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根本的な解決策はないと思いつつも

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天龍源一郎「お客がいなきゃあ、ドロップキックだって痛くて打てねぇよ」

 

この発言ほどにプロレスの本質を抉った言葉はない。誰も見ていなければ、自分が痛い思いをする技を打つ者はいない。逆にいうと観客の目があるからこそ、一見仕掛けたほうが痛そうに思える技も、プロレスラーは打つことができる。ドロップキックのような基本的な技も例外ではない。否、プロレスの基本ゆえに、その要素は濃厚であるように思う。試しに布団の上でいいから、架空の相手に向けて、ドロップキックを放ってみるといい。着地の衝撃で悶絶すること請け合いである(経験者は語る)。勿論、プロレスラーが日々、受け身の修練を積んでいるのは間違いないが、しかし、自分や相手へのダメージ以上に、観客に対するインパクトを得られる技でないのも確かである。実際、ドロップキックをフィニッシュに用いるレスラーは殆ど存在しない。ドロップキックでフォールを奪っても観客の承認を得られるメインイベンターは、大谷晋二郎とオカダカズチカくらいではないか(筆者の主観)。全くもってコストパフォーマンスの低い技といえる。それでいて、ドロップキックを綺麗に放てないレスラーは基本が出来ていないと評価される傾向があり、まさに『プロレスの基本』を象徴する技といえるであろう。

尤も、その基本的な技がプロレスラーをリング上で死に至らしめたこともある。詳細はwikiって頂くに如くはないが、対戦相手のドロップキックを受けたレスラーが受け身の際にロープで頭部を強打して、落命したという。プロレスに安全な技はない。放つ側も受ける側も、常に生命掛けで技と向きあっている。しかし、実際にリング禍が起きたという理由で、ドロップキックを封印してしまったら、プロレスそのものが成立しなくなるかも知れない。

 

或る記事によると、医師の目から見た危険度の高いプロレス技のトップ3はパイルドライバー、バックドロップ、ニードロップであるという。この記事が掲載されていた時期には既にパワーボムや投げ捨てジャーマンが隆盛を誇っていたが、それらよりも上記のクラシカルな技のほうが遥かに危険度は高いというのが医師の見解であった。事実、平成のレジェンドレスラーとして名高い三沢光晴は二〇〇九年六月十三日、対戦相手が放ったバックドロップによるリング禍で急逝した。ただし、この事故で対戦相手を責めるのは酷であろう。四天王プロレスに代表される垂直落下系の技を受け続けた三沢の首は大試合の度に身体にめり込み、試合後に若手がタオルを首にかけて、力ずくで引き出すのが常であった。最後のバックドロップは三沢の首に乗せられたラストストローであり、対戦相手一人に責任を負わせるのは筋違いではないかとの見解が、当時のプロレスファンの共通の思いであったと記憶している。五十路に手が届こうかという三沢が、若手と共にメインイベントを張らざるを得ない状況こそ、あのリング禍の原因ではないかと思う。

 

リング禍は技を受ける側ばかりに起こるものではない。技を仕掛けた側も、時に重傷を負うことがある。ハヤブサしかり。サスケしかり。天山しかり。板垣センセの言葉を借りると骨を断たせて肉を斬るのがプロレスの本質である以上、受け手の危険性のみを追求しても、問題の解決に繋がるとはかぎらない。

 

ブル中野「こんなところからダイブした日にゃ……アジャどころか、私の体だってどうなるか……だ、だめだ! 絶対! やっちゃいけない! 身体中の骨が折れるかも知れない。いや、それ以上の事態になるかも知れない。だが、お客さんは……お客さんはわく!」

 

4メートルの金網の上からダイビングギロチンドロップを放ってしまうのが、全てではないにせよ、プロレスラーの思考なのである。ブックであれ、アクシデントであれ、リングの中はレスラー本人に多くを委ねざるを得ない以上、現実的なリング禍の軽減策は定期的な健康診断、第三者視点によるレスラーのコンディション管理のようにリングの外で図るしかないと思う。他には試合時間の短縮化と、ヘビー級とジュニアヘビー級以外の階級の創設による体格差の軽減であろうか。今年の優勝者が提唱したG1参加者の精査と試合数の絞り込みも全面的に賛同したい。内藤もいいこというなぁ。試合はしょっぱいけどさ。

 

今回は現実の事故に関する内容であり、記事にするか否かで結構悩んだ。しかし、事故に関するニュースが流れた途端、古くからのプロレスファンから次々とメールが届き、私も友人に連絡を入れたことを思うと、自分なりの考えをまとめておきたいとの気持ちに突き動かされた次第である。高山善廣選手は日本プロレス史上屈指のレスラーであり、先日の記事で触れたように私の亡き祖母に敬意を以て接して下さった紳士である。高山選手が快癒に向かうことを願いつつ、今回の記事を締めさせて頂きたい。

 

 

 


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