伊達政宗「俺が何時、偽りを申した?」シレッ
寧ろ、嘘をついていない時のほうが少ないんじゃないスかね、特に中盤以降。
虎哉宗乙「御仏の御導きでござる」シレッ
いや、どう考えてもアナタの差金でしょう。
今回、このどちらかの台詞(或いは両方)にツッコんだ視聴者は多い筈。勿論、悪意のあるツッコミではなくて本当にアンタらは似た者師弟だよという暖かい視線で見守れる台詞でした。こんなにホノボノと見られる前半と、後半の急転直下の暗転ぶりの落差が光る第32話。今回のポイントは1つ。細かい点をあげればキリはないけれども、煎じ詰めれば一点に絞り込めるんじゃないでしょうか。
1.理屈じゃない
アバンタイトルで小次郎の墓が取りあげられた時は『何故、この時期に?』と思いましたが、見事に本編とリンクしていました。今回の主題とは、
この世には理屈で解決できないことがある
という厳然たる事実でしょう。政宗~小次郎~保春院の関係も、秀次~拾~秀吉の関係も基底の部分は一緒。骨肉相食む感情とはそういうもの。それが間違っていると判っていても簡単には軌道修正できない。正しい理屈をもってしても、容易に相手を、時には自分を許せない。伊達一族の一件では虎哉宗乙という本作のジョーカーとも評すべき存在でも、双方の蟠りを完璧に解消できなかった。勿論、虎哉和尚の尽力が無意味ではなかったのは劇中から見て取れますが、畢竟、この問題は時間が解決するのを待つしかないんですね。
それでも、主人公は己の心に一区切りつけることができましたが、問題は後半の豊臣家の内紛。己の寿命が心許ない秀吉は時間が解決してくれるとは考えられない。憎悪と偏愛のままに暴走する。今回は珍しく政宗がロクでもないことを企んだワケでもないのに、謀叛人の濡れ衣を着せられてしまう。武家のシキタリとして男児の処刑はやむを得ないとしても、妻子や側室までをも刑戮するのは明らかに誤りでした(大阪の陣の直後、秀頼の嫡男は処刑されたものの、女性陣は助命されていることからも明らかですね)。しかし、拾可愛さに目が眩んでいる秀吉には、それが判らない。その所為で駒姫は殺されてしまう。結果を先取りすると、この事件で政宗もモガミンも、そして、諸大名も豊臣家に見切りをつけました。骨肉から発生する感情を処理するのは難しい。そこから派生する問題に対処するのはもっと難しい。
もう一つ注目するべきは、序盤で大内定綱の助言を受けた政宗が、秀次と距離を置くために国元に帰参したこと。この判断はベストとはいえないまでも、決して間違っていないんです。ベストは先回の三成の助言に従って、太閤に更なる誼を通じておくことでしたが、今回の判断は今までと違って都慣れした政宗がキチンとした計算に基いて下した判断でした。しかし、正しい行いだけを積み重ねていれば必ず報われるとはかぎらないのが世の中というもの。この辺は『八重の桜』でも描かれた通りですね。疚しいことは何もしていないのに、一つ判断を間違えただけで生死の瀬戸際に追い込まれるのが乱世の恐ろしさ。そして、その非情な現実に立ち向かう姿を描くのが大河ドラマの存在意義でしょう。
残りは雑感。
① 父性
国元に帰った政宗が輝宗の墓を詣でる場面。あれも実は後半の展開と密接にリンクしています。以前、感想で書いたように本作の輝宗には父性に欠かせない負の要素=暴力性が欠けていました。政宗が母を越えたのは今回、虎哉和尚が総括してくれた通りですが、今度は父越えの番。そして、本作における圧倒的な暴力性を伴う超克の対象は豊臣秀吉に他に存在しない。母越えのお墨つきを貰った主人公が遂に真の父越えに挑みます、という暗示じゃないかと思いました。勿論、父越えとは豊臣家との密かなる決別に他なりません。
② レオン
蒲生氏郷の訃報。『毒を盛られたのでは』という噂を聞かされた政宗が明らかに動揺していました。おまえが犯人か。いや、流石にそんなことはないですが、以前、毒を盛った盛らないで諍いのあった相手だけに、何やら居心地の悪い思いをしたに違いありません。もしや、自分をハメるために三成が流した流言ではないかと疑ったのかも。日頃の行いって大事だよね。ちなみに蒲生氏郷の死因の定説は大腸癌。下血に始まり、手足のむくみ、下腹部の膨満など、典型的な病状であったことが当時の記録に残されています。若年性で進行が早かったのではないかともいわれますが、最初の下血から二年後の病没という進行速度なので、通常の癌と変わらないのではないかと。
③ 末期の将棋
豊臣秀次「盤面はそのままにしておけ。決して崩してはならんぞ」ハッハッハッハッハッ
これ、初めて見た時から凄く印象に残っている場面なんですよ。本作の秀次は自分の力では何を成したでもなく、単に秀吉の甥というだけで関白になり、そして、同じ理由で殺されたワケじゃないですか。己の意思や力で現世に何一つ功績を残せなかった存在、それが秀次。でも、末期の一局だけは勝利した。対戦相手もこれから一緒に死ぬワケですので接待将棋をする理由がない。つまり、秀次はガチ勝負で勝った。この対局は彼が唯一、己一人の力でこの世に残した爪痕なんですよ。これを崩されたら、己という人間が存在した意義をも崩されてしまう。それゆえ、絶対に崩すなと命じたんですね。己の才覚ゆえではないとはいえ、関白にまで登りつめた男が現世に残せたのが一局の盤面というのは悲し過ぎますが、でも、それが秀次という男の本質なのでしょう。
④ 今週のモガミン
すんません、この画像以外の言葉が出てきません。色々と感じたことはありますが、取り敢えずは豊臣家は滅ぶべくして滅んだと評さざるを得ないでしょう。
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『独眼竜政宗』第32回『秀次失脚』感想(ネタバレ有)
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