一つには身の危険を感じて逃走中の信繁が信達の亡骸に手を合わせるシーンがあったことですが、メインの理由は信尹や信繁による信達への説得シーンのうまさゆえでしょう。腹の探り合いから始まり、条理に拠る言葉で相手の心を揺さぶり、一度は信繁の若さゆえの過ちで頑なになった信達の心を最後は信繁の真摯さが解き解すという流れでした。人を説得するとはこういうことなんでしょう。それこそ、ここ最近の大河ドラマの説得シーンは何かというと、

『腹を割って話そう』

という連中ばかりじゃなかったですか。誠心誠意話せば、何でも解決するみたいな思考ルーチンの持ち主か、新しい世のため&天下のため&泰平のためとかいう現実乖離した譫言しか宣わない妄想家しかいなかったからなぁ。誠心誠意とか天下泰平のためとかいう言葉は如何なる時代、如何なるの人物が題材の作品でも使える、書き手にとっては便利な言葉ですが、その分、安易に用いられ過ぎたきらいがあります。相手や状況に応じて用いる言葉を変える。これはフィクションでも現実でも変わらない、説得の大前提ではないでしょうか。
そして、それほどまでの手段を用いてまで降らせた信達をアッサリ始末するからこそ、戦国の世の恐ろしさが伝わりました。氏政伸から届いた本領安堵の密書を見て、

「ねんがんの かいづじょうを てにいれたぞ」

と思ったら、次の瞬間にグサリ。汚いな流石真田汚い。私は信尹が密書を景勝に届けて、上杉勢の手で信達を始末させて、真田が後釜として北信の影響力を行使するのが狙いと思ったのですが……あの流れだと信州の支配権を確立するための謀略の一環としての信達謀殺ではなく、信達謀殺そのものが目的のように見えちゃうんですよね。ちょっと減点。
尤も、殺された信達や騙された景勝の描写で減点も相殺でした。特に景勝。結果のみで推し量ると、景勝は可惜有能な家臣を殺されたうえに真犯人を取り逃したアホ主君の役回りなのですが、絶対にそうは見えなかった。特に

上杉景勝「わしは春日信達を買っておった。これは武田の出であることを気にしておったが、わしはそんなことで家臣を蔑ろにする男ではない。上杉を支えてくれる男だと思っておった。つくづく、人の心は判らぬものだな」

の台詞は、景勝が絶対に暗愚な主君ではなく、人間同士の信義を重んじる為人であることが見て取れました。敢えて難癖をつけるとすると景勝にしては喋り過ぎということでしょうが、そこは突っ込むほうが野暮というものでしょう。

久しぶりに戦国大河ドラマを見たという感想を抱けた今週の『真田丸』。このペースを維持して……というのは流石にハードル高いですが、今回の内容を3週に1回くらいの割合でいってくれたら、充分に名作大河ドラマと呼ばれるに相応しい作品になるんじゃないでしょうか。

腹を割って話した/イースト・プレス

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