今週から大河感想は『独眼竜政宗』に集中します。一応、簡易感想ではなくなりますが、毎回毎回詳しくやれるかどうかは判りません。その時の体調と疲労度次第。んで、今週は疲労度が半端ないので簡単に終わらせようと思っていたら、何というか身に染みる話でした。特に小十郎。現実の職場でイロイロあって『もうやってらんねーよ』という気分で帰宅したものの、本作の喜多と小十郎の会話を見ると『あー、俺もくだんねーことで悩んでいる場合ちゃうよなー』と思ってしまいました。勿論、物語と現実の区別はキチンとつけてはいるもの、それでも登場人物に感情移入してしまう作品ということが改めて証明されたといえるのではないかと。今回のポイントは6つ。登場人物別にスポットを当てていきましょう。
1.虎哉宗乙の場合
相変わらずのフリーダムっぷり&生臭坊主っぷりを発揮。弟子とはいえ、一国の若殿相手に『嫁とは寝たん?』などと堂々と聞けるのは和尚くらいだわなぁ。一緒に尋ねられた小十郎も返答に困ったと思うよ。知らなかった所為で和尚に怒られましたが、これは知っていたほうがヤバイでしょう。藤次郎の勘気を蒙るのは必定ですからね。全く、困った坊さんです。それでいて、微塵も卑猥さを感じさせないのは台詞回しの妙か、大滝さんの力量か。多分、両方。『敵を憎んで戦うべからず。憎しみは必ず我が身に跳ね返ってくる』という言葉も詳細は伏せますが、のちのちの伏線になっています。本作は当時の価値観を大事にしている分、今日的な思想を描きにくい。でも、既に俗世から解脱した和尚にいわせれば何の問題もない。御仏の前では誰もが平等ですからね。
一方で『人前でゴロリと横になるな』という教えは何処にかかってくるのかは忘れてしまいました。最終回の大往生のシーンかな。でも、それは流石にスパンが長過ぎるように思います。まぁ、単純に家臣の前で平気で楽をするような輩は人の上に立つ器に非ずといいたかったのかも。へそ曲がりの教えといい、和尚は飄々とした為人のくせに厳しい御方ですよ。
2.藤次郎政宗の場合
『相馬勢は消毒だー!』と勇んで出撃したはいいものの、軍紀違反、蛮勇、驕慢を輝宗に窘められるという手厳しい洗礼を受けた藤次郎の初陣。認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを。それでも、主人公をドン底まで突き落したりせず、上を目指して這いあがろうとする前向きさに帰結させる辺りが本作のバランス感覚のよさというか、王道の王道たる所以か。去年の大河は容赦なく主人公周辺を叩きのめしたからね。いや、あれはあれで正解でしたが、少なくとも大衆受けはしないわなぁ。だが、それがよかった。
今回の藤次郎のベストシーンは出陣前の愛姫との遣り取り。和尚から『初陣で死ぬかも知れん。嫁とするべきことをしておくがいい』と唆されて愛姫の寝所に足を運んだものの、
愛姫「絶対に実家の田村を攻めないと約束したら……いいよ///」
という条件に決然とNoを突きつけたこと。武将として無責任な約束をするくらいであれば、初めての据え膳を食わないほうを選んだ藤次郎の自制心&自尊心に惚れた。まぁ、遣り取りは本当に未熟な少年少女の会話そのものなのですが、演じるのが十代半ばなので違和感感じないんだよね。寧ろ、自然に受け入れられる。やはり、大河ドラマにおける子役・少年役の時期は大切だと思う次第です。
あとは初めて戦場を目の当たりにした夜、肉には手を伸ばさず、呷るように酒を呑む場面はよかったなー。やっぱり、初陣の夜から血の滴る肉を食らう気にはなれないし、酒でも飲んで何かを打ち消したいという思いが出るのが正常。口にするものの選択で藤次郎の心境を表現していました。
3.お東の方の場合
お東の方「いっそ、私が戦場に駆けつけ、采配を振るいたいものじゃ」
アンタがいうと洒落んなんねーっスよ。
何でしょう、この亭主よりも兄貴よりも頼りになりそうなオーラを漂わせる女性。ガチで二人よりも強いんじゃね? と思ってしまいます。それは兎も角、今回は出番控え目のお東の方。『兜首を捕って参れ』とか『雑兵相手に戦うとは情けない』とか『これでは藤次郎の先が思いやられる』とか、劇中で言っていることは全て正論なんですが、些か表層的な印象が強い。本作ではお東の方に鬱のケがあるという設定で話を進めていくので、その点を強調するために今回は正論ではあるけれども、心に響かない言葉を用意したんじゃないかと思います。尚、お東の方が心落ち着けるためにしていたコメカミマッサージは私の母親もよくやっていました。あのシーンを見る度に母親を思い出します。怒った時の怖さはお東の方といい勝負でした。今でも充分怖いけどね。
4.愛姫の場合
愛姫「若様だけが愛の生きる縁にございまする……」ヒシッ
藤次郎、末永くモゲロ。
幾度かのすれ違いと行き違いの末に夫婦となった主人公夫婦。マー君のマザコンっぷりを逆手にとったいい脚本だなー。折角の初陣の手柄をお東の方に褒めて貰いたかったのに、母親の口から出てくる言葉はダメ出しばかり。そんな時に優しくされたらコロッといっちまうよなぁ。ただし、何度もいうようにお東の方の言葉は正論には違いないんです。乱世の武人の母親として間違ったことは何もいっていない。逆に愛姫は極端にいえば『世間が貴方を蔑んでも、私だけは貴方の味方です』といっている。通常、ありのままの自分を愛してくれる関係が成立するのは母親と息子の関係だけですよね。でも、今回の藤次郎はそういう愛情を母親からではなく、愛姫から与えられた。それゆえ、母親の愛情に飢えていた政宗の心に響いた。お東の方のいうことは正しい。でも、正しさが人を救うとはかぎらない。愛情というモノが時に理不尽で非論理的な要素で成立する&それが時に人を救うという描写じゃないかと思いました。和尚のいう『もう一つの初陣』もミッションコンプリート。
5.伊達輝宗の場合
藤次郎の初陣回とはいえ、実質、物語の柱となっていたのは輝宗パパン。一人だけ格が違ったというか。例えば山家国頼の一件。彼を救ったことが藤次郎の初陣の殆ど唯一の手柄でしたが、その恩にうたれた国頼が輝宗の寝首を掻こうと狙っていたことを告解するという流れに。藤次郎の抜け駆け、軍律違反もムダではなかった。藤次郎が父親の生命を救ったのだという流れになるかと思わせておいて実は、
伊達輝宗「知ってたわー、お義が嫁いできた時から知ってたわー」
の一言で御破算。全ての事情を知ったうえで『まぁ、コイツは本気で俺の寝首を掻く度胸はねーだろ』と見抜いての放置プレイ。輝宗にとっての国頼は気に掛けるレベルの相手ではなかった。『いっそ殺して下さい!』という国頼の懇請にも、
伊達輝宗「はいはい。『ズバッ!』 これでおまえは一度死んで生き返った。もういいよな? これからも頑張れよ」
という超投槍な対応。ぶっちゃけ、輝宗には他に考えなきゃいかんことが山ほどある。国頼レベルの相手の対応で一喜一憂していられない。まぁ、斬ったら斬ったでお東の方にネチネチいわれるのが怖かったというのもあるかも知れませんが、藤次郎にとっての初陣の全てが輝宗には歯牙にもかけない程度の問題でしかなかった。父親とはかくも偉大なものなのか。そういうことを描きたかったんじゃないかと。また、そうであるからこそ、柴田勝家を通じて友好関係を結んでいた織田信長が斃されたことを聞いた輝宗の驚愕が藤次郎にも視聴者にも衝撃的に見えたのだと思います。尚、中継ぎに柴田勝家を選んだのは隣国越後の上杉の後背を脅かすためですね。そして、輝宗にとっての運命の男、畠山善継も登場。弦がついていた頃の石田太郎さんじゃないですか。今年の大河にも出演する予定でしたよね……残念です。
6.片倉姉弟の場合
冒頭で記したように個人的事情での今回のベストシーン。隣の芝生は青く見えるものだなぁ(しみじみ)。行くか戻るかの舞台に橋をセッティングする辺りは物語論に忠実ですね。近年の大河でもマネして欲しいですが、セット代とかかかるのかなぁ。
小十郎が伊達家を離れて他家に仕官しようと考えていた時期があったのは確かですね。尚、伊達成実、鬼庭綱元も一時、伊達家を出奔しています。伊達家が誇る三人の重臣悉くが出奔、乃至は出奔未遂を図っているというのは政宗の人間性に問題があったのか。それとも、全員が全員、主君の元に帰ってきたことを考えると政宗には他人にはない魅力があったのか。どちらも正解かと。
物語的には主人公は一人で生きているワケじゃないことを改めて描いた場面だと思いました。自分のあずかり知らない処で傅役が出奔しようとしていた。でも、それを制止してくれる人もいた。これが世間の真理じゃないかと。近年の大河では善かれ悪しかれ、主人公が(或いは主だった登場人物が)物語の全ての事象を知っている場合が多いのですが、それは実生活ではあり得ないよね。お互いの知らない処で影響し、干渉し、気を使い、足元を掬う。これが人間社会です。実際、今回の小十郎出奔未遂事件は物語の流れとしては必要不可欠の場面とは到底いえませんが、これはリアリティを出すためのスパイスなんじゃないかと。或いはコンソメみたいなもんですね。それ単品では料理とは呼べないものの、素材の味を引き立てるのに必要不可欠な場面であったと思います。
味の素 KKコンソメふりだしタイプ 470g/味の素
¥763
Amazon.co.jp
↧
『独眼竜政宗』第7回『初陣』感想(ネタバレ有)
↧