脚本家「西郷サァが知らない筈ないだろ!」
視聴者「じゃあ教えてよ! 何で薩摩の藩主は斉彬がいいんだよ!」
脚本家「…………」
視聴者「やっぱ知らないんだよ! 西郷サァ知らないんだよ!」
脚本家「西郷サァが知らない筈ないだろ!」
以下、エンドレスループ。
西郷サァが斉彬を支持する理由が今回も全く語られなかった今週の大河ドラマ。先週の記事で触れたように『大西郷』という『矛盾の人』を描くための壮大な伏線か、或いは製作者が何も考えていないかのどちらでしょう。次回は斉興派の据え置き人事を発表した斉彬の施政に西郷サァが疑念を抱くという筋書きなので、ひょっとすると『矛盾』に触れるのかも知れませんが、肝心の斉彬の真意を問い質す手段が『御前試合の相撲で優勝して殿の直答を得る』というあまりにも頭の悪い展開なので、恐らくは望み薄でしょう。何、この『修羅の刻 寛永御前試合編』の逆バージョン的発想。
尤も、私も『直虎の総評をUPしないうちは感想を書くのを控える』と書いた筆の穂先も乾かないうちに記事を書くという壮大な矛盾をやらかしちゃっていますが、本作は善かれ悪しかれ感想を書きたいと思える内容なんだよなぁ。『直虎』は今でも総評記事UPしていないことからもお察し頂けるように『出来は悪くないのに感想書く気が起きにくい作品』でしたが、今年は『出来がアレな割に何か書きたくなる作品』なのですよね。あらゆる意味で昨年とは真逆の印象です。
勿論、書きたいことの半分以上はダメ出しなのも確か。今回の赤山センセの『世界で一つだけの芋』講座から親父二人のグダグダ相撲に至る件は丸々必要ないストーリーで、見ていてイライラしてしまいました。赤山センセの切腹も製作者はメチャクチャ感動するシーンのつもりなのでしょうけれども、この人が西郷サァにとって如何に大事な存在であったかの描写が全然なかったから、肝心の切腹の場面も痛そうですねという以上の感想を持てなかったんだよなぁ。赤山センセの死にブチぎれた西郷サァが、
西郷吉之助「オイは、あの女を叩っ斬る!」
と激高する場面も『アナタ、刀を振るえなくなったんじゃあなかったの?』と素でツッコミを入れてしまいましたよ。他は兎も角、主人公のアイデンティティに関わる点を壮大に【なかったこと】にするのはイカンでしょ。せめて、刀を掴もうとするも、古傷の影響で取り落として、
西郷吉之助「オイは、無力じゃ……!」
と泣き崩れる……とかでしたら、文武両面で己の理想の現実の差に直面したヤング西郷サァの苦悩を表現できたと思うのですが……。
それでも、全く見るべき点がなかった訳ではなく、世間では評価が真っ二つに割れている、
島津斉彬「いいこと思いついた。父上、ここで俺とロシアンルーレットしろ」
の件は嫌いじゃありませんでした。いや、まぁ、あまりにも突拍子ないシーンではありましたが、何かブッ飛んだことで視聴者の度肝を抜いてやろうという気概は感じましたね。名高い薩摩の肝練りの西洋進化系と思えば、決して受け入れられない内容ではないうえ、斉興の中の人は『アカギ』でもロシアンルーレットをしているので、ネタ的にもオイシイ。本作ではブルッて対決を拒否ッたように描かれていた斉興ですが、恐らくは次の弾倉にタマが込められていることを聴覚で察知していたので、勝負をオリたのでしょう。市川は現実主義者だからね、仕方ないね。
ただし、ロシアンルーレットをやるならやるで、キチンと物語上の筋道をつけて欲しかったのも事実。斉彬に上記の肝練りの話をさせて、視聴者に前フリをキチンとしてから、本筋に入っていれば、或いは肯定的な評価も増えたでしょう。加えて、今回のロシアンルーレットは斉彬が一方的に挑んだ勝負で、斉興にはバクチに乗る必然性がなかったのよね。勿論、両名の間には斉興が藩主の座を降りない場合、斉彬は琉球を通じた密貿易を公にするという交渉カードが存在しましたが、それはロシアンルーレットをやる理由にはならない。密貿易のカード自体が双方の死命を制するのですから、更に生命を賭けたゲームを重なる必然性はない。そのうえ、藩主の座を失う斉興に対して、何も失うものを持たない斉彬が破滅を賭けたギャンブルを強要するのは筋道が通りません。
この場面でロシアンルーレットを持ち出すとしたら、親子が交互に引き金を引くのではなく、斉彬一人で完結させるべきでしょう。即ち、一発のみ装弾した銃でラスト一回になるまで己に向けて引き金を引き続ける。それでこそ、斉興との間に対等のギャンブルが成立するというものです。もう一つ加えると、斉彬は己の蘭癖が父親の不興を蒙っているのは承知しているでしょうから、西洋技術の象徴である最新銃に己の生命を賭けることで、自らの蘭癖への覚悟を示すことにもなる。自分は決して道楽で蘭学にのめり込んでいる訳ではない。己の生命を危険に晒しても、尚、この道には進むべき価値がある。それを描いてこそ、斉彬という人物の真意が斉興にも、そして、視聴者にも伝わったのではないでしょうか。
そんな訳で当たりはよかったものの、ポールギリギリの大ファールに留まった今週の『西郷どん』。やきうの世界には三振前の大ファールという格言(?)がありますが、格言通りに次回は大コケになるか、それとも……?
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