川口健作「出世に興味のない人間は、他人の家にズカズカと他人の家に土足であがり込んでくる……『家族』ですよ。結局、人間は『家族』に行き着く。私は少し遅過ぎましたがね。警察をやめて一つ、判ったことがあります。『罪は暴かないほうが幸せだ』ということも、ある」
この台詞を聞いて、
『葉公、孔子に語りて曰く、吾が党に直躬なる者あり。其の父、羊を攘みて、子これを証す。孔子曰く、吾が党の直き者は是れに異なり。父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。直きこと、其の内に在り』
この一文を思い出した方もおられると思います。私は『沈黙の艦隊』で知ったんだったかなぁ。海原渉は『家族に対する信頼がなければ、その社会はバラバラになる』という意味で使っていましたが、孔子は家族の犯罪を隠すことを『正直』と評してはいても、それが『正しい』とは主張していないんですよね。政治家を志しながらも、遂に諸侯から重用されることのなかった孔子の理想と現実に対する鬱屈が、この一文に表れているのではないでしょうか。尤も、国民全員が罪を犯した家族を平然と官憲に突き出す社会は、一種のディストピアではないかと思ってしまうのも事実。結局は程度の問題なんでしょうけれども、家族の犯罪でも容赦なく告発せよと主張する杉下の為人は、意外とディストピアの官憲がお似合いなのかも知れません。コイツはシビュラシステムの一員になっていても違和感ないからなぁ。
さて、今年最後の『相棒』も先回に続いて、まずまずの出来栄え。先回の詰め込み過ぎ感とは真逆に、@ひと押し感は拭えないものの、ミクロな犯罪に潜むマクロな闇……と見せかけての、更にミクロな影という構図は『相棒』の定番ですね。冒頭に記した台詞からも判るように、特命係と対立する存在が揺るぎない信念を有する回は面白くなるものです。相棒が神戸の頃、つまり、本シリーズでも特に政治色の濃かった時期でしたら、ここから更に捻って、叩いて、引き伸ばして、いい意味で救いようのないオチが待っていたと思いますが、もうすぐ新年を迎えようかという時期に鬱展開を見せられるのは昨年で懲りたので、このくらいが丁度いいのではないでしょうか。
とはいえ、ラストシーンで神田ひなたが楽しそうに外出する場面に多少の違和感を覚えなくもありません。父親や祖父のしたことは充分に犯罪と呼ぶに足る行動であり、世間体を考えると、あんなに安穏としていられる状況ではないと思うのですが……それとも、杉下が珍しく、内々で処理する気になったのか。年の瀬なので、たまには人間らしいことをしてみたくなったのかも知れません。鬼の霍乱か。
残りは雑感。
まずは角田課長。登場早々に狙撃を受けて退場となりました。防弾チョッキを着ていたとはいえ、本作の登場人物が狙撃されるのは珍しいですね。今までメインキャラで狙撃されたのは杉下と刑事部長と芹沢君くらいか。中盤、シレッと特命係に現れるかと期待していたのですが、そのままフェードアウト。大木と小松のほうが出番も台詞も多かったな。
次は官房長の名前の読みが『きみあき』であったというレベルの衝撃の事実。遂にエルドビア共和国の位置が判明しました! 中南米、それも、コロンビアの東隣という設定です。勿論、現実のコロンビアの東に国はないので、本作が現実世界のパラレルワールドか、或いは西ノ島新島のように急激に隆起した陸地に生まれた国という設定のどちらかでしょう。何れにせよ、カイト君の頃に頻繁に用いられた『東国』と違い、架空の国の位置が出たのは珍しいかも。
そして、苦言が一つ。流石に入ったことのない部屋のスイッチの位置を知ってる知らないで犯人決めるのよそーぜ。アカラマサ過ぎて引くレベルでした。むしろ、ひなたちゃんのお母さんが左利きであったのが気になりました。私も左利きなので、こういう描写に敏感なのよね。このあと、傷害乃至は殺人事件が起こって、犯人は左利きで、お母さんが犯人という流れになるのかと思ってしまいましたよ。そういえば、今回は珍しく、人死にが出ない内容でした。まぁ、年の瀬だからね。多少はね。
一番印象に残ったのはイタミンの杉下評。
伊丹憲一「こちら、出世には興味のない方なので」
評価そのものには異論はありませんが、かくいうイタミンも出世に興味のない人間なので、見ていておまえがいうなと突っ込んだ視聴者も多いと思います。今回は上とガッツンガッツン戦ってくれるかなぁと期待できるシチュエーションであった分、些か残念。とはいえ、出世に興味がない=家族がいない=他人の秘密を容赦なく暴くというロジックを考えると、イタミンも杉下に負けず劣らず、名探偵の資質があるということになるのか。
次回は一週お休みを挟んでの元日SP。コメント欄で頂いた情報から、三浦さんの再登場を楽しみにしていたのですが、予告は本多篤人の復活推し! いや、三浦さんメインのほのぼの正月ストーリーでいいんじゃないですかね? それっくらい、このシリーズに貢献してきたキャラクターですので……と思いましたが、よく考えたら、本多も神戸が杉下とギスギス相棒生活をしていた頃からのキャラクターなんだよなぁ。予告を見ると『バベルの塔』を思わせる内容ではないかと想像してしまいますが……ここ数年の元日SPは『アリス』以降は微妙な内容が多いので、前半の不振を挽回するためにも頑張って欲しいですね。そして、万全の態勢から陣川君回に繋いで欲しいものです。
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