冠城亘「あッ……綺麗な人。今度、右京さん抜きで一人で来ますんで(ウキウキ
悪いことはいわん。
その女だけはやめておけ。
確かに美人で気立てもよくて料理も上手で、理想的な良妻の雰囲気を漂わせているとはいえ、自他ともに認めるツイてない女ですから、ヘタに関わると冠城の経歴にトンデモないキズをつける事件を招きかねません。捜一コンビが冠城に『杉下と関わると出世できない』と助言していましたが、月本幸子は杉下以上に危険な存在といえるでしょう。何しろ、彼女が二代目を襲名して以降の花の里の常連さんは、
警察庁で冷や飯喰わされる
尊敬する先輩に濡れ衣を着せられる
捜査情報漏洩の疑惑をかけられる
本人がダークナイト堕ち
息子がダークナイト堕ち
婚約者がダークナイト堕ち
と悉くロクでもない目に遭っていますからねぇ。花の里に足を運んでも、決して食事を採らないラムネさんは本能的に月本幸子の危険を察しているのではないでしょうか。そう考えると、何度も花の里で酔い潰れているにも拘わらず、現在の地位をキープしている陣川君は只者ではありません。陣川君の負のオーラと月本幸子の負のオーラが掛け合わされることでプラスに転じているのか、或いは陣川君がこれ以上堕ちようのないレベルにいるのかのどちらかですね。多分、後者。いや、捜査一課の警部補という段階で、陣川君は充分に人生の勝ち組ではあるのですが。ともあれ、芹沢君の『出世できなくなりますよ』という心遣いに、
冠城亘「もう出世してま~す」
と嫌味たっぷりに返答できる立場にいる人間が、積極的に関わるべき女性ではないと忠告しておきましょう。巷では1クール限定登板&殉職という噂が飛び交う冠城ですので、サブタイの『死に神』は真犯人ではなく、月本幸子を指す隠語ではないかと勘繰ってしまった今回でした。
内容的には初回&第2回とはガラリと趣を変えたサスペンスタッチ。登場したてとは思えないレベルの無双っぷりを誇っていた冠城も、今回は見せ場少な目でした。尤も、サスペンスの内容は些か……というか、多分に詰め込み過ぎた所為で結構消化不良。雨宮&中村の両名は共にもっと掘り下げるべき背景があったと思うんですよねぇ。二人とも常識的には考えられない動機で動いているので、そこを描写しないサスペンスを描かれると、結果ありきの作劇に見えてしまいます。まぁ、ミステリは概ね結果から逆算してストーリーを構成するジャンルとはいえ、それがアカラサマに見えると興醒めですね。少なくとも、見ている側は結果を知らないワケですから、解答ありきのストーリーを展開されると視聴者は『置いてけぼり感』が半端ないんですよ。真犯人の婚約者殺しも状況証拠しかなかったからなぁ。
ただし、上記二名の背景描写がシッカリしていれば、奥の深い物語になった可能性も充分に感じられました。特にヘリファルテこと中村隼。婚約者以外は自らの手を汚すことなく、複数の人間を死に追いやっていたというのは非常にソソラレル設定。自分で殺人を犯さない殺人犯というのは面白いじゃん。自殺を唆した相手が死ぬ瞬間を眺めて悦に入る類のアブないシーンがあったら、もっとゾクゾクできたと思います。2時間SPとはいかないまでも、小日向文世さんの怪演が語り草になっている『密やかな連続殺人』のような前・後編として扱ってもいい題材ではなかったでしょうか。その意味でも惜しい内容でした。
今回は冠城が大人し目であった分、地味に杉下の言動が印象に残る内容でした。米沢さんや月本幸子の『冠城さんは新しい相棒ですか』との問いに、
杉下右京「べっ、別に冠城君は新しい相棒でも何でもないんだからねッ! ただの同居人なんだからねッ! 勘違いしないでよねッ!」
とムキになって否定する一方で、事件の足掛かりを掴んだ時に冠城についてくるように声をかけるというチグハグな行動を取っています。凡そ、杉下らしからぬ姿ですね。杉下はカイトの一件で『相棒』という存在に幻滅している、或いは相棒を犯罪者に育ててしまった自分に幻滅している真ッ最中なのかも知れません。そんな時に殆ど理想的とも思える才能を有した相棒候補がシレッと現れたので、杉下としては素直に冠城を受け入れることができずにいる。冠城を相棒にしたいのはヤマヤマだけれども、カイトのように彼の人生を狂わせてしまうのでないかとの思いから、打ち解けたいのに打ち解けられない。こう考えると有能極まる冠城を頑なに相棒と認めない杉下の言動に、一定の筋が通るのではないかと思います。今季の『相棒』は前の相棒の影を忘れられない杉下が、新しい相棒にデレるまでを描いた恋愛ものとして楽しめるのではないかというのが、現段階での結構真面目な考察です。
涼風 コミック 全18巻完結(少年マガジンコミックス) [マーケットプレイス コミックセット]/講談社
¥価格不明
Amazon.co.jp
↧
『相棒14』第3回『死に神』感想(ネタバレ有)
↧