杉下右京「【ネタバレ厳禁です】……彼こそが正真正銘の『ダークナイト』!」
幾ら何でもやっていいコトと悪いコトがあるだろ。
勿論、ダークナイト本人に対しての言葉でもありますが、それ以上にスタッフ全員に問い質したい。本当にこの結末でいいのか。私は全く納得できないオチでした。『花燃ゆ』の今後の展開次第とはいえ、このままだと『相棒』が今年のラジー賞を受賞してしまうでしょう。もう、今回の感想は小ネタ弄りとか抜きでド正面からいきます。以下は衝撃のネタバレ記事なので、スクロールには細心の注意を御心がけ下さい。当然、議題は、
ダークナイト=甲斐享
という真相について。ここまで行間空けたの官房長の死以来だな。
そもそも、サスペンスものとして失格。だって、最初からカイト君が犯人だという雰囲気満載で描かれていたじゃないですか。賤しくもサスペンスものなんですから、冒頭から中盤にかけての視聴者の疑惑の視線を、謎解きで如何に覆すかが大事なのに、あまりにもそのまんまの結末。カイト君がダークナイトというのであれば、逆に妹さんを殺された友人のほうに視聴者の疑惑が向く構成じゃないと何の謎も存在しません。勿論、犯人は人を殴り慣れているという推理でボクシング経験のある友人へのミスディレクションはありましたが、あれではあまりにも弱過ぎた。私なんか、カイト君が怪し過ぎるので、途中から彼のアリバイを偽証した悦子さんがダークナイトじゃないかと明後日の方向への推理をしていましたよ。病気にかかるまでは彼女の犯行で、入院してからはカイト君が引き継いだみたいな? そのくらいのヒネリがないとなぁ。いや、それはそれで納得できないオチではあるんですが。
それでも、途中までは信じていましたよ。カイト君が犯行を自供したあとも、ラスト10分くらいで大どんでん返しを見せてくれるって。それがハードなギャグだって。でも、結局何もなしで終わっちまいやんの。それはダメだろ。杉下の正規パートナーが犯罪に手を染めていたというのは幾ら何でも禁じ手でしょう。それをやりゃあ衝撃度はありますよ。でも、衝撃がありゃあいいってモンじゃないでしょう。ダークナイトの犯行は二年前からなので、シーズン12が始まった頃にはカイト君はパニッシャーを気取って鉄拳を奮っていたことになります。そうなると、私はシーズン11以外のカイト君の活躍が全部汚された気持ちになってしまう。三浦さんを見送った時も、崖っぷちの女を助けようとした時も、毒島さんにお茶を御呼ばれした時も、待ちぼうけた男女を引きあわせて杉下と手を握りあった時も、杉下を助けるためにカイトパパに頭を下げた時も、ダークナイトをやっていたワケじゃないですか。興醒めもいいところ。多分、シーズン12~13が再放送されても、
与力「ああ、コイツはとっくに取り返しのつかない犯罪をしているんだなぁ」
という目で見てしまう……というか、アカラサマに見る気が失せてしまいそう。
何より、杉下に対する静かなる反逆ともいうべきダークナイト化についても、シーズン12~13を通じて、一度も伏線とか布石とか描かれたことがありませんでした。ラストシーンで杉下とカイトの対立した過去回の回想が差し挟まれていましたが、あんなものは杉下にとっては日常茶飯事。慣れて貰わなきゃ困ります。或いは亀山のように杉下の元を去るか、神戸のように杉下の正義の暴走を制止するか、それが杉下の相棒に課せられた使命でしょう。
些か話が逸れましたが、今回のような結末に持っていくには総統の長期間の伏線や布石がないと納得できんということですよ。少なく見積もっても1クールは必要。それを最終回で唐突にやるか? いや、確かに『本当にカイト君がダークナイトか否か?』で視聴者を焦らすのは最終回でなければできないネタではありますが、それにしても前フリがなさ過ぎました。シリーズ構成は何をやっているのでしょうか。何よりも悦子さんは妊娠しとるんやで? 百歩譲って今回のオチがアリだとしたら、せめて、悦子さんの妊娠&入院の件は避けるべきでした。これだとカイト君が警察官としてだけでなく、男性&父親としてもダメ人間になっちゃうじゃないですか。唯一の救いは悦子さんがしっかりと現実を受けとめて、病気や出産と向きあおうとしていること。全く、以前も書いたように本作でマトモなのは角田課長と悦子さんだけですね。いや、マトモじゃないから楽しいのですが、それにしても、今回は悪い意味でマトモじゃない連中が多過ぎた。
ストーリー以外での救いとなると成宮さんの存在感。この人はロクでもないことを考えている時もいい表情をするね。某じっちゃんミステリで演じている連続殺人犯&殺人教唆犯は未見ですが、そっちも似あうと確信しました。その意味では今回の罪状も些か中途半端。どうせ、犯罪者の側になるのであれば、
浅倉禄郎の再来
と謳われるほどのサイコキラーになっていたほうが、次の展開にも繋げられると思うのですよ。ハンニバル・レクターのように、杉下の手に余る事件が起きた時に、獄中のカイト君に助言を求めるとかさ。ある意味で相棒関係も続けられますしね。しかし、暴行傷害&捜査妨害ではなぁ。まぁ、ちょっとカイト君には厳しい話になりましたけれども、これだと一過性のインパクトしか残らないと思うのですよ。正直、カイト君はあんまり思い出したくないキャラクターになってしまいましたし。これでしたら、絶対に避けるべきだと思っていた殉職のほうがマシに思えてきました。
「死んだ女よりも哀れなのは忘れられた女」
というマリー・ローランサンの詩のような扱いにならないといいのですが。
一応、杉下についても触れておくと、彼は本当に人材の墓場であったということでしょう。探偵としては有能(刑事としてではない、念のため)であっても、後進を育成することはできなかった。この辺は『甲斐享というキャラクターを成長させられずにすみませんでした』というスタッフの弁明に思えなくもありません。それこそ、
大河内春樹「納得はできないが……理解はする」
というレベルの心境ですが。正直、今回の結末は『手に負えなくなった飼い犬を捨てる』ような身勝手な飼い主のイイワケにもならない開き直りでしかないように思えました。
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