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『真田丸』第7回『奪回』感想(ネタバレ有)

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きり「うっとおしくてよかった!」
真田信繁「どうですか、木曽家の皆さん! うっとおしいでしょ、コイツ! そして、若干面白いでしょ!」


先回がイマイチな出来であった&今週は三谷さんのオリジナル展開が多そうな予告であった&OPクレジットに本作の癒し要員である徳川家が出てこなかったので、結構不安でしたが、メチャクチャ面白かった! 内容は99%が嘘……というか、殆ど歴史とは関係ない創作なのに、全てのパートで笑いのツボを刺激されちゃいましたよ。勿論、全てが嘘ではなく、木曽義昌が滝川一益から信濃の国衆の人質を譲り受けた流れは、先回の記事で江馬さんがコメント下さったように史実らしいんですね。そうした細かい史実を基についた嘘であるから面白かったのではないかと思います。
今回のMVPは『きり』。異論は認めます。多分、今回で更なる彼女のアンチが増えたと思いますが、今回の物語を回したのは間違いなく彼女なんですよ。きりがいなかったら、信繁は簡単に任務を全うしてしまい、更なる成長へと繋がるであろう挫折はあり得ませんでしたし、おばばさまによる義昌へのビンタも見られませんでしたし……これで人質の誰彼が死んだとかいう展開になったら、流石に擁護できませんでしたが、きりの所為で人死が出たワケではないので結果オーライです。きりの振る舞いや言動を批判する意見も御尤もですが、彼女に武家の婦女子の嗜みを期待するのは三谷さんに本格派の大河ドラマを期待するのと同じくらいの無理ゲーだとも思います。ある意味で『きり』は、本作中で三谷さんの作家性を最も反映したキャラクターなのかも知れません。今回の内容は大河ドラマではなく、三谷作品を見たと思えば腹も立たない……のではないでしょうか? それこそ、同じ三谷大河の『組!』における『寺田屋大騒動』のノリに近いものを感じましたので。先々回の伊賀ウォーカー二泊三日を凌ぐコメディ爆発路線となった今回のポイントは5つ。


1.北条家

滝川一益と北条氏政の神流川の戦いは物語冒頭のコーエー的CG解説でスルー。まぁ、仕方ない。多分、戦闘シーンの予算は第一次&第二次上田合戦、大坂冬の陣&夏の陣でイッパイイッパイだと思うので、それ以外はハナから大幅カットを覚悟しています。その分、調略シーン&コメディシーンで頑張って下さい。
北条家では東国屈指の外交僧・板部岡江雪斎が登場。氏政の寝所に入る際に『暇かっ?』とかいいそうな雰囲気でしたが、流石にそれはなかった。江雪斎には『もう今夜は起こすな』と宣う氏政でしたが、布団の中で思わずニンマリ。これは嬉しくて朝まで眠れないパターンですね、判ります。氏政可愛い。超可愛い。


2.いい人

滝川一益の敗戦に乗じて、沼田城を奪還した昌幸ですが、おばばさまの所在は不明。第一義は沼田の戦略的価値を重んじての奪還でしょうが、救出作戦としては完全無欠の落第点。人質の所在を確認しないで掌返すとか、迂闊にも程があります。終盤の信繁との会話でわしも勘だけで生きておるとドヤ顔で宣言したように、本作の昌幸は知恵を巡らして成功を収めるのではなく、知恵はあっても何処か抜けている人物として描かれる模様。それこそ、

滝川一益「岩櫃と沼田の城のことだが……二つともお主に返そうと思う」
真田昌幸(やべぇ、やべぇよ、早まったよ)

の件は最高に笑った。この一益と昌幸の会話劇は普通に見ると結構名シーンなんですよ。台詞の選択も俳優の演技もハイレベルで、稀代の名将二人が心の底から別れを惜しんでいるようにしか見えない。神流川の戦いに敗れた一益を昌幸が諏訪まで送り届けたという史実を鑑みると充分に大河ドラマっぽい内容なんですが、そこに昌幸の勇み足という要素が加わると、名シーンが途端にシニカル極まるギャグシーンに早変わり。見ているだけで込みあげる笑いを抑えるのに往生しました。ホンマ、三谷さんは根性悪だわ、いい意味で。このように史実への義理を果たしたうえで自分なりの創作を加えてくる姿勢は大好き。八重ちゃんの時のように見たくもない現実を穿り返す作風も嫌いじゃないですが。


3.蛙の子

信繁による人質奪還作戦も大いに笑わせて頂きました。尤も、コメディに至るまでの流れはそれなりにシリアスで信繁の知恵者ぶりが窺える内容になっているのがポイント。単なる悪ふざけのコメディではなく、足の汚れ具合で相手の所属のアタリをつけたり、握り飯の在処といった細かな情報を盛り込むことで、嘘を真実と思わせようとする信繁の才子っぷりが描かれていました。まぁ、三谷さんの場合は、このテの描写が度を越すケースがあるので油断できないんですけれども、兎に角、スラスラと嘘が口をついて出る辺り、信繁と昌幸が似た者親子であることを示す描写なのでしょう。
策士が策に溺れるのも似た者親子の証明。一方には一益直属兵と名乗り、もう一方には小諸城の守備兵と称したツケが回ってくるシーンなんざ、まさに三谷喜劇の真骨頂でした。『有頂天ホテル』で別れた奥さんに見栄を張る副支配人、或いは『古畑任三郎』で玉置浩二さんが演じた殺人犯そのまんまじゃないですか。こういう話ほんとすこ。しかも、信繁の足を引っ張ったのは信繁本人がダ○タ○ソーで買ってきた安物の櫛ですからね。まさに因果応報。


4.CV:富司純子さん

とり「源二郎、諦めてはなりません。望みを捨てなかった者のみに方途は開ける。婆がいうのだから、間違いはない!」

真田昌幸を凌ぐかも知れない曲者・木曽義昌にビンタを喰らわせるなどの婆さん無双という大河ドラマの新境地を開拓したおばばさま。後年の信繁の最期まで諦めない姿勢を叩き込んだのはこの御方でしたか。武田に信濃を逐われても決して諦めることなく、逆に武田に属する形で信濃に返り咲いた真田幸隆の妻らしい台詞なのですが、信繁のお兄ちゃんとしては人間諦めも肝心だぞと説いて聞かせて欲しかったのではないかと思います。信幸の声は聞こえないフリをする点といい、お兄ちゃんに当たりが厳しい。上記の台詞は何処かで似たようなシチュエーションを見た覚えがあると考えていましたが、

あんたならできるよ

この人じゃないですか。『諦めなさんな、諦めないことは肝心だよ』という台詞が何度もありましたからね。陣内家は経歴といい、屋敷の場所といい、真田家がモデルですから、ひょっとすると、この台詞は『サマウォ』へのオマージュかも。木曽義昌もビンタで済んでよかったのかも。栄おばあちゃんでしたら『今ここで死ね!』といいながら、薙刀振り回しかねないので。


5.人として軸がブレている

真田昌幸「真田は決して北条に寝返ることはありません! 真田は上杉の兵でござる! 共に力をあわせて、北条から信濃を守りましょうぞ!」
上杉景勝「真田安房守、共に北条と戦おうぞ!」


真田昌幸(春日信達に)上杉を裏切るよう仕向けるのじゃ。北条に寝返らせる」
真田信繁「……父上の仰っていることは判りませぬ」
真田昌幸「わしが北条につく時の手土産よ」


おぉう、これはひどい。

上杉の御膝元の人間としては、どう贔屓目に見ても引き攣った笑いを禁じ得ない昌幸の策略。岩櫃にいる信幸が聞いたら、本気で景勝に『アンタ、騙されていますよ!』と注進しかねないレベルでした。どう足掻いても外道。まぁ、先々回で『義のない戦いはしない』とかいいつつ、織田勢が駆逐されると即座に北信地方にチョッカイかけてきた上杉さんも大概なんですが。信幸と違い、昌幸の計略を聞いて目を輝かせる辺り、やはり、信繁はお兄ちゃんよりも父親似のようですね。しかし、源二郎。君は数年後、その上杉家に人質にいかされるんやで……守れない、この笑顔。
他に印象に残ったのは昌幸による兄弟評。これ、単純に信幸・信繁の比較であると同時に、史実と創作の塩梅についての三谷さんなりの意見ではないかと思いました。『信幸は間違いが少ないが、クソ真面目で面白くない。面白くなければ人はついてこない』というのは『史実に忠実とかやっても、ウケなきゃ意味がねーんだよ! 勿論、真面目な考察は大事だよ! でも、面白くなきゃ、誰も見てくれねーんだよ! まずは面白さ第一主義だよ!』という宣言かと。そう考えると、この先暫くはお兄ちゃん=史実パート、信繁=創作パートという具合に兄弟それぞれに役割が分担されていくのではないでしょうか。その分かれ道が再び交錯するのが犬伏辺りではないかと予想してみます。


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