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荒川弘版『アルスラーン戦記』第31章『瞼の奥』感想(ネタバレ有)

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Q.第2期の発表を聞いた時の感想をお聞かせ下さい。

荒川弘「やったー! マンガ版ぜんぜん進んでねェー! すみませーん!」

あ、やっぱり気にしていたんだ。

確かに連載から何年も経過しているにも拘わらず、いまだにラジェンドラが登場していないというのは、なかなかのスロー展開。まぁ、原作も今でこそ、完結に向けて動き出している(よね?)とはいえ、出版そのものが永らく絶望視されていた時期がありましたので、それに比べたら、荒川センセは優等生と評してよいのでしょう。尤も、物語の進捗状況を気にしている割に、今回は前半がヒルメスの完全オリジナルストーリーで、後半はヒルディゴ殺害に至る経緯という構成。アルスラーン一味が全く登場していないうえ、原作文庫版では一〇頁分しか進んでいないのですが……ちなみに上京時にお会いした方に伺った話で『ラジェンドラという名前は現地の創作劇では結婚詐欺師のキャラクターに使われている』というのがありました。聞いた時は腹筋がネジ切れるかと思った。多分、田中センセは知っていて使っている。心底性格悪いですね。尊敬しちゃいます。
今回のポイントは2つ。


1.だからお前はヘタレなのだ

ヒルメス「今更、村娘一人助けたところで詮ないことだ」

まずは前半のオリジナルストーリーから。ルシタニア兵に【アッー!】【ピーッ!】して【バギューン!】されそうになる盲目の少女を助けるヒルメス殿下。イリーナとの絡みを匂わせる展開でしたが、よくよく読むと少女が盲目でなかったら、ヒルメスは助けなかった可能性大。基本的にヒルメスは正統意識が過剰で『僭王を崇める民衆なぞ、殺されて当然』という価値観の持主なので、少女がイリーナと同じ境遇でなかったら、惻隠の情を刺激されなかったでしょう。それでいて、いざ、少女を助ける際にはギスカールの側近を剣で脅すという直截さ。これがギスカールと袂を分かつ直接の原因にはならなかったとはいえ、現時点ではルシタニアの勢力下にある人間にしては、軽率の誹りを免れ得ません。真に目的のために手段を選ばない心算であれば、少女を冷然と見捨てるべきでした。
結局、ヒルメスはアンドラゴラス憎しの一心でパルスを混乱と絶望のズンドコに叩き込んだくせに、目の前に憐れみを覚える存在が出現した時には、己の野望と合致しないことも平気でするという、感情に支配された人間なんですね。まぁ、その点は本人も理解しているからこそ、冒頭に記した台詞が出てくるのでしょう。色々と欠点は抱えているものの、ヒルメスは感情をコントロールする術を知らないだけで、悪い人間ではないのです。勿論、ポアロの名台詞のようにいい人が悪いことをするのが人間世界の哀しい真実ではあるのですが。


2.ファブリズでも無理

従者「ギスカール侯爵の命で『改宗希望者』を連れてまいりました」
ヒルディゴ「よいぞ、入れ」


ワクテカしながら『改宗希望者』を臥所に通すヒルディゴさん。シチュエーションといい、ネックレスのデザインといい、ワイシャツのデザインといい、聖堂騎士団というよりも中南米辺りの麻にしか見えないのですが……口髭を弄ぶ手にキューバ産の葉巻が摘ままれていても違和感ありません。しかし、ギスカールは『改宗希望者』といっただけで、一言も女とはいっていませんでしたが、普通に男が来たらどうするつもりであったのかが気になります。いや、聖ヨハネ騎士団の歴史を考えると男色もアリなのか。七生ちゃんの作品、どう読んでもBLものなんですよね。
後編の事実上の主人公であったヒルディゴさん。相変わらず、ルシタニアパートはムサ苦しいおっさん中心に構成されています。盲目の少女や『改宗希望者』の踊り子の二人では、作品から漂う加齢臭を抑えきれません。アルフリードが加入したアルスラーン一味の再登場が急がれますね。ともあれ、今回のヒルディゴさん推しは只事ではありませんでした。原作未読の方が『コイツは以降のキーパーソンだな!』と思い込んでも不思議じゃなかった。荒川センセは何処に向かっているのか……いや、オッサン推しの作品は嫌いじゃないですけれどもね。
そして、今回も王弟殿下は無駄骨折り男。

ギスカール「ボダンが石なら、ヒルディゴは火に当てたチーズよ。表面は硬いが中身はだらしなく、軟らかい」フフン

という適切極まる人物評に基いたハニートラップを仕掛けた直後に、当のヒルディゴを殺されるという報われなさ。王弟殿下は泣いていい。


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