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『思い出のマーニー』感想(ネタバレ有)

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佐々木杏奈「この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって……この人たちは内側の人間。そして、私は外側の人間。でも、そんなのはどうでもいいの。私は、私がキライ」

痛い、痛い、心が痛い。

これ、本当にスタジオジブリの作品なの? 『わたモテ』じゃないの? 超恥ずかしい。いや、作品が恥ずかしいんじゃないのよ。杏奈と似たようなことを考えていた昔の自分が恥ずかしいのよ。ちょっと内向的な思春期を過ごした人であれば、程度の差こそあれ、杏奈と同じように考えたことがあるんじゃないでしょうか。この台詞の前後で自分の得意としている画を『内側の人間』である先生に見て貰えそうになって、嬉し気な表情を浮かべる。直後に子供が転んだ所為で先生との接点が切れて、そこでストレス性の喘息の発作を起こすのですが、この流れが最高にイタイ。本当は他人に画を見て貰いたいという欲求と、自分が定義した世界観との齟齬。『内側の人間』に媚びようとした自分に対する嫌気がストレスの原因なんですよ。この辺も『ほれ見ろ。他人に甘い期待をするから痛い目に遭う』というもこっちの声が聞こえてくるようでした。

そんなワケで冒頭から鋭い鉤爪でガッチリと心を鷲掴みにされた『思い出のマーニー』。都合三回は見直したかな。感想書くための分析という動機もありますが、それ以上に本作には繰り返しの視聴に耐え得る構造の強さがありました。寧ろ、初見よりも二度目の視聴のほうが面白い。理由としては本作が『ファンタジーの皮を被ったミステリ』であるからでしょう。作中では不思議なコトなんて何一つ起きていないんですよ。殆ど理論上説明できる現象ばかりです。マーニーとのダンスシーンで杏奈は大岩のおばちゃんに抱っこされているし、サイロで上着をかけあうシーンは助けに来た少年に上着をかけられている。幻想とリアルがキチンとリンクしている。
偶然の不思議はあっても、ファンタジーの不思議はない。
本作は偶然に端を発したリアルな謎解きの物語なんですね。ジュヴナイルと新本格ミステリの融合とでもいいますか。マーニーの存在一つとっても、いるように見せかけて実はいない……と思わせておいて、本当は存在するという罠が仕掛けられていましたからね。やはり、ミステリの文法です。それゆえ、二度目のほうが全体の構造を把握しやすいし、マーニーの台詞の真意に涙することもできます。本作は絶対に二度見がオススメ。
しかし、謎解きという形式ゆえか、本作の構成は複雑怪奇で今でも整理できていない事象が多過ぎるので、今回は一番気になった点に私なりの解釈を施すに留めようと思います。

『杏奈はマーニーの正体に何時気づいたのか?』

素直に受け取るとラストシーン直前の写真で気づいたワケですが、もっと前から杏奈はマーニーの正体に無意識で気づいていたと私は思います。
結局、杏奈の鬱屈は自分の出自に端を発している。自分が養子であること、正確には養母が自分を養うために自治体から補助金を受け取っていることを知った所為で、養母の自分に対する愛情に疑念を抱いてしまっている。更に遡ると、その基底には自分を置いて他界してしまった両親や祖母への怨み辛みがあるのも作中で描かれていた通りです。
さて、上記の補助金の件の直後、頼子さんは杏奈に色鉛筆をプレゼントしています。でも、本編で描かれているように、作中の杏奈の画はデッサンが殆ど。これは『自分を育てるために養母が他人から受け取った金銭で買った色鉛筆なんか使いたくない』という鬱屈の表れなのでしょう。それでも、杏奈がマーニーの正体を知ったあと、EDロールで登場するマーニーの画は綺麗にペインティングしてありました。これは『自分は養母にも祖母にも愛されていた』と理解したゆえの変化に見えますが、実は杏奈がペインティングをしたのは、マーニーの画が最初ではありません。キチンとした理由があるとはいえ、杏奈の存在ガン無視&サイロに置き去りというトラウマ級の仕打ちを仕出かしたマーニーを杏奈が許した直後、頼子さん宛に出そうとしていた手紙の画もキチンと彩色されていました。
つまり、この時点で杏奈は己の鬱屈の源である自分を置き去りにした人間への蟠りを昇華しているのです。勿論、自分を置き去りにした人間の第一戦犯とは祖母であり、同時にマーニーなので、マーニーを許したということは祖母も許したということになる。逆にいうと祖母を許さないかぎり、杏奈は己の鬱屈を解消したとはいえない=自分の画をペインティングする理由がないんですね。この辺、杏奈が自分の意識と記憶を何処まで把握しているのかという線引きがない……というか、そんなものがあったら本作は成立しないのですが、杏奈がマーニーの正体を無意識に自覚していなければ、色鉛筆を使ったりしないと思うので、やはり、写真を見るより先に杏奈はマーニーが誰かに気づいていたのだと考えるのが筋ではないかと。

この他にも様々な謎や仕掛けが随所に盛り込まれているので、この先、何度も見返す作品だと思います。特に今でも結論が出ていないのは大岩さん夫婦の扱いかなぁ。マーニーに大岩さん家の生活を尋ねられた杏奈が急にいなくなるという場面は、私の中で解釈が多過ぎるのよ。一番有力なのは、大岩さん夫婦は杏奈に過度の介入をしない代わりに特に気に掛けてもくれないことに杏奈が気づいたのではないかと思うのですが……何方か、解釈プリーズ。

あ、吹き替え陣は可もなく不可もなし。ジブリの作品はあれくらいで丁度いいのかも知れません。個人的にはマーニーを演じた有村架純さんの声が微妙に老けて聞こえたのがツボ。勿論、マーニーの正体を考えるとプラスの作用です。ちなみにマーニーの母親は甲斐田裕子さん。『ダウントン・アビー』で聴き慣れている所為か、一発で判ったよ。逆に全く気づかなかったのは大泉洋。いや、知ってしまうと善くも悪くも大泉さんにしか聞こえないんですが、何で気づかなかったのか。そして、一言しか台詞がない十一を演じたのは安田顕氏。『アオイホノオ』で庵野ヒデアキを演じていたことを思うとアイツに台詞を喋らせるなという『風立ちぬ』に対する批判に思えてならない。まぁ、米林さんがジブリ在籍中の作品なので、流石にそんなワケはないでしょうが。

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