アバンタイトルナレーション「十七代目が御存知、独眼竜政宗である!」
事実上の第一話ということでしょうか。
先回ラストで一応の登場を果たしたとはいえ、ナベケン政宗の事実上の稼働は今回から。それに相応しく、伊達の若き当主の周辺描写に終始した内容でした。つーか、普通の大河でもこれくらいやれ。主人公の最終形態は10話前後から登場でも充分に間に合うということは本作が証明してくれました。主人公ではありませんが、千秋センパイ(11)というのは流石にムリがあったと思うんだ。況や、のだめ(6)というのは……いや、あれは配役の年齢以前の問題か。年齢のコトをいえば本作のお東の方(16)も充分に厳s【粛清されました】。志麻姐さんは17歳教の信徒だと思うことにします。今回のポイントは4つ。
1.使者という名の密偵
何だかんだで今回のメインはこれ。政宗の家督相続の宴に駆けつける面々と、彼らに対する主人公の対応を通して、現在の伊達家の置かれた状況を整理すると共に『奥羽編』の筋道をたてていました。今回の政宗の田村、二本松、最上、大内への対応を見ておけば『奥羽編』の掴みはOKでしょう。
特筆するべきは政宗に対する輝宗の『儀式に駆けつける他国の使者は密偵の謂い』という忠告。これは現在の国際社会でも理解しておくべき常識であり、況や、戦国もので敢えて台詞にするのは些か冗長に過ぎる内容ですが、これを父から子への忠告という形を取ったのがうまかった。世にいう『桜井の別れ』と同じ。当たり前のことをイヤミなく観客に伝えるには親が子供に噛んで含んで教えるという形式が一番です。ナベケンの前のめり感溢れる演技も、家督を継いだばかりでイッパイイッパイというかハイテンションというか、逆上せている若い政宗の心情にピッタリなんだな、これが。
尚、物語の途中に挿入されたモガミンによる白鳥十郎の暗殺事件。これが全国放送された影響でモガミンの印象が決定づけられてしまったようですが、あんなのは戦国では日常茶飯事ですからね。仮病くらいで悪役にされたモガミン、カワイソス。我が郷里の上杉景勝は眼病の薬と偽って相手の目に唐辛子の汁を垂らして暗殺したからね。こっちのほうが陰湿というか周到というか、底意地の悪さを感じますよ。何が上杉の義だ。まぁ、そういう手段を取らないと服属させられないのが国人衆の厄介な点。今年の大河で描かれるかは判りませんが(というか、描かれないと困る)、中津城のアレや『功名が辻』の相撲騙し討ちと同じですね。
2.本音と建て前
人間ドラマ、ホームドラマとしても相変わらずの安定度。その要因の一つは以前から挙げている本音と建て前の使い分けですね。顕著なのはお東の方。政宗の家督相続の件で夫から何の相談も受けずにいたことで臍を曲げる&その代償行為として次男の竺丸を溺愛するのは自然な流れですが、それを絶対に政宗の前では出さない。報告に参上した本人には目出度い目出度いと誉めそやす。更に『急な展開過ぎて祝いの品も用意できなかった』という遠回しなイヤミにも『ママンに貰った水晶の数珠、今でも大事にしているよ!』とのイノセンスな返答をされて満更でもねぇといった表情を浮かべるあたりが、登場人物の本音が何処にあるのかを簡単には掴ませない仕掛けというか。ツンデレママの本領発揮。
更に『隠居所ができるまでは借りぐらしのキンキンでいこう』という輝宗の申しように『絶対に私の部屋は開け渡さない!』と激昂しつつつも、翌朝には後釜になる愛姫に労りと励ましの言葉を贈る。これが大人ですよ。人間、本音なんて簡単に口にするワケがないんですよ。年齢を重ねれば尚更ですよ。常に本音100%で会話する現在の大河も見習って欲しい。いや、今回の政宗、成実、小十郎のように若い衆はそれでもいいのですがね。
その若さの代表たる政宗の描かれ方も一捻りありましたね。愛姫の実家から来た向館の爺(爺という言葉がこれほど似あうキャラも珍しい)には『子供生まれなかったら嫁を引き取りに来いや』といいつつ、本音ではとっくに子宝祈願を終えているという展開。才気走るというか、捻くれ者というか、或いは閨で相手を気遣うあたりが若さの証拠というか。キンキンとお東の方は閨でも言葉の鍔迫りあいですからね。この辺にもヴェテラン夫婦の絆、格の違い、老成ぶりを見た思いです。
3.秀吉パート
相変わらず、漂う『応天府』感が半端ねぇ。
何処の朱元璋だよ、この秀吉。舞台は南京ですと言われても納得してしまうレベル。違和感、仕事しろ。秀次を演じた陣内さんも緊張したでしょうね。『おまえ、首級を刎ねられたいのか?』という台詞も勝新がいうと洒落に聞こえねぇよ。秀次を蹴ろうとして派手にスッ転ぶ場面は勝新も全然受け身考えてないのな。モロに背中から落ちています。あれは痛い、というか呼吸が詰まるんですよ。経験上判ります。何の経験かは【お察し下さい】。
寧々との会話でちょっと気になったのは、
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という、いい加減お互いの年齢弁えろという秀吉の言葉に『アンタの側室全員誰も子供産んでねーじゃん』と笑顔で答える場面。これって言外に亭主に種【自主規制です】しといっているようなものですよね。本作の秀吉に対してデリケートな問題を笑顔で遣り取りできる、それが寧々という女性の凄味という描かれ方なのかと思いました。
4.クセモノ参上
奥羽編最大のクセモノ、備前こと大内定綱登場。演ずるは寺田農さん。これ以上のハマリ役があるでしょうか。順番としては本作を見たあとに司馬さんの『馬上少年過ぐ』を読んだので、大内こと『びぜん』は完全に寺田さんで脳内再生していました。上記小説は輝宗の不慮の死で終わっているので、事実上の敵役として描かれていた大内定綱。本作でも奥羽編のキーパーソン扱いです。政宗と定綱は『三国志』で例えると曹操と賈詡みたいな関係なんだよな。大量虐殺事件も父親のアレと順序が前後するとはいえ、曹操チックですし。腹の底が見えない食わせ者という点で似た者同士ですしね。今年の大河では宇喜多直家が大内ポジだと予想していたんだよなぁ。どうして本音丸出しの謀略家モドキになったのか。
一度は臣従を口にしておきながら、芦名が怖いんちゃうん? 気にせんでえーよ? という伊達の上から目線の申し出に、
大内定綱「君のアホづらには心底ウンザリさせられる」
と最後通牒を突きつける備前。これも脳内再生余裕でした。ここも大人VS若者の構図ですかね。宴会でも軍議でも常に本音丸出しの主人公主従と比較して、イザという段階まで湿った真綿のようにのらりくらりと本音を見せない&平気で嘘をつく備前。備前の返答に怒った政宗の『俺はネズミか? 腰抜けか?』と気焔をあげる場面は非常にカッコいいですが、カッコいいこと=勝つこと=武将の最優先事項に繋がらないのは来週の展開通り。大人ってぇのはなぁ、汚くて責任感がある人間のことなんだよ。この辺も現在の国際情勢への対応に通じるものがあります。勇ましくて耳触りのいい言葉や雰囲気に流されるととんでもないことになる。勝つためには勝つための準備を整えなくてはならない。その辺の事情が主人公は判っていない。これも若さです。
ここで気になったのはキンキンは政宗の若さゆえの過ちがどのような結果を招くか概ね予想していそうな雰囲気だということですね。じゃあ、教えてやれよといいたくなりますが、そこはそれ、獅子は千尋の谷に我が子を突き落すもの。身に染みて初めて判る痛みがある。或いは御家の危機を招くかも知れないが、それを糧にする強さが我が子にはある。なければそれまでだ。うーん、厳しい。表面上はツンツン当たっていても基本、息子にダダ甘のお東の方との違いですね。王道の父親像というか。まぁ、息子の所業があれこれと巡り巡って自分の身に降りかかるとは流石のキンキンも想像できなかったでしょうが。
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『独眼竜政宗』第9回『野望』感想(ネタバレ有)
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