第18回が『母の日』回だとしたら、今回は『父の日』回というか、
スズムシのスズムシによるスズムシのためのスズムシ回
でした。茂誠に対する信繁の執拗な焦らしプレイとか、後北条氏の敗亡とか、利休のドス黒さとか、政宗のレッツずんだもちパーリィーとか、それなりにイベントは多かったものの、全体を通してみると、安定したアベレージでコンスタントに見所を提供したスズムシの一人勝ち状態。先回ほどのマイナス印象はないものの、スズムシの他に大きな見所がなかったのも事実です。それでも、先回よりは上向きな内容でしたので、合戦そのものよりも前後の回に定評がある三谷作品らしかったといえるでしょう。尚、サブタイトルは『滅亡』。折り返し直前にして、最終回みたいな響きですね。そんな今回のポイントは7つ。
1.絶対に笑ってはいけない小田原城二十四時
北条氏政「源二郎、顔をしっかり見たい。もう少し近う」
真田信繁「…………御免ンフフフフフ」
デデーン 源二郎 OUT-!
北条氏政「殺せ」
という流れでは決してありませんでしたが、唐突に信繁が捕らえられたので、思わず『笑ってしまったのか』と勘違いしてしまいました。実際、私は氏政のメイクを見て、画面の前で爆笑してしまいましたので。氏政さん、色々と濃過ぎますよ。そのうえ、その顔で信繁に詰め寄るとか、確実に笑わせにきているとしか思えません。顔の近さで相手を追い込む遣り口は『笑ってはいけない』シリーズの六平さんポジですね。氏政としては氏直や江雪斎の降伏論には道理では勝てないので、使者である信繁に非礼を働かせて、首級を刎ねる口実にしたかったのではないかと疑ってしまいました。それでも、
北条氏政「北条がどれだけ真田に振り回されてきたか……知らぬワケではあるまい。ようも抜け抜けとわしの前に姿を現せたな」
は、ぐう正論。先回、江雪斎は『しがらみのない者の意見であれば氏政も耳を傾けるのではないか』といっていましたが、信繁はどう足掻いても当事者じゃあないですか。本気で説得する気ないだろ。
尤も、信繁が使者に選ばれたことに全く意味がないかといわれると、そうでもないかも。本人は豊臣の使者を自認していましたが、氏政にとっての信繁は小癪で卑小極まる真田の、それも次男坊に過ぎません。そんな人間の口から降伏勧告を受けたことが、自他ともに関東の雄と認める氏政の心をヘシ折ったのではないかと思います。そして、氏政の『華々しく戦国の世に幕を引く戦い』という夢は信繁に引き継がれるのでしょう。江雪斎、結果的にナイスな人選。そして、何気に氏政の頭上に潜んでいた佐助にワロタ。風魔一族は仕事しろよ。
2.早く○かせて
小山田茂誠「『途轍もなくいいこと』って何かな?」
真田信繁「話せば長くなることですから、此処で待っていて下さい」
小山田茂誠「気になるなぁ……!」
真田信繁「ただ……いや、何でも」
小山田茂誠「いや、凄く気になるなぁ……!」
『姉は生きていますが、記憶が曖昧で義兄上のことは覚えていないかも知れません』ですむ話を、いちいち焦らす信繁。先週は御屋形様にストレートな情熱をぶつける一途さを見せたかと思えば、今回は涼しい容貌で年上の厳ついヒゲ親父を寸止めプレイで弄ぶとか、信繁もとんだド外道のテクニシャンですね。
しかし、信繁の気持ちも判らないではありません。この茂誠という男、悪気も責任もありませんが、作中で彼の赴く先には必ずトラブルが発生して、しかも、真田家も巻き込まれるのが今までのパターン。今回は珍しく、信繁の生命を救ったかと思いきや、宗匠が北条側にも武器弾薬を売却していた証拠が納めてある蔵に匿うとか……スズムシや茶々とは別の意味で歩く火薬庫といいましょうか。身内でなければ、なるべく関わりを持ちたくないタイプです。
さて、そんな義兄上の働き(?)で明るみになった宗匠のマッチポンプ商法。今までの感想記事で本作の宗匠は文化人ではなく、堺という軍産複合体の代表者がメインではないかと書いてきましたが、概ね的中した模様。この辺、史実と創作の境目が気になりますが、時期的には次回で描かれるであろう宗匠切腹のタイミングと合致するので、私としてはアリです。先回唐突に挿入された信繁と茶々のデートも本件の伏線でしたか。それと、佐助が信繁についてきたことにも意味が出ましたな。如何に使者とはいえ、信繁が直々に北条の軍事物資を持ち帰るのはあまりにもリアリティがない。信繁が刑部に提出した鉛は佐助が非公式に回収したと考えるのが妥当でしょう。こういう回跨ぎの伏線回収があるから、本作は迂闊に批判できないんだよなぁ……でも、やり方としては些かアザトイぜ。
3.範囲攻撃(含む味方)
この辺から始まる今回のスズムシ無双の描写。或る場面ではコミカル、また或る場面ではシリアス、そして、別の場面では喜怒哀楽の感情を爆発させるといった具合に、兎に角、見ていて楽しかった。最初は『誰彼の指図で戦うのはつまらん。負け戦でも己の意思で戦う氏政が羨ましい』という件から始まり、家康、景勝と共に氏政を説得するシーンでは、
上杉景勝「わしも髻を切る! 我ら一同、その覚悟で殿下に申し上げる所存!」(`・ω・´)
という相変わらずのエエカッコしい発言に俺を巻き込むなよと露骨に嫌悪の表情を浮かべたかと思いきや、自分に説得のターンが回ってきた時には、
真田昌幸「このまま秀吉の天下が来るとは到底思えん! 此処にいる誰もがそう思っておられる……そうではござらんか?」
と家康と景勝が俺らを巻き込むなよとアカラサマに表情を殺す爆弾発言。ホンマ、自分のところに飛んで来たボールに他人様の名前を書いて四方八方に放り投げるのはスズムシの常套手段やでぇ。しかし、そんなスズムシの熱い説得(?)の甲斐なく、氏政は従容と死を迎えました。最期の汁掛け飯は注ぎ足し注ぎ足しではなく、注ぎ切りで平らげた模様。死ぬ前に一度は注ぎ切りの汁掛け飯を食べてみたかったのでしょう。何気に江戸っ子と蕎麦つゆのネタを想起してしまいました。
4.光るものの全てが偽物とはかぎらない
真田昌幸「目に見えるものが一つそこにあれば、噂は噂でなくなる」
小田原落城後も勧告に応じない忍城を『こんなこともあろうか』と別の真田さんを思わせるノリで持参した氏政の兜一つで開城に応じさせたスズムシの謀略。スズムシのクセに名言じゃあないですか。逆にいうと目に見えるものがあっても、それが真実とはかぎらないワケで、この辺は稀代のペテン師ファン・ガンマ・ビゼンの発想に通じるものがあります。ペテン師は時に同じ橋を渡るようですね。ともあれ、ここ最近は時代の趨勢についていけないイタい親父のオーラが全面に出ていたスズムシですが、今回は久しぶりに作中屈指の知略家としての姿が描かれた模様で何よりです。まぁ、基本的に横着者のスズムシですから、次に輝くシーンは第二次上田合戦までないと思いますが。
しかし、久しぶりに本気を出したスズムシに(悪)影響を受けてしまったのが、我らが治部殿。忍城を開城させたスズムシの手腕に心酔してしまったのか、
石田三成「べ、別にアンタのやり方を認めたワケじゃあないんだからねッ! でも、アンタのお陰で無駄な犠牲を出さずにすんだんだし……つまり……その……アンタから用兵の指南を受けてあげてもいいのよッ?」
と金髪ツインテール(CV:くぎゅ)レベルのテンプレツンデレっぷりを披露。確かに作中で忍城を開城させたスズムシの謀略は水際立っていましたが、基本的にスズムシは他人の模倣になり得る武将ではありません。凡人が真似をしたら痛い目を見る類の、決して真似してはいけない危険な男です。この辺、三成が関ケ原で負けるのは師匠が悪かったという流れになるのかも知れません。
5.多分、今日が人生のピーク
真田昌幸「伊達殿とお話したいと、家臣の片倉何某に伝えてこい」
真田信幸「伊達殿と会って……何を話すおつもりですか?」
ロクでもないことだよ。
いわせんな。恥ずかしい。
全く、先項で雷光のような知略を見せたかと思えば、一瞬にして時代と空気の読めないイタい親父に逆戻りです。スズムシに依存するとエラい目に遭うことを知っているお兄ちゃんは、父親の正体をキチンと治部に説明してあげるべきだと思うの。もしかすると、そういう縁で両名のペンパル関係が始まるのかも知れませんが。
まぁ、歴史を将来から見ている我々はスズムシの不安が杞憂ということは判るのですが、氏政は切腹、家康は関東に左遷、政宗は会津の所領をボッシュートという流れを生で見ていると、スズムシの焦燥も理解できなくはありません。でも、そこから一気に豊臣を攻め滅ぼすという発想に至るのがスズムシのスズムシたる所以でしょう。しかし、
真田信幸「日ノ本中は再び、乱世に逆戻りとなります! 父上はそれをお望みですか?」
真田昌幸「何が悪い? わしは伊達に賭ける!」
伊達政宗「YEAHー! レッツずんだもちパーリィー!」
真田信幸「ど~されますかぁ~?」
真田昌幸「……もうよい」
アカラサマに父親を揶揄するお兄ちゃんの口調がツボった。スズムシに徳川の左遷先の地名を教える時の口調といい、今回のお兄ちゃんは慇懃無礼な毒舌家として描かれていましたね。伊達との連携の目が消えたスズムシは隣席の家康相手に『都から遠くなりますなぁ』と低レベルな嫌味をぶつけることでストレス解消。本当にケツの穴の小さい男ですが、氏政の助命嘆願に奔走したケツの穴の大きい家康が左遷の憂き目に遭ったにも拘わらず、ケツの穴の小さいスズムシは本領安堵&沼田GET&徳川の寄騎離脱という、いいことづくめの結末。世は不条理に満ちている。
6.裏MVP
伊達政宗「わしの人生綱渡りだ」
愛姫「敢えて綱渡りをしなくてもええんやで(震え声
最上義光「身内を巻き込まなくてもええんやで(震え声
上記の台詞に色々と突っ込みたい気持ちはヤマヤマなれども、今回は政宗のずんだもちのおかげで、真田が早まった決断を下すこともなく、本領安堵&沼田GET&徳川の寄騎離脱という最良の結果に恵まれたことを思うと、本作の政宗は身を殺して他人の役に立ったといえなくもありません。こんなマー君見たことねぇ。ずんだもちは非常に痛々しさ満載でしたが、終盤の信繁との会話で下げたハードルをキチンと上げ直していたので、まぁ、ギリギリで許容範囲かと。それと信繁のことを『小倅』とゆうてましたけれども、おまえらタメやろと思っていたら、キッチリとナレーションで補完が入りました。何かと興醒めな仕事の多い本作のナレーションにしては、珍しくいい仕事といえるでしょう。
7.今週のMVP 真田昌幸
スズムシが突出していたというよりは、他のキャラクターが大人しかったという消去法の選出となりますが、まぁ、順当でしょう。毎回毎回最強の二番打者的なシブイ働きを見せてきた近江中納言も、今週はずんだもちを食べるのに忙しかったようです。尤も、シングルではなく、タッグもありの選定基準だと、
直江兼続「……………………」ジー
上杉景勝「何も約束しておらぬ!」
のチワワ景勝とスナギツネ直江のコンビもMVPに相応しいかも。確かに結果的に約束していませんでしたが、本人は髻斬る気マンマンでしたからね。景勝さん、嘘はいけません。でも、兼続も大体の事情は察してそうなんだよなぁ、口に出さないだけで。
ちなみに、この場面は各勢力のナンバー2が揃い踏みという珍しいシーン。ナンバー1が一堂に会するシーンは結構多いですが、参謀役が同じ空間に存在するというのは、現実とは逆にドラマでは滅多に見られないシチュエーションですね。次点は板部岡江雪斎。氏政の助命嘆願のために集った人々が去った広間と、屋敷の奥にいるであろう氏政に礼を施す姿に鼻の奥がスンとなりました。出番的にはこれが最後っぽいですが、江雪斎さん、今年の『相棒』も期待していますぜ。
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『真田丸』第24回『滅亡』感想(ネタバレ有)
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