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相棒劇場版3『巨大密室! 特命係絶海の孤島へ』感想(ネタバレ有)

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神室司「俺はテロリストじゃない!」


テロリストは皆、そういうよ。


犯罪者が『私は怪しい者じゃありません』というようなもんです。そもそも、普通の人間は自分を怪しいと思っていないので、そういう言葉は出てきませんからね。語るに落ちるとはまさにこのこと。『成功したテロリストは革命家と呼ばれる』くらいの大法螺を吹いて欲しかった。

さて、今回の劇場版は特別に面白いワケではなかった。舞台が絶海の孤島ということで一種の嵐の山荘を期待したのですが(実際、そういう前フリっぽい場面が沢山あったし)、後半に入るとヘリで行き来しちゃったりなので、密室でも何でもなかった。この点、劇場版第2弾の警視庁の一番長い夜という煽り文句の偽り感に近いものがあった。ミステリとしては失格。時系列上の矛盾から犯人を特定した去年の劇場版コナンのほうが出来がよかった。

でも、単純につまらないと斬り捨てることもできませんでした。途中から結構のめり込んで観てしまいましたのでね。色々と理由を考えるとメッセージの伝え方が巧かったのかなぁという結論に達しました。一番巧いなぁと思ったのが、


馬のヤマト君


ですね。彼が本作の最重要生物です。彼というのは多分、牡だから。牝馬だとすればまほろちゃんになった筈。上記の神室は落馬事故が契機で退役したにも拘わらず、ヤマト君が大好きと公言して憚らない。実際、自分で彼の蹄鉄を交換してやったりとマメマメシク世話を焼いている。でも、イザ、自分の身に危機が迫ると都合の悪いことの一切合財をヤマト君に擦りつけて、自らは口を拭って知らんぷり。結局、ラストまで神室がヤマト君に濡れ衣を着せたことについての詫びの言葉は出てきませんでした。馬優先主義のプロフェッサーオカベやウィニングランすらも馬の負担になるといって走らせないライスシャワーの相棒マトバさんには遠く及ばないものの、馬が(走るのも賭けるのも食べるのも)大好きな私にとっては違和感バリバリの言動です。つまり、コイツはヤマト君をハナから愛しちゃいないんですよ。本当にヤマト君を愛していれば、彼を隠れ蓑にして犯罪を仕出かそうなんて考える筈がない。そして、ヤマト君は何のメタファーかと考えると、名前通り、ストレートに【禁則事項です】なワケですね。ま、これ以上は生臭い話になるのでアレですが、つまりはそーゆーことかと。『俺はヤマト君を愛している』なんて台詞を軽々しく口にする奴には用心しましょーということかと。


もう一つ、非常によかったのが本作なりの近年流行の思想戦に対する結論の描き方。相棒シリーズなので主人公は当然、杉下右京なのですが、今回の杉下はハッキリいってチェスの駒に過ぎません。神戸にいいように使われただけ。更にいうと終盤の拘置所における神室との論戦も、


神室司「ブヨ!」

杉下右京「ネトヨ!」


の域を出ていない。でも、それも当然で、上記のように今回の杉下はあくまでも駒。話の本筋を担わされていないんです。杉下の言葉は本作のメッセージではないと考えるべきでしょう。じゃあ、誰が本作のメインメッセンジャーかといえば実質的に〆を飾ったカイトパパなんですよ(杉下とカイトは主人公なのでラストに登場しただけ)。国家を守るというのは、それを動かす組織の中でやるものだ。そして、過ちを犯した時には自浄作用のあることを示し、国民や諸外国の信用を勝ち取り、実績を示してゆくことだ。時に気に入らない政治家に頭を下げて、でも、決して言質を取られないように当初の目的を果たすことだ。短絡的・非合法的な手段で正義を実行するという神室の意見も、人間の善意に期待するという甘っちょろい夢想に奔った杉下の見解も、カイトパパにいわせれば臍で茶を沸かすアマチュアディベートに等しい。


「正義? 信念? アホくさ! そんなもんで何が守れるんだ! 組織における地位と実績が政治や国際社会の真理なんだよ!」


というカイトパパの高笑いが聞こえてきそうでしたよ。実際、本作で誰が一番日本の平和に貢献したかといえばカイトパパとトオルさんでしたからね。そんなワケで今回の主人公はカイトパパ。異論は認めない。極厚の湿った真綿を思わせる、ぬるぬる&じめじめとした手強いキャラでした。何故、これが本編で出来なかったのかと小一時間t【繰り言です】


残りは小ネタ系。


① 神戸の再登場は純粋に嬉しかった! 亀山という先代あってのこととはいえ、やはり、杉下の相棒は神戸が一番似あっています。でも、神戸とカイトの絡みも面白かったなぁ。杉下が定年迎えたあとは神戸とカイトで特命係を継承していけばいいんじゃないかと。いい意味で水と油っぽいし。惜しむらくはカイトパパの使いっ走り感が拭えなかったこと。亡き官房長のように飄飄&堂々とカイトパパに接して欲しかったなぁ。


②三浦さんが現役中でした。トリオ・ザ・捜一再び。実質的な活躍は殆どなかったとはいえ、捜査一課は三人のほうが安定感あるなぁ。①と相反するようですが、将来的にはカイトが特命係で培ったモノを手土産に捜査一課に転属されるのかも。


③エルドビア内戦。劇場版の全ての始まりになったアレですが、カイトパパが現地にいたのか。これ、本編で放送されましたっけ? でも、納得。ユウジンガーとかコクボウガーとかいっている神室ですが、彼は結局は内戦や軍部の横暴を生で見たワケではない。その点、カイトパパは第三者とはいえ、肌で軍の負の側面を経験している。これもラストのカイトパパの発言に力を持たせました。今回、カイトパパ無双が過ぎるだろ。


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