甲斐享「杉下さんは正しいかも知れない……だけど、正しければそれでいいんですか?」
亀山薫「うん」(即答
神戸尊「気づくの遅いよね」
小野田公顕「いいんじゃない? アイツを真似ちゃいけないという教訓になったでしょ?」
物語の出だしの割に恐ろしく重い内容になった第5話。杉下お得意の正義の暴走が如何なく描かれていました。暴いても誰も得をしない秘密を四方八方に吹聴して回る姿は実に杉下。もう、ドン・キホーテ型やハムレット型、ジャンヌ型、カルメン型といった一定のキャラクターの類型項目に『杉下型』というのを加えて、世界の共通認識にしたほうがいいと思う。
ダンカンさんの司法取引の条件が、孫へのプレゼントに贈った靴下が強盗殺人で手に入れたものだということを隠すためというのは一見、動機としては薄弱に思えるんですけれども、それが後半で杉下の正義の暴走を象徴するアイテムになっていました。言葉は悪いですが、たかが靴下の秘密を暴いて何になる、と。その所為でどれほどの人間が露頭に迷い、心に傷を負ったことか。ラストでカイト君がダンカンさんの息女さん親子に『気持ちが晴れた』と御礼をいわれましたが、あれ、全然いい場面じゃありませんから。要するに杉下のしたことは気休めにしかなっていませんという痛烈な批判ですから。死んだ真犯人もダンカンさんも、杉下のおかげで胸のつかえが取れたのは確かとはいえ、結局はそれだけのことなんですね。社会的に何か貢献したワケではない。しかし、それでも真実を追求するのが杉下。後半、他人の迷惑顧みず、能面のような無表情を湛えて捜査に没頭するさまはヒールそのものでした。だが、それがいい。
『相棒』は杉下が善玉じゃダメなんですよ。
いや、確かに下種極まる殺人犯が相手の時は、そのかぎりではありませんが、社会派の面を主軸にする場合は、視聴者が犯人役に肩入れしたくなるくらいのほうが絶対に面白い。今回のように『何もそこまでやらなくても』と思うほどに犯人が杉下に追い詰められるか、或いは杉下の言い分よりも犯人側の主張が大人な考え方(正しいワケではない)のほうが見応えがある。その意味で今回は杉下に関しては満点です。遺留品の毛髪と病死した真犯人の血液をDNA鑑定することでダンカンさんの冤罪を立証しようとする試みも流石。これで犯人を立証するのは難しいですが、冤罪を晴らすには充分でしょう。少なくとも、現場に被害者とダンカンさん以外の第三者がいたワケですから、ダンカンさんを犯人とするに合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証を、警察と検察が欠いたといわざるを得ない。杉下は警察辞めてもヤメ検ならぬヤメ警弁護士として充分食っていけそうです。
一方で些か精彩を欠いたのがカイト君。杉下の正義の暴走はシーズン11の前半で一度経験したものの、あれは結構軽目のジャブでしたからねぇ。今回は重い重いボディブローを喰らい、杉下の先鋭的な正義についていくこともできず、そうかといって、父親のように組織保全と最大多数の最大幸福に奔走する覚悟もない。日頃からケツ洗い(裏の取れた事件の再調査)には慣れているカイト君ですが、それが恩人のものとなると尻込みしていましたなぁ。まぁ、若さでしょうかね。亀山のように杉下と自分の間に落としどころを見つけるか、神戸のように杉下が握っている証拠を黙って削除するか、今回の事件で自分なりの杉下に対する身の処し方を見つけておかないとイカンですな。でも、全部が全部ダメなワケではなくて、自分が退職に追い込んでしまった恩人に会いにいった時、カイト君は頭を下げなかった。あれはギリギリのラインで自分がしたことを判っている証拠ですね。あそこでカイト君が頭を下げたら、相手は『謝るくらいなら、最初からやるな!』といいたくなるでしょうし。
しかし、一つ気になったのが、恩人のケツ洗いという点でもそうなんですが、今回の内容は杉下と亀山が事実上の袂を分かった『最後の砦』をベースにしていることですね。あの時は取調監督官、今回は取調可視化の問題。何気に共通点が多いし、タイトルも似ているので、絶対に意識した製作された筈です。そうなるとカイト君が亀山のように杉下の元を去ってしまう前フリと考えられなくもないワケで……卒業は歴代の相棒も経験してきたことですが、せめて、杉下と対等に渡りあえるようになってからにして欲しいですね。或いは戻ってきた神戸とカイト君で新設特命係をやるとか。
ダンカンさんのキャラの掘り下げが薄かったりと、細かい場面では苦情はあるけれども、概ね満足できた今週の一言は、
月本幸子「あ、ビール切らしちゃった。ちょっと裏からビール取ってきますね」
こんなに空気の読める女性が何であんなに過酷な半生を過ごさなければいけなかったのか……これだけ空気が読めれば、ある程度の危険は事前に察知できそうなものですが。それとも、特命係に出会って、人間として開花したのでしょうか。いずれにせよ、今回一番のファインプレー場面。
上記のように今回は面白かったとはいえ、事前の予想よりも遥かに重い話になったので、些か傷食気味。BSで放送中の『名探偵モンク』でバランス取ってから寝ます。今夜はチンパンジーに殺人疑惑がかかるという、何とも珍妙な話ですからねぇ。ストットルマイヤー警部がチンパンジーを挑発する場面は笑いとハラハラを同時に味わえる名場面です。
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亀山薫「うん」(即答
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小野田公顕「いいんじゃない? アイツを真似ちゃいけないという教訓になったでしょ?」
物語の出だしの割に恐ろしく重い内容になった第5話。杉下お得意の正義の暴走が如何なく描かれていました。暴いても誰も得をしない秘密を四方八方に吹聴して回る姿は実に杉下。もう、ドン・キホーテ型やハムレット型、ジャンヌ型、カルメン型といった一定のキャラクターの類型項目に『杉下型』というのを加えて、世界の共通認識にしたほうがいいと思う。
ダンカンさんの司法取引の条件が、孫へのプレゼントに贈った靴下が強盗殺人で手に入れたものだということを隠すためというのは一見、動機としては薄弱に思えるんですけれども、それが後半で杉下の正義の暴走を象徴するアイテムになっていました。言葉は悪いですが、たかが靴下の秘密を暴いて何になる、と。その所為でどれほどの人間が露頭に迷い、心に傷を負ったことか。ラストでカイト君がダンカンさんの息女さん親子に『気持ちが晴れた』と御礼をいわれましたが、あれ、全然いい場面じゃありませんから。要するに杉下のしたことは気休めにしかなっていませんという痛烈な批判ですから。死んだ真犯人もダンカンさんも、杉下のおかげで胸のつかえが取れたのは確かとはいえ、結局はそれだけのことなんですね。社会的に何か貢献したワケではない。しかし、それでも真実を追求するのが杉下。後半、他人の迷惑顧みず、能面のような無表情を湛えて捜査に没頭するさまはヒールそのものでした。だが、それがいい。
『相棒』は杉下が善玉じゃダメなんですよ。
いや、確かに下種極まる殺人犯が相手の時は、そのかぎりではありませんが、社会派の面を主軸にする場合は、視聴者が犯人役に肩入れしたくなるくらいのほうが絶対に面白い。今回のように『何もそこまでやらなくても』と思うほどに犯人が杉下に追い詰められるか、或いは杉下の言い分よりも犯人側の主張が大人な考え方(正しいワケではない)のほうが見応えがある。その意味で今回は杉下に関しては満点です。遺留品の毛髪と病死した真犯人の血液をDNA鑑定することでダンカンさんの冤罪を立証しようとする試みも流石。これで犯人を立証するのは難しいですが、冤罪を晴らすには充分でしょう。少なくとも、現場に被害者とダンカンさん以外の第三者がいたワケですから、ダンカンさんを犯人とするに合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証を、警察と検察が欠いたといわざるを得ない。杉下は警察辞めてもヤメ検ならぬヤメ警弁護士として充分食っていけそうです。
一方で些か精彩を欠いたのがカイト君。杉下の正義の暴走はシーズン11の前半で一度経験したものの、あれは結構軽目のジャブでしたからねぇ。今回は重い重いボディブローを喰らい、杉下の先鋭的な正義についていくこともできず、そうかといって、父親のように組織保全と最大多数の最大幸福に奔走する覚悟もない。日頃からケツ洗い(裏の取れた事件の再調査)には慣れているカイト君ですが、それが恩人のものとなると尻込みしていましたなぁ。まぁ、若さでしょうかね。亀山のように杉下と自分の間に落としどころを見つけるか、神戸のように杉下が握っている証拠を黙って削除するか、今回の事件で自分なりの杉下に対する身の処し方を見つけておかないとイカンですな。でも、全部が全部ダメなワケではなくて、自分が退職に追い込んでしまった恩人に会いにいった時、カイト君は頭を下げなかった。あれはギリギリのラインで自分がしたことを判っている証拠ですね。あそこでカイト君が頭を下げたら、相手は『謝るくらいなら、最初からやるな!』といいたくなるでしょうし。
しかし、一つ気になったのが、恩人のケツ洗いという点でもそうなんですが、今回の内容は杉下と亀山が事実上の袂を分かった『最後の砦』をベースにしていることですね。あの時は取調監督官、今回は取調可視化の問題。何気に共通点が多いし、タイトルも似ているので、絶対に意識した製作された筈です。そうなるとカイト君が亀山のように杉下の元を去ってしまう前フリと考えられなくもないワケで……卒業は歴代の相棒も経験してきたことですが、せめて、杉下と対等に渡りあえるようになってからにして欲しいですね。或いは戻ってきた神戸とカイト君で新設特命係をやるとか。
ダンカンさんのキャラの掘り下げが薄かったりと、細かい場面では苦情はあるけれども、概ね満足できた今週の一言は、
月本幸子「あ、ビール切らしちゃった。ちょっと裏からビール取ってきますね」
こんなに空気の読める女性が何であんなに過酷な半生を過ごさなければいけなかったのか……これだけ空気が読めれば、ある程度の危険は事前に察知できそうなものですが。それとも、特命係に出会って、人間として開花したのでしょうか。いずれにせよ、今回一番のファインプレー場面。
上記のように今回は面白かったとはいえ、事前の予想よりも遥かに重い話になったので、些か傷食気味。BSで放送中の『名探偵モンク』でバランス取ってから寝ます。今夜はチンパンジーに殺人疑惑がかかるという、何とも珍妙な話ですからねぇ。ストットルマイヤー警部がチンパンジーを挑発する場面は笑いとハラハラを同時に味わえる名場面です。
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